少数お題集
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02.空に溶ける <ナミ+ルフィ> |
Date: 2009-01-23 |
「右舷前方に何だ?・・・・やたら船がいるな・・・・って、ありゃあ、海軍だっ!!」
うららかな午後のひと時を引き裂いて、緊張感に満ちたウソップの怒鳴り声が見張り場から降り注いだ。
デッキチェアに寝そべっていたナミは、読んでいた本を放り投げて飛び起きる。
「数は!? こっちに気づいてる!?」
短く怒鳴り上げた声に、ウソップはゴーグルの照準をキリキリと合わせて、前を睨んだ。
「五・・・・・? いや、十はいる・・・・まだこっちにゃァ気づいてねェ・・・」
その声音に安堵を滲ませるまもなく、艦隊の全ての舳先が此方を向いた。
「くそっ!! 気づきやがった、やべェ!!」
戦うか逃げるか。
ナミは一気に階段を駆け上がる。海上に目をやれば、此方を狙っていることがあからさまな船団が既にナミの目にも確認できるようになっていた。
船団から目を離し、ナミは上空に視線を向けた。
逃げるべきか。戦うべきか。
見上げた空はこの緊張状態に全くそぐわない程に晴れ渡り、海はどこまでも凪いで穏やかだった。
潮の流れはこちらに不利だ。
背を向けたところで逃げきれる可能性は低い。
いずれ尻からの砲撃で足止めされ、囲まれる。
それならいっそ、突っ切るべきか。
どちらに張るにせよ、いずれ分の悪い賭には違いない。
キリと唇を噛んだナミの視界に、突如人影が飛び込んでくる。
ストンと目の前に舞い降りた人物は、勢い余って振り落としそうになった麦わらを慌てて右手で押さえると、ナミの隣に並んで船団を眺めた。
「どうだ?」
短い問いかけに、ナミは渋い表情で船長を見つめた。
「逃げきるのは難しいと思う。だからって―――」
戦うのも容易ではない、と言いさした瞬間、ルフィはさも楽しそうに口を開いた。
「じゃあ、いっちょ戦るか!!」
「そんな簡単に言うけど、アンタ!」
ルフィはナミをちらりとみやり、不安に曇るその顔面に、おもむろに大きく広げた手のひらを突きつける。
「・・・・何よ?」
「何か見えるか?」
ナミの目に映るのは、広げられた手のひらとその隙間からのぞく海と空だけだ。そうルフィに伝えると、ルフィはニヤリと笑う。
なら、と言ってルフィが、その手を握りしめれば、ナミの目には、まるで艦隊の全てを握りつぶしたように見えた。
「大した問題はねェだろ、な?」
その手で壊せぬものなどないとでも言いたいのか。
全く。
ナミは苦笑する。
何という天性のアジテーターだろう。
その手に掴めぬ未来などないと、つい思ってしまうのだから。
あらがいようもなく煽られ、どうしようもなく気分が高揚する。
「じゃあ、いっちょうやってあげましょうか!!」
「おうよ!」
心底楽しそうに応じた笑顔は、太陽と同じくくらいの眩しさで空へと溶けた。
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