少数お題集


  06.傍にいる代わり <ノジコ / ナミ手配後> Date: 2008-11-10 


大きな入道雲の白さを引き立たせる青空と、それを写し取ったような海原を眼下にノジコは一つ大きな伸びをし、口の中でよいしょと呟きながら地べたに腰を下ろした。
背負っていた大きな袋を肩から外すと、それを抱え込むようにして身体の前に置いた。
「ホントに可笑しいったら」
堪えきれないといった風で、ノジコはくすりと思い出し笑いをした。
「さっき、ゲンさんのとこに寄ったんだけどさ」
笑い顔のまま、ノジコは袋の向こうへと語りかける。
「信じらんない位に馬鹿でっかくした手配書、壁一面に貼り付けててね」
そう言いながらノジコはおもむろに袋の中に手を入れる。山盛りに入れてきたミカンもあらかたはけて、底の方に幾つか転がっているだけだった。
「入った瞬間、私の方が吃驚したわよ」
手探りで取り出したミカンの皮をおもむろに剥き、ノジコは一房を口の中に放り入れる。
「で、何を心配してるかと思ったら、悪い虫がつかないかだって」
そりゃね、とノジコは袋の中から折りたたまれた手配書を取り出して眺める。
「こんな写真、海軍に撮らせるほうもどうかと思うけどさ」
苦笑しながらノジコは立ち上がり、尻についた砂をポンポンと払う。
「ゲンさんたら、絶対にあの引き伸ばしポスター沢山作ってるわよ。何だか部屋んなかに大きい紙が丸められてたもの」
そう言いながらノジコは袋を傾ける。転がり出たミカンを二つ、手のひらで受け止める。
「帰り際にドクターが入れ替えに来てたけど、すっごいバツの悪そうな顔してたもの。あれは絶対にポスター貰いに来たのよね」
柔らかな風になびく手配書を、ノジコはそっと地面に置き、その上にそっとミカンを乗せた。
「アナタの娘は相変わらず皆に愛されてるよ」
微笑む手配書を見下ろす十字架の、その横で風車は今日も軽やかに回り続ける。

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