少数お題集
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08.思う気持ちを <フランキー+ロビン> |
Date: 2008-03-21 |
闇はまだ中空に色濃く残っているが、水平線付近は藍に近い色に塗り替えられつつある。
早起き過ぎるカモメが一羽、サニー号を横切るようにして飛び去っていった。
夜通し続いた宴会は、限界を迎えた者から脱落していき、いつの間にかなし崩し的に終了していた。
酔いと疲労による気だるさに包まれながら、フランキーは左舷の柵にもたれ、刻々と色を変えていく海を眺めている。
永の居場所と定めていた地は既に遥か遠く。
今頃、アイツ等どうしてやがるか。
壊れたフランキーハウスはちゃんと直せたろうか。そう言えば、自分が居なくなった今、あそこをフランキーハウスと呼ぶのはおかしいか。
けれども、恐らくはあの気のいい子分達は、そう呼ぶのを止めないだろうとフランキーは思った。
全く馬鹿野郎ばっかだからよ。
フランキーの口元が弛み、肩を揺らす。微かに笑う声が海風に流れた。
その声はすぐに止み、けれど肩は小刻みに揺れたまま。サングラスを外したフランキーの目には、明けゆく海が妙に滲んで見えた。
「眠らなかったの?」
背後から聞こえてきたのは、目の前の海原のように穏やかな女の声だった。
慌てふためきながら、両の腕でぐしゃぐしゃと目元を拭い、フランキーはサングラスを掛けなおす。何でもない風を装って振り向けば、音もなく階段を上ってくるロビンの姿があった。
「見張りなしって訳にもいかねェだろう?」
「そう」
そう応じたロビンは、小首を傾げてじっとフランキーを見つめている。
「な・・・なんだってんだよ、オメェ」
「いいえ?」
ロビンがにこりと笑むと同時に、フランキーの頭から生えた手がひょいとサングラスを額にずらした。
「そんなに真っ赤な目で見張りができる?」
ぐっと息を飲んで固まったフランキーは、直後、ふんと顔を背けた。
「ほっとけ!!」
低く唸り、フランキーは乱暴にサングラスを掛けなおす。その赤らんだ顔を見て、ロビンはくすくすと笑い声を零した。
柔らかなその声に惹かれたように、フランキーは黙ってロビンを見つめた。
「どうかした?」
「いや」
フランキーがニヤと口元を歪ませる。
「そんな風にも笑えるんだと思ってよ」
ロビンから視線を外し、フランキーは海を眺める。
「一緒にとっ捕まってた時なんざ、蝋人形みてェな女だと思ってたからよ」
そうね、とロビンはフランキーの隣に佇み、海を見つめた。
「私も長いこと忘れていたわ。こんな風に笑えること」
「まァ、馬鹿な奴らに囲まれてたら、笑っちまうほかねェからな」
そうね、と見上げてくる笑顔は、たじろいでしまうほど眩しい。ついうっかり、精々馬鹿をやり続けようとフランキーに思わせたくらいに。
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