少数お題集
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02.移ろいはやまずに <ナミ+ALL> |
Date: 2009-08-02 |
「今日も一日ご苦労サマ!!」
上機嫌のナミが掲げたジョッキを一気に飲み干す。夕暮れの甲板ではちょっとした祝勝会が開かれていた。
「アンタ達! 今日も私の為によく働いた!」
「いや、別にテメェの為じゃねェし」
ジョッキに向かってボソリと呟いたゾロの頭を軽快に殴り飛ばし、ナミは更に一杯を飲み干した。
その日の昼、久方ぶりにつっかかってきた海賊を一網打尽にし、積んであったお宝をありがたく根こそぎ頂戴してきたのだった。
「やー、やっぱおっかねェな。ナミは」
ニコニコと満面の笑みでそんなことを言うルフィとは対照的に、ウソップは昼の光景を思い出して身震いした。
金目のもの全部を運び出した後、ナミはにっこりと敵の船長に微笑みかけた。
「ちょっと、そこでジャンプしてみて?」
「は?」
誰しもが見蕩れるような笑顔のナミの前で、船長はしぶしぶその場で足を揃えて跳ねる。
その瞬間、男のポケットで微かな金属音がしたのをナミは聞き逃さなかった。
「全部出して?」
はい、と手を差し出すナミの、その目だけは笑っていなかった。
「涙目だったぞ、あん時の船長」
肩を竦めるウソップに、ナミが視線を走らせる。
「どうかした? ウソップ」
触らぬ神に祟りなし。ブルブルと首をふり、手にしたジョッキをあおった。
「あー、幸せ」
大分、酔いも進んできた頃、甲板に無造作に積まれたお宝にしな垂れかかり、ナミはうっとりと呟く。
「ここにあるどんな宝石にもナミさん、アナタ程の価値はない」
ジョッキのお代わりと、三点ほどのつまみを取り分けた小皿を持ったサンジが、そんな芝居がかった台詞で、ナミの足元に跪く。
あら、とナミは嬉しそうにサンジに笑いかける。
「じゃあ、私が貰っとくわね。ここにあるお宝全部」
「いや、ちょっと待て!」
天使のような微笑みに魅了されたサンジは、コクコクと頷くが、他の面々は一斉に異を唱えた。
「え? ダメ?」
「ダメに決まってんだろーが!」
場の勢いで、断固とした反意を口にしたウソップが、次の瞬間、ギクリと身を震わせた。
「仕方ないわね」
俯きながら低く呟き、ナミはゆらりと立ち上がる。
「ちょっと皆、集まって?」
どうにも逆らいがたい雰囲気に、皆、恐る恐るナミの前に整列する。
「じゃあ、これで」
すわ拳骨か、と固く目を瞑ったウソップの頬に柔らかいものが触れた。驚き、目を開ければ、そこには頬からそっと離れていく形のよい唇が見えた。
予想外の出来事に固まった一同の頬に、ナミは次々と唇を寄せる。
「じゃ、これが感謝の証ってことで」
ほんのりと赤い目でナミは微笑み、これで話はついたといった風で再びお宝にしなだれかかる。
そのままナミは、電池が切れたように寝息を立て始める。
「え? え? えぇっ!?」
残されたのは、状況を処理できずにうろたえる男達で、やがて、これでいい、よくないとサンジとゾロの間で取っ組み合いが始まる。
はァ、と溜息を一つつき、ウソップは安らかな表情で眠っているナミに目を向けた。
「いい気なもんだぜ、全く」
そう呟いた瞬間、眠っている筈のナミが薄く目をあける。驚いた顔のウソップを見て、ナミは小さくウインクをすると、そ知らぬ顔で再び目を瞑った。
全く、敵わねェよ。
ナミに関わる全ての男共に労いの思いを寄せ、ウソップは小さく笑いながらジョッキを掲げた。
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