+裏書庫+


  Siren Date: 2003-09-26 (Fri) 
*"Say Rain"続き*



聞かねぇ方が良かった事を聞いちまった夜は。
それ以上聞いても詮無き事だとたしなめる俺と。
それでも、答えを求める俺と。
答えを怖れる俺と。
俺の頭も心も支離滅裂という衣を被ったままで、ただ目の前の、彼女の唇を塞ぎ続けた。

「....っつ....ふっ...」
苦しげに彼女が眉根を寄せる。
当然だ。俺は完全に彼女の唇を包んでしまっている。

何も言わせないように。
何も考えさせないように。

僅かに唇を離すと、頬にあたる雨がやけに気に懸かる。
繋がっているときは、全然気にならなかったのに。

濡れた髪が頬に張りついて。
濡れた服が躰に張りついて。

俺には彼女がいつもより小さく見え、そのことが俺の不安を再び呼び覚ました。
彼女が消えちまうんじゃないかという思いを。

―渡さねぇよ、てめぇにはよぉ―
顔も名前も知らない、しかももうこの世にはいない男に俺は毒づいた。
何の意味もないことだとは分かっていながら。
そして俺は、荒い息を繰り返す彼女の胸元に手をかける。
上着のボタンが2、3弾け飛び、濡れた床の上で皮肉なほど澄んだ音をたてる。

「...やっ..サンジっ..」
驚きを孕んだ彼女の声。

―俺を拒むのは、あいつを想った夜だからか―
俺を打とうとする右手。反射的にそれを避け、俺は強く手首を握りしめる。
瞳に強い光をたたえて、抗う彼女。

―聞けばいいんだよ。答えをよ―
俺が言う。

―聞いて後悔する答えでもいいのかよ―
俺が言う。

思考のリングワンダリング。
俺は、彼女の頤に手をかけ、顔を背けさせると耳朶に軽く噛みつく。

「....んっ...」
ぴくりと躰が震え、途端に彼女の息が詰まる。
ほら、彼女の動きを止めることなんてこんなに簡単だ。

―カマワネェヨ...ワカラナイママデ―

波の音も、雨の音も聞こえない。
俺はその時、その声に、ただ従った。


柔らかな耳たぶを唇で挟んで軽く引く。
何度も何度も繰り返すと、雨と唾液に濡れゆく柔肉に、掴んだ右手に徐々に
ともる熱を感じることができる。
俺にはそれがとても心地よかった。

―このまま、溶けてなくなっちまえば..今日起こったこと全てが―
そんな事を考えながら、俺は彼女の耳裏に舌を滑らせ続けた。

「....んっ...くっ...」
躰を細かく震わせて、それでも彼女は声をつめる。
それは、今夜その男にたてた操なんだろうか。
今の俺は彼女の唇を開かせたかった。俺を感じているその声が聞きたかった。
雨に濡れ、光るその唇に自らの舌を挿れようと、身を屈める。

俺の力が弱まったその瞬間。
彼女は俺の手を振り払って、壁際へと後ずさる。
裂けた胸元を両手で覆って。

何なんだよ、この感情は。

―カマワネェヨ...ワカラナイママデ―

俺は、彼女に近づくと自らの両手でもって、彼女の細い手首を壁に打ちつける。
俺の指と彼女の背が壁にぶつかり、鈍い音をたてる。
彼女の口から小さなうめき声が聞こえた気がしたが、彼女の肩口だけを見つめている俺には、その表情は読めない。

両腕に力を込めて、何度も彼女は逃げ出そうとする。
ばたばた、ばたばた、と。

―逃げないでくれよ―
せめて抱きしめさせてくれれば。

―そして、俺を―
せめて俺を見つめてくれれば。

―俺を―


「俺を...助けてよ...ナミさん...」
俺を見上げる彼女。いつもより大きくな目で俺を見つめる。
今夜初めて、ようやく俺のことを見てくれたことに俺は安堵し、そして、それ以上に自分の発した言葉に戸惑っていた。

―助けて...だって―
自慢じゃねぇが、その言葉を口にしたことなんて、今まで数えるほどだ。
その大部分にしたってクソジジイと遭難した時だしな。

―俺が、年下のこの女性に助けを乞うってかよ―
自虐的な気分の中にも、俺はそいつの存在を認めざるを得なかった。
重く燻る醜い、さっきまでのもの思いが解放されるような気分を。

「・・・サンジ君...」
彼女が両手をそっと、俺の頬にあてる。
その手は、ついさっきの手と同じものだとは到底思えないほど温かだった。
そして、頬と同じ温もりが唇にも与えられる。

―てめぇを救う事ができるのは、てめぇだけだと思って俺は生きてきたんだ―
触れ合うだけの優しい口付け。神聖な儀式のような口付け。
―信仰心なんざ持つ奴はクソ馬鹿野郎だと思っていたが、少し改めるぜ―
俺を救ってくれる存在が確かにここにあった。
そっと唇を離すと、彼女は微笑む。全てを理解したかのような微笑み。

「このまま..抱いて...サンジ君...」
そっと腕を俺の頭に回してくる。
「そうしたら..きっと分かるから.....」

雨に打たれて、尚増した柔らかい感触と優しい香りに、俺は眩暈すら感じた。


その優しさにすがりつくように俺は彼女を抱きしめる。
その温かさに思わず目頭が熱くなって、俺は慌てて彼女の唇を求める。
挿し入れようと伸ばした俺の舌を、彼女は目を伏せて迎え入れてくれる。

俺は彼女の下唇を軽く舐め、口腔に侵入する。
そこは唇よりも遥かに熱く、俺に熱を与えてくれる。

俺は、その熱を丹念に確かめる。
並びの良い、綺麗な歯茎を一つ一つなぞり、顎の内側を舌先で舐め回す。
俺が動くたびに、彼女の中で混ざり合った雨と唾液が、くちゅくちゅと濡れた音を
たて始める。

「..んっ....」
吐息を聞いて、俺が一度顔を離そうとすると、彼女が追いかけてくる。
俺の舌を唇で挟み、そっと引っ張り出す。
他に動くもののない、ほの暗い闇に浮かぶように、濡れた舌同士が絡み合う。
うねうね、うねうねと。

それは、とても原始的で淫猥な愛撫だった。

俺は舌を繋げたままで、彼女の胸元をまさぐる。
だが、濡れた衣服が肌に張り付いて、上手く脱がすことができない。
と彼女は俺の舌から離れ、口を俺の耳元に寄せる。

同時に俺の両手を、服の裂け目に掛けさせて囁いた。
それはとても甘く...熱かった。

「...いいよ..このまま...早く...」
そこで俺の理性は、呆気なく焼き切れちまった。


両手に力を込めて引き裂く。
弾け落ちるボタンの音は今度は全く気に懸からなかった。

水滴を弾く柔かな肌。雨に濡れて尚増す火照りに俺は触れる。
水を含んだ躰は、いつもよりも容易く俺の侵入を許す。

指先で首元から、綺麗に浮き出た鎖骨をなぞる。
その傍ら胸の上にキスを落すと、その場所に雨粒が集まる。
俺は落ちる雨粒を舌で追う。
が、頂点に達する前に舌を離す。そして、また雨を集め....


「..あっ..ん...」
俺の舌が頂点に近づくにつれ、豊かな双房が震え、もどかしげな声が響く。
何度か繰り返すと頭上から彼女の、甘く苦悶に満ちた声が降ってきた。

「..やだっ...サンジ、君..焦らすの...ヤッ...」
俺はその声に誘われるままに、乳首を唇で挟む。

「..あぁっ...」
唇に力を込め、舌先で頂点の真ん中を強く押す。
胸の先端を吸い上げ、乳首を舌で転がす。

「..んぁっ...あぁぁぁぁっっっ...」
俺の舌が動くたびに、高く響く嬌声、それはまるで歌のようで。
さっきまでの冷たく悲しい歌ではなく、熱く悦びに溢れた歌だと俺は思った。

―もっと謳ってよ、ナミさん。俺を感じて..もっと―


俺は、彼女の胸から離れると、彼女を壁にもたれさせるように立たせたまま俺は跪き、スカートを捲りあげる。
たっぷりと水を吸ったそれは、存外重く、一度持ち上げると腰に張りついて落ちてはこなくなった。
ずぶ濡れの下着を引き裂くと、肌に張り付いて秘部を隠す淡い恥毛。
俺がソコに顔を寄せようとすると、さすがに彼女は身じろぎする。
それでも、俺は彼女の歌が聞きたくて。
片手で彼女の腰を抱いて、もう片方の手で、濡れた恥毛を梳く。

剥き出しになるのは彼女の中心の芯。
何度見ても見惚れちまう。
特に今日は、雨を纏い一層艶やかで、また反対に清廉にも感じられる。

俺は敬虔な気持ちでソコに口付ける。

「..っはっ..あぁぁぁぁぁんっ...」
彼女の甘い歌声に、そんな気持ちは一瞬で吹っ飛んでしまったが。
俺は、先程の乳首への愛撫と同じように、唇で突起を挟み、舌で刺激を与える。
舌先で突起の先端を擦り、ぬるぬるとした感触を強調する。
ぴくりと彼女の腰が引けたところで、唇を窄め強く、引っ張るように吸い上げる。

「っあぁぁぁっ...くっ、うんっ...」
彼女がこの動きに弱いことは先刻承知だ。
俺は、口の中に彼女のクリトリスを収めたまま、体内に中指を潜らせる。
どろどろの内部は、こぽり、という音だけで何の抵抗もなく俺の指を一つ飲み込む。

クリトリスを軽く引くと、びくりと内壁が動く。
俺がクリトリスから唇を離すと、強張っていた彼女の躰から、ふっと力が抜ける。

「..まだ、許さないぜ..ナミさん..」
俺はそう呟くと、既に飲み込まれている中指の後を追わせるように、人差し指も挿し入れる。
2本の指で、交互に襞をなぞる。
彼女の中で、俺の指が擦れるたびに、ぴちゃぴちゃと水音がたつ。
それは雨音よりも大きく、雨音よりいやらしく辺りに響いた。

「...はっ...んぅぅぅぅぅっっ...」
指の腹が上壁を擦るたび、水音に合わせるように甘い歌声が聞こえる。
俺は高まる欲望を何とか抑えつつ、その歌に聞き惚れていたが、それは途中で悲鳴に変わった。

俺が再度クリトリスへの愛撫を開始したからだ。
じゅっ..じゅっ..じゅっ..
指の動きとシンクロさせるように、断続的にクリを吸い取る。

「っあぁっ..きゃあぁぁぁぁっ、ダメ、も..それ以上されたらっ..」
「いいぜっ..ナミさん..イっちまっても」

荒い息の中、答えが返ってくる。
「っうぅん..ヤ、だ..1人でなんて..サンジ君..来て..お願いっ..」

乱れた濡れ髪が、頬にかかり、濃い陰影を作る。
快楽に苦しむように顰められた眉根。雨よりもしめやかな瞳。

―これに抗える野郎がいるかよ―
俺は立ち上がって、慌ただしくズボンを弛める。
「挿れるよ、ナミさん..いい?」
尋ねると、顔を伏せたまま、こくこくと首を振る。
その様が俺には、とても愛しくて。
俺は立ったまま、少し腰をおとして、自身を彼女のヴァギナにあてがう。

俺もずぶ濡れのはずなのに、俺の肉茎は触れてみると、随分熱を持っていることが分かる。


―全く、呆れるばかりだぜ―
俺は一つ息をつくと、彼女の中心へ腰を突き入れた。

「..あぁぁぁぁぁっ...あっ、熱っ、サンジ.君っ..」
仰け反り、倒れそうになる彼女の背を支えて、壁にもたれさせる。
その動きが俺には精一杯だった。

「っ..勘弁してくれ..ナミさんっ」
奥の奥まで引きずり込まれそうな快楽。
「これじゃ、俺も..とっととイっちまうよっ..くぅっ..」

俺は彼女に入ったまま、暫く動くことができなかった。
堰を超えそうになる快感を何とかやり過ごして、ようやく動き始めることができた。
互いの腰が近づくたびに、彼女の口からは歌声が、俺の口からは耐えきれない息が零れる。

俺は彼女の首筋に顔を埋めたまま、願う。

「もっと、聞かせてよ..ナミさん..」
俺は彼女の右膝の下に腕を回し、半ば彼女を抱えるような格好をとる

「..くっ..ん...あぁぁぁぁぁっ...」
甘い彼女の歌声に俺は溺れながら、昔の話を思い出していた。



・・・・海にはなぁ、女の魔物がいるんだよ、よく覚えとけよ。
そいつはなぁ、すげぇいい女でな、だけど、それ以上にそりゃぁ、もう綺麗な声で謳うんだと。
その歌をな聞いちまったら最後、海の男は、どうにもこうにも、引き寄せられちまって、殺されっちまうんだとよ。
お前もこれから海で生きようとすんなら、気をつけろよなぁ....おいっ、サンジっ !! 聞いてんのか、てめぇ・・・・




確か、そいつの名前が。

―セイレーン―

俺は、微かに笑った。
より深く、深く彼女の中を目指しながら、顔も忘れた酒場のオヤジに呟く。

―もう、遅せぇんだよ。俺はとっくに捕まっちまってる―
彼女の歌は、ますます高く、滑らかになり。

―この優しい魔女に―


俺は彼女の両腕を自分の肩に掛けさせ、左足も抱え上げる。
繋がったまま、完全に抱きかかえるるような体位をとる。
俺の肉茎は彼女の最奥に届き、彼女のヴァギナは俺の根元までを食い締める。

「..あぁぁぁんっ..サンジ、君..オクまで..来てるっ...」
「.あぁっ..ナミさんも..すげ..っ..」

俺達は同時に、切れ切れの会話を交わす。
彼女の腰を抱える両腕を強く揺さぶると、快感が濁流となって、再び堰を超えようとし始める。
俺は懸命に耐えつつ、律動を繰り返していた。
しかし、俺を絡め取とろうとする彼女の襞の動きが、限界を早めた。
彼女も同じ思いをしていたようだが。

俺は激しく彼女を上下させ、荒い息の中で白旗をあげる。
「っつぅ...ナミ、さんっ..俺、限界っ..イきそ..だぜっ..」
「あぁぅんっっ..んっ..サンジ..君っ、ス、ゴイっ..ああっ..ダメッ..」

激しくかぶりを振る彼女。
「.スゴっ..あぁんっ.あ.ねっ..今日は、このまま..来て..」
女性の中で出すなんて、それまでの俺なら (例えナミさんでも)考えられなかった。
しかし、彼女の言葉に、俺は突き入れることに最後の力を使った。
彼女の熱に包まれて、俺は全てを吐きつくした。



瞳を閉じる直前に彼女は、俺を見つめて呟いた。
「...傍にいて..私の1番近くに..サンジ君が....」
俺は、その気持ちに報いるだけの言葉を見つけることができなかった。

―軽口なら、誰にもまけねぇはずの俺が、ざまぁねぇな―
だから、俺は彼女にキスをした。
彼女への気持ちが伝わるよう、心を込めて。


彼女を抱いてキッチンへ寄る。
大きめのタオルを2、3枚出して俺は倉庫に向かった。
素肌の水気をぬぐい、髪を拭いてあげていると彼女が目を覚ました。

「ゴメン...」
彼女に俺は無意識のうちに呟いていた。やはり、どこかに罪悪感が残っている。

触れるべきでない彼女の思い出に踏みこんだこと。
無理矢理彼女を抱こうとしたこと。

「馬鹿ねぇ」
俺の向かいにしゃがんで、自分の頭の上のタオルを俺の頭にのせる。
そして、ダダをこねる子供をあやすような感じで、彼女は笑った。
今日は何度か彼女からこの台詞を聞いたが、今のが1番俺の心に沁みた。

「辛いことは一人では思い出せないわ」
濡れた俺の髪を、彼女はタオルで優しく撫ぜ、言葉を続ける。

「今は..サンジ君が傍にいてくれるから思い出せるの。
 それに...昔からよく言うでしょ、初恋は成就しないって」

そっと腕を俺の頭に回してくる。
そして、囁く。
「・・・でも、初めての愛は成就させたいの。だから...」
彼女は俺の頭から両の頬へその手を滑らす。

「協力してね...サンジ君...」
微笑む彼女。


優しい・美しい・柔らかい・甘い...
言葉じゃ表現できねぇよ。

それは、これまで俺が見てきた中で最高の笑顔だった。



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