少数お題集
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02.漣の調べ <サンジ+ナミ> |
Date: 2008-03-22 |
闇と霧の中ではいかにも恐ろしげに見えた森の木々も、日の光の下では何ということもなく、吹く風に気持ちよさ気に梢を揺らしている。
「こんなに綺麗な場所があるとは思わなかったわ」
屋敷の裏手で見つけた小さな泉の前でナミは足を止めた。
「例の"被害者の会"の連中が隠れ住んでた辺りかも」
サンジの言葉に、そうかもと応え、ナミは屋敷の方へと目を向けた。影を取り戻した喜びで、あれだけ騒がしかった声が今は聞こえない。恐らくは、午後の日差しの中で思う存分昼寝を楽しんでいるのだろう。
ナミは小さく笑い、サンジに声をかけた。
「ちょっとここで休んでってもいい?」
さっと地面に肩膝をつくと、サンジは左手を胸にあて、右手をナミに差し出した。
「ナミさんと一緒なら、ここで永遠の時を過ごしたって構わないとも」
「そういう訳にもいかないでしょ?」
斜めに針の沈むログポースを、ナミはとんとんと指で叩く。
「次はお待ちかねの魚人島なんだから」
その言葉に、サンジは途端に相好を崩し、しまりのない顔で胸の前で両手を広げた。
「そうだった! 人魚のオネーサマ達が俺を待ってるんだった!!」
感極まるといった風情で、そう言い放った後、我に返ったサンジは恐る恐るナミへと視線を向けた。
「・・・・・・いや・・・あの・・・」
物も言わずじっとサンジを見つめているナミを見て、サンジは冷や汗を垂らす。うろたえるサンジに、ナミは何やら余裕の笑みを見せた。
「でも、それだけじゃないでしょ?」
「へ?」
「サンジ君が魚人島に行きたい理由」
「オールブルーのこと、聞きたいんじゃない? 人の住むところよりは情報が集まりそうだし」
ナミの言葉にサンジが目を見張る。
「バレてました?」
「まぁね」
参った。
夢なんていう青臭いものにがっついている自分を見せるのが、どうにも気恥ずかしくて、今まで散々馬鹿をやってきたというのに。
そんな一切合切を見透かされていたとは。
じわじわと湧き上がってくる照れくささから、サンジはそそくさとナミから視線を外して泉を見つめる。
雲一つない青空を風が渡る。ざわめく木々に合わせるように、水面に波紋が広がる。
聞こえる音はそれだけ。何か気の利いたことを言おうにも、いつもなら苦もなく回る口がどうにも動かない。
サンジは、そっかと言ったきり黙って、手近にあった小石を泉に放った。
小さな水音をたてて飛び込んだ小石が、水面に幾つもの円を描いた。
葉ずれの音を供に、漣が踊る。
「サンジ君」
呼ぶ声に隣を見れば、ナミが真っ直ぐにサンジの目を見つめてくる。
「いつか私にオールブルーの海図を描かせてね」
「必ず」
ナミが投げ入れた石が、消えゆく円を追いかけるように新しい円を描いた。
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