*オモテNOVEL 44題『二日目の朝』前後のお話
1.before
見知らぬホテルに連れ込まれた。
それも、とびきりキュートでとびきり危険なレディに。
「ちょっ! 待った! ナミさん!!」
部屋の大部分を占拠しているダブルのベッドに、倒れこむといった方が良いくらいの勢いで飛び込んだナミの後を、サンジは慌てて追った。
「靴、脱がなきゃ。ね、ナミさん」
「んーーー?」
サンジの言葉を理解したのかしていないのか、うつ伏せのまま両手を広げて寝転がったナミは、一つ唸っただけで静かになった。
肩を一つ竦めて、サンジはベッドからはみ出した足元に身を屈める。細い革紐で編まれた白いサンダルは、今日の彼女の戦利品だ。細くて華奢な足によく似合うその靴を脱がそうと手を伸ばしたその時、ナミが突然足をばたつかせた。
左右のサンダルがほぼ同時にナミの足から外れる。一方は、ごろりと床に転がり、そしてもう一方はサンジの鼻を直撃してから床に落ちた。
「ぐぎゃっ!!」
じんじんと痛む鼻を押さえて蹲りながら、涙で滲む目でサンジが散らばった靴をベッドサイドに揃えたその時、目の前からほっそりとした足が姿を消した。
顔を上げれば、ベッドの上にナミが横座りしている。
「あつぅ・・・・」
独り言のようにそう呟くと、ナミは羽織っていた薄物のカーディガンをはら、とその肩から落とした。
今、身に着けているものもこの島で新たに買い求めたものだ。カジュアルな衣装を好むナミにしては珍しく、色使いの淡い甘めのコーディネートだが、満開の桜に彩られた春島にはぴったりだった。薄いブラウンのカーディガンの下は、肩紐で吊るすタイプの白のワンピース。よって現状、肩衣をぬいだナミの姿は非常にしどけないものとなっている。
目のやり場に困る前に、思い切り目を剥いたサンジの前で、ナミはあっさりとカーディガンを脱ぎ捨てた。
「ねぇ・・・サンジ君?」
少し掠れた声で僅かに首を傾げる。オレンジの髪がさらさらと流れ、仄かに赤い目元は、男心を否応もなく刺激する。
「はっ・・・・はいィ!」
思い切り裏返った声で、鼻の痛みも忘れ、サンジはしゃんと背を伸ばした。だが、その目はすぐに懐疑的な色を浮かべた。
いやちっょと待て。こんな美味しい状況があるはずがない。夢か? 夢なのか? 目ェ覚めて横にいるのが野郎だったら問答無用で蹴り飛ばすぞ、俺ァ。夢なら早く覚めやがれ。いやもうちょっと覚めないで?
混乱と葛藤のごった煮状態にあるサンジの手にナミが手を重ねる。
「あっついからシャワー浴びる。シャワーシャワー!!」
「・・・・・は、ひ?」
呆然とするサンジの手を引き、危なげな足取りでナミはバスルームへと向かった。
狭い洗面所をスルーし、バスルームの扉に手をかける。ガタガタとやや乱暴な音をさせて半透明の折戸を開けるナミに振り回されるながら、サンジはバスルームに引きずり込まれた。冷やりとしたタイルを足の裏に感じたその時、サンジの目の前でナミが力尽きたようにペタリと座り込んだ。
「冷たくていーい気持ち」
まるで猫の子のように気持ちよさ気に目を細めて、傍らに立つサンジを見上げ、ナミはその足にぐにゃりと身を預けてくる。
「ほーら、ナミさん。一人で立てないんでしょう? 危ないからシャワーは後で―――」
「イーヤ!」
言い終える前に、ナミの手が思いも寄らぬ速さで伸び、シャワーコックを勢いよく捻った。
「うわつめてっっ!!」
背後から思い切り水を被り、悲鳴をあげたサンジとは対称的に、ナミは降り注ぐ水に顔を向け、静かに目を閉じている。
流れる水で前髪が左右に分かれ、綺麗な額が覗く。濡れた毛先が絡みつく首筋は、サンジの目にはいつもよりも一層華奢で儚げに映る。
サンジの耳元から水の音が引いていく。
目の前の、その姿に見惚れた。
どれ位そうしていただろう。我に返ったサンジは慌ててシャワーを止めた。水の止まったシャワーヘッドから落ちる水滴が、二度三度と背を叩く中、サンジはその場に屈み、ナミと顔の高さを同じくする。
ぐっしょりと濡れてナミの身体に貼りついた服は、すっかり透けて滑らかな身体のラインを明らかにしている。
「・・・・ナミさん」
伸ばしかけた手を止め、サンジはいまだ目を閉じたままのナミの名を呼んだ。
夢見るような眼差しがサンジに向けられ、静かに微笑む。
「着替え、持って来る」
洗面所を親指で指し示しながら、サンジはつられたようにナミに微笑を返した。
「俺、外で待ってるから。ちゃんと身体拭いて着替えて」
そう言って腰を上げかけたサンジに、ナミは何も言わずに両手を伸ばした。後ろ髪からぽたぽたと雫の落ちるサンジの襟首にしがみついてくる。面食らったまま、サンジは反射的に濡れたその身体を抱きとめた。
「・・・・風邪ひいちゃうよ?」
サンジが苦笑を浮かべる。それでもナミは動こうとしなかった。
耳元にナミの息がかかる。ひんやりとした狭い空間の中で、耳にかかる息だけが熱い。
ナミを抱える腕に力が入りそうになる。
手放しがたく思う気持ちは確実に芽生えている。そのことから目を背ける為に、サンジは道化の仮面を被ることにした。
「ほーら、早くしないと脱がしちゃうよ。俺が」
おどけた口調でサンジは軽薄に笑ってみせた。そんなサンジの首をナミは引き寄せ、口を開いた。
「いいわよ。別に・・・・サンジ君なら平気」
どんだけ男と見られてないんだか。
小さな苦笑と溜息を零したその時、思いも寄らぬ台詞がサンジの耳に届いた。
「好きよ――」
内緒話のように密やかに、その声はサンジの耳を擽る。
「好きよ。サンジ君・・・大好き」
サンジの腰から力が抜けた。
濡れた床にへたり込んだサンジの胸に、ナミの身体が滑り落ちてくる。
「・・・・・ナミさん?」
躊躇いがちに、サンジがその顔を覗けば、ナミの意識は既に眠りの中にあった。
「・・・・・・・・・・・・・・・参った」
混乱の度を深める男の胸の中で、ナミは気持ちよさ気な寝息をたてていた。
「さてと――」
吐く息に紛れてそう言うと、サンジはナミを抱えて立ち上がった。
洗面所の床が濡れるのも已む無しと、バスマットの上にナミを座らせ、右手でその背を支えながら、サンジは籠の中に置かれたバスタオルに左手を伸ばした。
壊れ物を扱うようにして髪の水気を拭い終えたサンジは、濡れたバスタオルを放り投げ、乾いたもう一枚を引っ張り出した。籠の中はそれで空になってしまったが、サンジは気にもとめなかった。
後は脱がせて拭いて着替えさせて・・・・・
濡れて色香を増した、その上、意識のない女の身体をサンジはじっと見つめる。
ラッキー!
という気分には到底なれなかった。観客のない舞台で道化ても虚しいだけだ。
サンジは一度目を閉じ、長く息を吐いてから目を開け、努めて淡々とした表情でスカートの裾に手を伸ばした。
ナミの膝下に片手を潜らせてその脚を浮かせると、素肌に吸い付いている薄い布を捲り上げる。冷えた肌はまるで陶器のような感触をサンジの手のひらに伝える。サンジは一気に服を脱がし、下着姿のナミの身体にバスタオルをかけた。
そうして一息つくと、サンジはそのバスタオルで濡れた首筋をそっと拭う。細い肩や腕に残る水気を丁寧に拭いてから、背中のホックに手をかけた。
金具が外れると同時に、豊かな胸がバスタオルの下で揺れるのが分かった。サンジは表情を変えることなく、柔らかな膨らみにタオルを押し当てて水分を吸い取った。
サンジの手はナミの身体のラインに沿って下りていく。細い腰を拭った手が、再びタオルの下に潜った。
ナミがその身につけている最後の一枚をサンジが引き剥がす。沁み込んだ水が滲み出て、サンジの手首を音もなく伝い落ちた。
バスタオルに包んだナミを抱えて部屋に戻ったサンジは、真直ぐにベッドへと進み、そっとナミの身体を下ろした。
一旦、洗面所に戻ったサンジは自分の服を乱暴に脱ぎ捨てると、放り投げてあったバスタオルを腰に巻きつけてから部屋へと向かった。
クロゼットからガウンを二枚取り出すと、一枚をベッドの上に放り、もう一枚を持ってナミに近づく。ナミの身体を覆うバスタオルに手を伸ばしかけて、何かに気づいたようにサンジはその手を止め、部屋の明かりをおとした。
暗がりの中で、サンジはナミの身体からバスタオルを剥がした。
一糸纏わぬナミがすぐ傍にいる。
手のひらは柔らかな感触をいまだ生々しく覚えている。サンジは己の欲望に蓋するように、ぎゅっと目を瞑り、爪が手のひらに食い込むほど強く握り締めた。
ナミにガウンを着せ、毛布をかけるとサンジは自分の分のガウンを手に洗面所に戻った。
湿ったバスマットを足で動かして適当に床を拭き、二人分の服を絞って吊るす。
こりゃ、乾くまでに結構かかるわ。
ぽたりぽたり、水を落とすジャケットのポケットをサンジは祈るような思いで探る。取り出した煙草のケースはぐしゃぐしゃに押しつぶされてはいたものの、濡れてはいなかった。
一本を咥えて、ジッポの蓋を開ける。二度ほど石を擦ったところで火がつき、サンジは安堵の思いで深く煙を吸った。
細い煙をたなびかせながら、サンジはガウンを纏い、腰に巻いていたバスタオルを籠の中に放り込んだ。
煙まみれの息を一つ吐いて鏡を見れば、そこには開けっ放しのバスルームが映っている。
好きよ・・・・か。
酔った女の言葉を真に受けるほど純真でも図太くもない。だが、もしかしたら、とそんな女々しい思いを抱く自分も確かにいた。
長い夜になりそうだな。
そんなことを思いながら、ふと下半身に目をやる。
「頑張っていい子にしてんだぞ?」
諭すようにそう言って、サンジは苦笑を貼りつけながら扉に手をかけた。
音をたてぬように細心の注意を払いながら、サンジはベッドの傍らの椅子を引き、腰を下ろした。
ナミはよく寝ている。火をつけていない煙草を咥えたサンジは、そのあどけない寝顔を見て目を細めた。
ただ時間だけが静かに流れる中、身体が温まったのか、ナミがベッドの中でもぞりと動いた。
毛布の中から腕を出し、ころりと横向きになる。小さく唸りながら何かを求めるように伸びた腕は、やがてぱたりとベッドの上に落ちた。
かけていた毛布がはだけ、乱れた胸元からは豊かな谷間が覗いている。すっかり闇に慣れてしまったサンジの目に、それは余りにも鮮やかな白に映った。
不意に蘇るナミの囁き。それが契機となって、濡れた肢体が、艶やかな感触が思い起こされそうになり、サンジは慌てて目を閉じようとした。それでも、サンジの意思に反して、目はナミの肌を追っている。望めるならばその奥までも、と。
目を逸らし続けてきた欲望に、火が灯る。
ご丁寧に枕元に避妊具が置かれている。サンジは睨みつける様にしてそれを見つめた。
好きだと言ってくれたではないか。
それに、これだけ酔っていたら何があったって分からないんじゃないか。
サンジの右手がゆっくりとナミの首筋に伸びていく。細い首にまさに触れようとしたその時、己の左手が右の手首を掴んだ。
きつく目を閉じ、サンジは床に煙草を吐き捨て、立ち上がる。
一直線にバスルームに向かい、ガウンを着たまま思い切りシャワーのコックを捻った。
寝顔を見ているだけで十分だと思っていたのに。
ザァと降り注ぐ水が、サンジを包む。壁に右手をつき、サンジは床を見つめた。
紳士ぶっててもこのザマだ。
自嘲する思いとは裏腹に、若い雄の本能がサンジの身体を苛む。どんなに頭を冷やそうとも、最早納まりのつかぬ欲望の印がそこにあった。
手のひらを見つめれば、滑らかな腿の感触が蘇る。目を閉じれば、ナミの腿を押し開く自分の姿が、生々しいまでの実感を伴ってイメージされた。
ぐったりと横たわったままのナミに、己の先端を押し当てる。
温かく湿ったそこは、僅かな抵抗をみせながらも、ゆっくりと確実にサンジを飲み込んでいく。
サンジは、脳裏に浮かぶイメージのままに、濡れた手で自身の幹を握り、ゆっくりと上下に動かし始めた。
眠りながらサンジを受け入れるナミに、やがて微妙な変化が訪れる。
結んでいた口元が綻び、小さな吐息を零し始める。深く挿入したサンジが腰を動かし出せば、それは濡れた喘ぎへと変わっていく。
水に打たれながら、サンジは激しく自身を扱き続けた。
やがて、快楽の中でナミの睫毛が細かく震え始める。その目がゆっくりと開いて―――
「あっ、・・・・・く!」
ナミの目が向けられるその前に、サンジは限界に達した。
びくびくと震える先端から、白く粘つく体液が吐き出され、それはすぐに水に流されていった。
バスタブに腰掛け、サンジはだらだらと排水口に吸い込まれていく水を見つめていた。
身体にこもった熱を吐き出すと、ようやく頭が冷えた。
さて、これからどうするか。
ここに閉じこもっている方がいいのかも知れない。彼女の為にも、自分の為にも。
けれど――
前髪から落ちる水滴を、サンジは目で追う。
誰のものでもない彼女が、傍で眠ってくれる夜を自ら手放すことはできそうにない。
例えそれがどんなに辛いものでも。
「へっ、くしゅん!!」
くしゃみと共に身を縮こませたサンジは、濡れたガウンを脱ぎながら立ち上がった。
→continu to『二日目の朝』
2.after
ナミの両手に迎えられながら、サンジはベッドに膝を乗せた。僅かに軋む音をたててベッドが沈む。
そう言えば、ふとサンジは考える。
よくよく考えてみれば、ここに来てからベッドに乗ったのはこれが初めてだ、と。あんなにも長く濃密な夜を過ごしていながら、どうにも奇妙な感じがしてサンジは小さく笑む。そんなサンジをナミは至近距離でじっと見つめていた。
「どうかしたの?」
「いや別に」
口元を綻ばせたサンジに、ナミは困ったような笑みを向けた。
「ナミさんこそ、どうかした?」
「何てことはないんだけど、ね」
すぐ目の前にいるのは、よく見知った男。大事な仲間でコックで。
自分の日常に当たり前のように溶け込んでしまった男が、半裸で目の前にいる。思っていたよりも肩幅が広くて鎖骨がとても綺麗な形をしていた。
そして、これからしようとしていることを考えると――
「ちょっと何か、恥ずかしいかなって」
確かに、とサンジもつられたように少し照れたような表情を浮かべて頭を掻いた。
「けど、こういうのは勢いが大事だからさ」
ニヤと笑うと、サンジは、否応を聞く前にナミの唇を塞いだ。
絶え間なく続くナミの息遣いが部屋を甘く満たしていく。
ベッドの中央にペタリと座っているナミを、立てた膝と両腕で背後からすっぽりと包み、サンジは小さな耳たぶを唇に挟んだ。
身につけていたガウンもバスタオルも、身体を探り合ううちに自然に落ちてしまっていた。
柔らかなその感触を楽しんだ後、突き出した舌で耳の裏側のラインをちろちろとなぞった。ビクリと身体が震えれば、跳ねた髪の合間から華奢な項が現れる。
細い首筋を唇で辿りながらも、サンジはナミの身体の前に回した手を休めることはなかった。
豊かな両の乳房に手のひらをあてがい、尖りきった先端を指先でくるくると弄ぶ。
少し前に唇での愛撫を散々に受けたそこは、敏感なままで、サンジの指の動きはナミの身体の奥深くをじれったいような感覚で疼かせた。
長い吐息をひとつ零し、ナミは小さく頭を振る。
「また・・・・酔っちゃいそう」
背後で笑う風の息遣いを感じた。
「いいよ。酔っぱらってるナミさん、すげェ可愛かったから」
脳裏に浮かぶのは、しがみついてくる身体と甘い囁き。幸せと辛さが表裏一体の夜を越えて、今がある。
「あんなコト言ってくれるなんて、俺、感激!」
「えっ!?」
芝居がかった口調で大仰に感動を表したサンジの方へと、ナミは慌てたように身を捻って振り返る。
「何? 何かヘンなこと言った? ね、何て言ったの!?」
「ヒミツ」
囁いたサンジは、振り向いたナミの腰を捕まえ、その身体をベッドに押し倒した。
小さく悲鳴をあげてベッドに沈んだナミは、それでもまだサンジに食い下がる。
「ねェってば! 教えて、サンジっ・・・・・・!」
ナミの声が途中で音を失う。
代わりに音をたてたのはナミの秘所だった。
温かな蜜と極上の肉の手触り。
サンジはナミの中を探るように、潜り込ませた指をゆっくりとめぐらせる。柔らかな亀裂を左右に押し開けば、その上部では快楽に目覚めた突起が、艶やかな先端を覗かせていた。
サンジの舌先が、その先端を撫ぜるように何度も触れては離れる。その度に、ナミは震えながら高い声を響かせ、自らの感度の良さを示した。
「サンジ君・・・・ね、もう―――」
荒い息の中、切なげにせがむナミにサンジは行動で応じた。
ナミの秘所から顔を離し、枕元に手を伸ばす。右手はナミの中に挿れたまま、左手で避妊具を掴むと袋の端を口に咥え、片手でその封を破った。
ゴムの中央を先端にあてがうと、サンジはようやくナミの中から右手を引き抜く。濡れたその手で自身にゴムを被せ、改めてナミの腿に手をかけた。
昨夜の浅ましい夢想が現実のものになろうとしている。
繋がる前に何か気の利いた台詞でもと、サンジは言葉を探したものの、どういう訳か何一つ浮かばない。視界をぶれるのではないかと恐れるほど、鼓動が高まる。焦れる心のままに、サンジはナミの脚を開くと、自身の先端を濡れた秘所にあてがった。
滑る襞に誘い込まれるままにサンジは腰を進める。ナミは快楽に耐えるように目を伏せてサンジを受け入れていく。
「あ・・・・・あぁ・・・・」
サンジを根元まで導き入れると、ナミは満たされたような溜息を一つついた。長い睫毛が震え、ゆっくりと開いていく。
昨夜、頭の中で描いた映像はそこで途切れている。その続きは――
ナミの目がサンジを見つめている。
潤んだ瞳は、凄絶なまでの色香と優しさで満ちていた。
ナミが手を伸ばし、長い前髪で覆われた左の頬に触れた。笑みを湛えた唇が動く。
「サンジ君」
その声を聞いた途端、サンジの中で箍が外れた。
あり得ないと言ってもいい自身の身体の変化にサンジは愕然とした。
嘘だろ?
愛情と独占欲の混ざり合った思いに衝き動かされ、唐突な射精感がこみ上げてくる。
挿れたばっかりだぜ、おい――
きりと唇を噛んで耐えようとしたが、解放を望む身体はそれを許そうとはしなかった。
サンジは頬に触れるナミの手に自分の手を重ね、ポツリと零した。
「ゴメン、ナミさん」
突然の謝罪の意味をナミが問う間もなく、サンジはナミの中深くに埋め込まれた自身を小刻みな動きで幾度も奥へと叩きつけた。突然の激しさに翻弄され、ナミは声を上げるがそれは長くは続かなかった。
く、と噛み締めた唇の隙間から零れた声を耳にしたナミは、自分の中で男が爆ぜようとしているのを悟り、それを許すかのようにサンジの腰に両の脚を絡ませた。
ナミに引き寄せられるままに、サンジはどこまでも柔らかな女の奥で己の欲望を解き放った。
「全くもって面目ない」
初めての時よりも酷ェぞ、こいつァ。
己が醜態を省みて、ゴムをつけたままの姿でサンジは項垂れた。
しゅんとするサンジと同じく、その分身も肩身狭そうにしている。その様を見て、ナミはクスリと笑みを零した。
ベッドの上で胡坐をかくサンジの足元に、ナミはころりとうつ伏せで寝転がり、硬度を失くしかけていた分身に手を伸ばした。
形のよい尻に見惚れていたサンジはギョッとナミの手元に目をやる。
「いっ!!? ナミさん!?」
慌てたサンジが腰を引こうとするので、ナミは目の前にあった脛毛の生えた足をペシと叩いた。
「大人しくする!」
その言葉に抗える筈のないサンジがぐっと息を飲んで大人しくなると、ナミは爪の先をゴムの末端に引っ掛ける。
破れないように注意を払いながら隙間を作り、もう一方の指で精液の溜まっている先端を摘んだ。仄かに熱を残すそこを引きながら、サンジからゴムを引き剥がしていく。
パチン、と小さな音がして役目を終えたゴムはナミの手元に移った。
中身を零さぬように口を結ぶと、ナミはそれを目の高さに持ち上げ、まじまじと見つめた。
「いっぱい出たわねぇ」
しみじみとそう言ったナミは、それだけでは飽き足らないようで、指先でたっぷりと詰まった中身を突いたりしている。
「・・・・そんなに見られると、何か恥ずかしんですケド」
おずおずと申し出たサンジを見上げると、ナミはぷうと片方の頬を膨らませた。
「昨日は私が見られたんだから、これでおあいこじゃない?」
「いや、見ないようにしてたってば!・・・・・・・・できるだけ」
小声で付け足し、サンジは苦笑を浮かべる。
「お陰で色々とイケナイ妄想が」
サンジの告白を聞くと、ナミは面白そうにその目を輝かせる。ベッドの上にポトリとゴムを落とすと、サンジの中心ににじり寄った。
「イケナイ妄想って、こんな?」
まだ濡れている陰茎に、小さく笑う息が拭きかかる。次の瞬間、ナミの唇がサンジの先端を咥え、つ、と吸い込む動作をした。
「う、あ!」
放出されずに留まっていた精液がずるりと吸い上げられる。引きずり出される快感に、サンジは低く呻いた。
その間にも、ナミの舌は精液を薄くまとった幹を一心に舐めていく。そんなナミの仕草に、今さっき果てた筈の欲望はいともあっさりと息を吹き返した。
「リベンジしていい? ナミさん」
笑顔の中の挑戦的な瞳をナミは見返す。
「望むところよ」
艶やかな笑みを返すナミに、サンジは思い出したように両手を合わせた。
「その前に一つお願い」
「なぁに?」
サンジは彼にしては珍しい、はにかむような笑みで口を開いた。
「・・・・好きって言ってもらっていい? 俺のこと」
サンジの言葉に目を丸くしたナミは、小さく噴き出し、それから微笑を乗せた唇を開く。
「好きよ。サンジ君、大好き」
そう言ってナミは、まるで日が射したかのように笑った。
終