+裏書庫+


  ガーネット Date: 2003-09-26 (Fri) 


石榴が欲しい、そう貴女はねだるので
そんな貴女が欲しいと、俺は思った―




その花は赤い。
例えば、指先を切った時。傷にあてた白布が瞬く間に赤く染め上げられるように。
澱みなく流れる血をそのまま吸い込んだように艶やかな。
だから、その実も赤い。
宝石の名にもされる程の、透きとおるような美しさを持つ種を身の内に秘めて。





石榴の実が一つ。
ベッドの白の上で圧倒的な存在感を放っている。
ベッドの上で身体を丸め、ナミは石榴を弄んでいる。
細い指先がその赤を引き寄せては離す。
その様子をサンジは立ったまま黙って見ていた。

目の前を右に左に転がる石榴。
その実の中ほどに縦に裂け目が見える。

時が来れば熟れ、自然にその身を割る果実。
雌そのものといった肉感的な外観に一筋の亀裂。

サンジはそこから目を離せないでいた。
と、石榴の動きがピタリと止まる。ナミの人差指が実の中心を押さえている。

それからナミは顔をあげ、サンジをみつめると唇を動かす。
熱のこもる瞳はサンジを捕えたまま、唇だけが笑う。

ゆっくりと開かれる上下の赤い扉。
その更に奥、暗がりの中にちろりと動く舌を垣間見ることができる。

その様は手前に転がっている石榴によく似て―
惹き込まれるような眩暈を覚え、サンジはきつく目を瞑った。

「・・・もう、いいでしょ?」
誘うような言葉を投げてナミは石榴を両手で包む。
実に入った亀裂をそっとなぞってから、両の親指に力を込める。
クシュッ...
熟れた実は内部で水音をたてながら、ナミの指を受け入れていく。

指が半ば消えたところで、ナミはチラとサンジに目をやる。
が、サンジの目はナミの手元から離れることはなかった。

見たことなどない筈の光景が鮮やかに蘇る。
まるでフラッシュバックのように。

大きく広げられた脚。
時折不自然な力が込められてはゆるむ。
女の中心を広げるのは女自らの指だ。
赤く・・・・・濡れて赤く光るその奥に、深く挿し込まれた指先。
中から何かを掻き出そうとでもしているのか、指は休むことなく動き続け―

一点に置かれていた視点が突如動く。
秘所を掻き毟るように蠢く指先から、細い手首へ、しなかやな二の腕へ、
そして――
自慰に喜悦の涙を流す、その女の顔は、ナミだった。

脳裏に浮かんだ女の顔をナミと認識した瞬間、サンジは我に返る。
もしかしたらビクリと肩をでも揺らしたのかもしれない。
ナミは微笑を絶やすことなく自分を見上げている。

見透かされたかもしれない、浅ましくも美しい一瞬の幻を。
それでも構いはしない、サンジは思った。

今、この瞬間に他のことを考えられる方が異常なのだと。
サンジは片手でベッドを軋ませ、ナミの方へ身を乗りだす。

―だって、ほら―
ほっそりと形のよい両脚がサンジを迎えるように開かれる。

―こんなにも―
誘われるようにナミへと身を寄せるサンジの鼻先を掠めるように赤い実が落とされる。
半ば剥かれ、種を露出させている実。

―鮮やかに開く躰を俺は知らない―

開いた脚の真中に落ちた果実。

「ねぇ...剥いて....」
甘くねだるようなその声はどこか遠くから聞こえているような気がして。
サンジはゆるゆると目の前の実に手を伸ばす。
まるで操られてでもいるかのように。

サンジは片手で実を掴み、ナミがそうしたように開いた隙間に親指を潜り込ませ、厚ぼったい皮の内側に指先を引っかける。

―こんなことは何でもない―
果物の皮を剥く。こんなのはいつもやっていることだ。
ぶるりとサンジは頭を振る。乱れた髪が視界を狭める。
その先に見えるのは赤い果実。

何てことはない。
サンジは指先に力を込める。
未練がましく張りつく皮をめりめりと引き剥がしていく。

自分が指を挿し入れている、これは只の石榴。
この指を濡らしているのは只の果汁。

だからこんな感覚はまやかしだ。
ひくつく秘所に挿し込んだ指先を、
しとどに濡らすのは女の愛液。

まやかしだと、そう分かっていても感情は高ぶり、身体は昂ぶる。
持て余す熱に耐えかね、サンジは一つ大きく息を吐き、目を閉じ石榴の皮を引き千切る。
その直前に、真赤な種子が晒される直前に微かな吐息が聞こえた気がした。

きっとそれも幻聴だろう。
全てはまやかし。
サンジはじっと石榴を見つめる。

己の欲望が見せる幻。
だが、それを意のままに操り、自分を惑わせるのは―

サンジはゆっくりと顔をあげ、真正面に女を見る。

―この魔女だ―



自ら服を脱ぎ、白い躰を顕わなままで。
差し出された赤い実を前に魔女は変わらず笑みをたたえていた。




白の裸体と赤の実と―




「ありがと・・・」
その言葉と共に深くなる微笑には妖しい力がある。
サンジにはただ黙ってナミのすることを見ていることしかできなかった。

ナミは腕を伸ばし、サンジの手のひらから石榴を取ると自らの口元に運ぶ。
ゆったりとした極々自然な所作。
それは何の変哲もない行為。
その身に何もつけていない、ということを除けば。

そんなことは気にも留めず、ナミは目を伏せ唇でそっと種の表面に触れる。
優しげに見える口づけの、その唇の隙間からナミは舌を伸ばし表面をなぞる。
柔らかな舌先は廻る。
はちきれんばかりに膨らむ薄皮を、粒と粒の間の溝までもを丹念に。
これはもう愛撫だ。
声が出ない。
喉が焼けつくように渇く。
否、渇いているのはその奥にある欲望か。
まるで初心な男の様にサンジはゴクリと生唾を飲み込んだ。

ナミは満足げな表情を浮かべ、舌を戻す。
サンジを見る目がすうと細まり、今度は瞳だけで笑う。
クシュ
種は一斉に弾け、濃密な香りが辺りを包む。
溢れた果汁がナミの口元から流れ出し、手首を伝い、白い腕に赤い道筋をつけていく。
それに構うことなくナミは果実を食み続けている。
肘まで達した果汁は行き道をなくし、その先に赤い滴を作った。

何も考えてはいなかった。反射的に身体は動いた。
欲望に忠実に。
サンジはナミの前に身を屈め、肘へと唇を寄せる。
吸い込まれた一粒の滴は甘味と酸味を同時にサンジへ伝える。
だがそれは一瞬。

―こんなんで足りるわきゃねぇ―
胸の内にそう毒づくとサンジは赤い筋を辿る。
赤の道を消していくのはやはり赤い舌で。

ナミに近づく程に渇きは増し、焦りは大きくなるのは何故なのだろう。
手首に口づけたままサンジは顔をあげる。
石榴に口づけたままナミはサンジを見つめる。

赤い果実を挟んで交錯する眼差し二つ。
先に唇を離したのはナミだった。

「・・・・・欲しい―?」
問うたのは石榴を、か、自分を、か。
それは分からない。
それでも答えは分かりきっている。

「・・・・・あぁ・・・」
サンジは低く呟くとナミの手首を掴む。
ぐい、とその手を口元から退けると空いたその空間に身を進ませる。

思う壺―なのだろうか、ナミは愉快そうにクスクスと笑う。
その笑い声をサンジは自らの唇で止めさせる。

ボトリ
そしてナミの手から石榴が落ちた。
自分と同じような味のするナミの口内。
それでも、同じものを口にした筈なのにナミの口の中は断然に甘く感じられる。
これも錯覚だろうか。

ナミの口の中に残された石榴の種をサンジは一つ一つ潰していく。
弾けた汁を全て舐めとるかのようにサンジはナミの口中隈なく舌を伸ばす。
甘い液と酸い液と、止めどなく溢れる唾液を絡めて舌は忙しく動く。
二つの舌が絡まり合えば、クチュクチュと湧きたつ水音が益々劣情に火をつける。

と、サンジは舌先に異物を感じる。
ナミの舌からサンジの口の中へと一粒の種が送り込まれていた。
そしてナミはサンジから唇を離す。
逃すまい、と甘く噛みつくサンジの唇を、濡れた舌はずるりと抜け出す。
その後を追うように糸を引く、赤く、甘く香る液は二人の間で途切れて落ちた。

サンジは小さく息を吐き、それから人差指を口元に持っていく。
舌で指先に運んだのは、濡れて艶やかに光る石榴の種。
あれだけ激しく掻き回された中で潰されずに残った赤い粒一つ。

サンジはそれをナミの鎖骨の辺りに置く。

何一つ纏わぬ躰に一点の赤。
それはどんな宝石よりも鮮やかに、そして艶かしくナミを彩った。

つ、とサンジはその種を下へと移動させる。
潰さなぬよう爪の先に掛けて柔らかに膨らむ胸のその先へ。
サンジの指がそこに近づくにつれ、ナミはひそかに躰を強張らせ、息を詰めた。
まだ触れられていない頂きは、それでも期待に硬さを増し、次の刺激を待っていた。

だが、サンジはその寸前で指を止める。
指の腹で種を押しつけながらじわじわと乳首の周りを責める。

「・・・・・んっ・・・」
蜜に膨らむ種は硬く、それでいてしなやかな不可思議な刺激をナミに与えていく。

「・・動かないで...潰しちゃダメだぜ、ナミさん」
声を潜めてサンジは言う。手を休めることなく。

徐々に頂点へと近づいていく赤い実。

「・・・・・すげえ、もうこんなに―」
感嘆とも揶揄ともとれる言葉と共にサンジは乳首の先端に指を動かした。

「っ、あぁぁっ」
喉を震わせ、大きくナミは仰け反る。

プツッ
その瞬間、種は弾け胸の周りに赤い液を撒き散らす。

「潰しちゃダメっていったろ」
たしなめるようにサンジはナミを見下ろす。
「こんなに飛ばして―」
そう言ってつぐんだ口をサンジは再びゆっくりと開く。
サンジの舌はゆっくりとナミの胸の上を這い、赤い液を拭っていく。
柔らかな乳房を伝い、胸の谷間に入り込んだ汁をも。
そして、
「ほら、ここも―」
じゅうと音をたててサンジはナミの乳首を吸う。
「んうぅっっっ!!」
背を攣らせて後ろに倒れ込むナミをサンジは追った。

「・・・・ね、も...ぉ...」
執拗に乳首を嬲り続けるサンジの下で、ナミは身を捩る。

「・・・・もう...何?」
サンジは傍らの石榴に手を伸ばすと、そこから一粒種を毟り取る。
ナミの手をとり、中指と人差指の付け根にその種を置く。
それから指の先端に舌をあて、ゆっくりと付け根に向かい、舐めあげていく。

サンジの舌はピシャピシャと音をたてながら種の周囲を、やがて種自体をを舌で突つくように刺激する。
耳に届く濡れた音、指に感じる生温かい感触、それらはナミの下腹をダイレクトに揺さぶる。

「・・・あっ・・・や・・・・」
音を聞く度、舌がぶつかる度にナミは秘所を疼かせ、じわりと愛液を滲ませる。
「言えたら同じことをしてあげる、ナミさんのここに・・・」
サンジは片手をナミの今最も敏感な部分に持っていく。
「・・・っひ、くぅ..」
触れるか触れないかの位置、かすめるようなタッチにもナミは大きく反応する。
「・・・も、ダメ...きたい...っかせてよ..」
熱にやかれて枯れた声はうわ言のようにそう訴える。

プツリ
サンジはナミの手を引き寄せ、舌で種を押しつぶす。
手のひらに残る液を舌できれいにしてから更に下まで導く。

「じゃあ、広げて...自分で」
ゆるゆるとナミの手は動き、言われるがままに二本の指は陰唇を大きく広げる。
既に十分に濡れて光る秘所がサンジの前に晒される。

「上出来―」
サンジは薄い笑みの隙間から舌を伸ばす。
舐める方、舐められる方。
ぬるりとした感触はどちらが強く感じたのだろう。

「――あぁぁっっ、凄っ...」
反射的に逃げようとする赤い粒をサンジは捕えて離さない。
何度も表面を撫ぜ、時に周囲のくぼみを舌先でなぞる。
それは先程ナミが石榴の種にしてみせたことだった。

―!?―
視界の隅に動くものを捉え、サンジは目だけでそれを追った。

にじり寄るように動いていたのは、ナミのもう一方の指。
変化は次の瞬間だった。
その指先が自らの膣口に触れた途端、指はそれ自身が意志を持っているかのように動き出す。

完全に晒された秘所の真ん中、ずぶずぶと指は何の抵抗も見せずに飲み込まれていく。

ゴポリ
音をたてて指と入口の間から透明な愛液が溢れ出す。
それでも指は止まることなく動き続ける。
ナミが自分の中で指を曲げ、周囲の壁を擦るように動かしているのがサンジにも分かった。

「あぁっ、はっ、はっ、はぁっ―」
舌の動きに合わせるようにナミは指を回し、自分を高めていく。

絶え間なく響くのは水音と激しい喘ぎ。
それに引きずられるようにサンジはがむしゃらに舌を使う。

「―あ、やっ、サンジ、く...強すぎ、くぅっ...」

びくびくとナミの両腿が引き攣る。
サンジの舌に触れるナミの種にまでその震えは伝わってくる。

それでもサンジは舌を休めようとはせず、ナミは指を止めようとはせず。

眼前で、
ぐっしょりと濡れて光る真赤な果実。
熟れて口を開く、今にも蕩けてきそうな。
その中で妖しく蠢く細い指。

―あぁ、そうか―
今、まさに色鮮やかに輝く種を口の中で転がしながら、サンジは得心する。
最初に石榴に重ね見た幻は―

―俺がさっき見たのはコレだったのか―

「あ、も、ダメっ、っつ、クぅぅぅっっっ――!!」
ナミの絶叫。
それを遠くに聞きながら、サンジは堕ちた直後の果実に魅入っていた。

正体をなくしたナミを前にサンジは熱い息を吐く。
まるで一度射精したかのように身体が重い。
そんな錯覚を、しかし本能は許さない。
サンジはまだ膣に挿し込まれたままのナミの指を抜き、細い腰を両手で掴み引き寄せる。

ナミの中はいまだひくひくと動き、自然、サンジを飲み込んでいく。

「っ、すげ...」
奥へと引き込まれるその強さにサンジは顔を顰めて呟く。

―気を失っててくれて助かったぜ―
今にも爆ぜてしまいそうな自身をサンジはナミの中深くに沈める。

それだけで、
思い出しただけでイってしまいそうだ。

目を瞑った途端蘇るのは、自らの指で達したナミの痴態。
目を瞑った途端蘇るのは、濃密な、果実のあの香り。

―思い出した―
サンジは、はっと目を見開く。
その先に鮮やかに息づいているのは真赤な実。



熟れた途端、自らの身を割る果実。

その実は人の血肉の味がするという
一度口にすればやみつきになるという。


婀娜めかしい姿をした果実。
その名を石榴という。




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