*については裏書庫に続きがあります。
表書庫
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雲を跳ねる魚 |
Date: 2003-09-26 (Fri) |
雲の合間にオレンジの髪が跳ねる。
それは真綿の中に投げ込まれた毛糸を思わせる動きで。
思いきりよくジャンプしたウェイバーは益々勢いを増して雲の中へと没する。
それでも視界から消えることのないオレンジ色。
―ったく、調子に乗りやがって―
先の見えない状況の中、呑気に雲海で遊ぶナミの姿を眺め、ゾロは苦々しく顔を顰め・・・ようとして失敗した。
それは楽しそうに雲と戯れるナミの表情は、ゾロの顔を自然ゆるませる。
―少し位ならかまやしねぇか―
遠ざかっていくナミを見送りながらゾロは思った。
どれほどの時がたったろう。
靴音に振りかえるゾロ。背後に立っていたのはロビンだった。
「見事なものね、彼女」
「あぁ」
反論することもない、ゾロは再び前を向く。
跳ね回るナミを見ながらゾロは短く応じた。
「見惚れてた?」
そうあまりにもさらりと聞くので、思わずゾロは肯定の返事をしそうになってギリギリで踏みとどまる。
ギリと顔を引き締めると肩越しにロビンを睨みつける。
「つまんねぇこと言ってると―」
厳しい視線にもロビンの表情は変わらない。
「・・・冗談だったのに」
瞬き二つで受け止めたあと、表情を隠して続ける。
「本気で見惚れてたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
答えはない。
ふと顔をほころばせるとロビンは踵を返す。
「迷子になったことにしてあげるから―」
緑色の頭から生えた腕がゾロの鼻の頭をツンと押す。
「顔を冷ましてからいらっしゃいね」
真赤な顔のままゾロはむっつりと海の方を向く。オレンジの魚が跳ねる海を。
終
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