■ 07.潮騒を追って <ナミ / ウェザリアにて> | Date: 2009-02-08 |
海上はるか彼方の小さな空島に夜が訪れる。
何でこんなことに。
見知らぬ場所でたった一人。ナミはベッドの上で小さく身を縮込ませた。
寒いわけではなかったが、ナミは抱えた膝をますます引き寄せ、身体を丸くする。
僅かな衣擦れの音のあとに訪れたのは、再びの静寂だった。
皆で魚人島へと向かう筈だったのに。
どうして自分はこんなところに一人でいるのだろう。
七武海やら海軍大将らとの乱戦の後、どうしてか一人、空島に飛ばされていた。
まさかまた空に来るなんて。
どうせならスカイピアにでも飛ばしてくれればいいのに。
懐かしい顔をいくつか思いだし、ナミはクスリと笑みをこぼした。
どうかしたの? ナミ。
優しげなアルトの声が聞こえた気がして、ナミは俯けていた顔をはっと上げた。
いない。
誰も、いない。
認めたくない現実に、背筋が冷やりとする。
一旦、考え始めれば、思考は加速度をつけて悪い方向へと転落していく。
自分はこうして空島に飛ばされた。
けれど、他の皆は?
今、この瞬間に息をしているのが自分だけだったら?
胸の真ん中に大きな穴が開いてしまったような気がする。
狂おしいほどの孤独感にナミは苛まれてた。
一人には慣れていたはずだった。
幼い頃から一人で海に出、一人で盗み、一人で逃げ。
それが何てことのない長年の日常だった。
だから、こんな状況は何でもない、筈なのに。
ルフィの駆け回る足音がしない。
ゾロの高いびきが聞こえない。
サンジ君が揺らすフライパンの音も、ウソップの振るう金槌の音も、チョッパーがやらかした怪しい爆発音も、ロビンの微かな笑い声も、フランキーの妙なポーズをとる音も、ブルックの奏でるヴァイオリンの音色も。
空に浮かぶこの島には、波の音がない。
そして波と同じように寄せては返す、騒がしくも心休まる音がここにはない。
帰りたい。
帰りたくてたまらない。
ナミはスカートのポケットを探る。
取り出したのは小さな紙片。手のひらの上でそれはナミを急かすように、下へ下へと小刻みに揺れる。
ナミはその紙を強く握りしめた。
レイリーへと繋がるそれは小さいけれど、大きな希望だ。
ナミは思い浮かべる。スリラーバークで初めてくまと対峙した時のことを。
あの時、くまは目の前の女に「どこに行きたいか」と尋ねていた。
とすれば、消された先には自分のように到着点が設定されている可能性が高い。
ならばきっと今頃、皆この紙を眺めているに違いない。
けれど、あの連中の性格を考えれば、皆が皆素直に戻ってくるとは思えない。
とんでもない方向音痴もいることだし。
そんなことを考え、ナミは小さな笑みを浮かべる。
ここはやはり、誰より先に戻らないと。
下手したら探してやらなければならないし。
風をはらむサニーの帆を脳裏に描けば、不意に昼間見た不思議なロープのことが思い出された。
折角こんなところまで来たのだから、お土産変わりに頂戴していこうか。
全く、お前は――――
笑顔半分、呆れ半分といったクルーの声を思い浮かべながら、ナミはそっと目を閉じた。