■ 04. 風は知っている <(サン)ナミ / アブサロム戦後> | Date: 2008-12-09 |
開け放たれたままの扉。がらんどうの大部屋を前に、ナミは呆然と立ち尽くした。
七武海の名にふさわしい財宝が積まれていたことを思わせる広さの宝物庫には、今や空の箱と袋がわずかばかり転がっているだけだった。
吹き込む風に巻き上げられた埃が、侘しさに一層拍車をかける。
だが、予想外のことに呆けたのも一瞬のことで、ナミはきりりと唇を噛み締めると、見開いた大きな目に怒りを滲ませた。
冗談じゃないわよ!!
変態猛獣に裸を見られた上に舐め回されるわ、何の断りもなしにドレスを着せられるわ、挙句に唇まで奪われそうになる始末。
ご丁寧にも塗りなおされた爪先を、ナミはぎゅ、と握り込む。
ここにあるお宝根こそぎ頂いたって割に合わないってのに!
絶対に取り戻してやると決意を固めたその時、一際強い風が空の部屋へと吹き込んだ。
「きゃ!!」
舞い上がる埃にナミは思わず目を閉じる。
背に流れる長いヴェールが舞い上がり、肩口からふわりとナミの口元を覆った。
その瞬間、ナミの鼻腔をくすぐったのは微かな煙草の匂いだった。
それは、いつも海風が運んでくる、いつだって傍にある香り。
なるほどね。
変態猛獣男がただの一発で伸びてしまったのも頷ける。頷ける、が。
ナミは僅かに唇を尖らせる。
だったら、責任持って最後まで連れ出しなさいよね。
苦笑を浮かべて少しばかりむくれた顔が、つぎの瞬間にふ、と弛む。
なんだ。
安堵にも似た表情で、ナミ口元をほころばせた。
「一応、一番見せたかった人には見せられたのね。これ」
ひらり、とドレスの裾を摘まんで持ち上げ、呟いた直後、鳴り響く地響きに、ナミは我に返った。
何言ってんのよ、私。
無意識に零した、まるでそこらの小娘のような、あまりにも自分らしからぬ一言に、ナミは顔を赤くする。
誰も聞いてやしなかったでしょうね。
頬を染めたまま、あたふたと辺りを見回す。誰もいないことに安堵しかけたその時、開け放した扉が小さく軋んだ。
扉の影からそっと顔を覗かせたのは、リスの姿をした二体の小さなゾンビ。
「あら、丁度いいところに。ここにあったお宝は今どこにあるの? それと―――」
麗しの花嫁は、小首を傾げると、花のような微笑みをリスキー兄弟に向けた。
「さっき、何か聞いたかしら?」