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表書庫


  あかねさす Date: 2003-09-26 (Fri) 


綾なす雲の美しさ。
夕陽を絞り、染め上げた布を広げたように。
穏かな大気はその美しさを惜しむように、雲を宙に留め置く。


何を思うでもなく空を見上げていると、ふいに後ろから抱きすくめられた。
驚いて振り返ると、私よりも目を丸くしている。
それから少し困ったような表情で、

"急に怖くなった"と
"空に溶けて"
"消えてしまいそうだった"と

口篭もりながらそんなことを言う。


ただそれだけのことが―



この身を抱いてくれる人がいる。

この腕を引いてくれる手が、
この手をにぎりしめてくれる指が、
この目を見つめてくれる瞳が、

私の名を呼ぶ唇が、
私を必要としてくれる声がある。



誰に感謝すればよいのだろう。



私が私であることを、
私がここにいることを、


ただそれだけのことを―


何よりも嬉しく思う。
他愛なくも幸せな茜雲の下。



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