+裏書庫+
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Moonlight Inferno |
Date: 2003-09-26 (Fri) |
天空に輝く白銀の月。
月齢は19。所謂「寝待月」だ。
その姿がなかなか現れない為に、寝て待つという謂われを持つ月。
―全くあいつは、大人しく寝てやしないんだから―
そんなことを考えている女も当然眠ってはいない。
気配を消すでもなく、割と無造作にその辺の引き出しを開け、戸棚を漁っている。
奥まで突っ込んだ指先に、冷たく固い感触。
おや?という顔をする女。
戸棚の奥からソレを引きずり出し、テーブルの上に乗せる。
探し当てた鉄製の箱には、しっかりと鍵が掛かっている。
そして、女がにやりと笑った時には、その鍵は既に外れていた。
落胆の表情を見せる女。
溜息を一つこぼして呟く。
「しけた町だわーっ、ウィスキーピーク」
それでもナミは、貰うものは貰ってから部屋を後にする。
手慰みに戸棚からウイスキーボトルを頂くことも忘れずに。
開いた窓から、猫の素早さで屋根へと飛びのる。
屋根の上に腰を下ろし、隣にある煙突に持たれかかる。
―この位置なら、あいつらに見つかることもないでしょ―
ボトルの封を剥がしつつナミは考える。
―それに―
見上げた空には、大きな月。
沈黙したまま、中空に漂っている。
静謐なる月の雰囲気をぶち壊す喧騒が、屋外でははっきりと聞こえる。
―私に気づく暇なんて、あいつがやるとは思えないし―
そしてナミは地上に視線を落とした。
果たして喧騒の原因はソコにいた。
100人は下らないであろう敵のど真ん中に。
ナミがボトルに口をつけて、傾けた瞬間にその姿はかき消えていたが。
地上では、悲鳴があがり、数名がほぼ同時に倒れる。
ゾロの姿は見えない。
屋根の上では、灼熱の液体がナミの喉を焼き、体内を駆け下りる。
どこか屋内に入ったのだろう。
間もなく、一軒の家から乾いた銃声が聞こえ始める。
間断なく続いていた銃声が、一斉に止む。
ナミは再び瓶を傾ける。
―あーあ、ご愁傷様―
大した感慨もなくそんなことを思ったところで、ナミの目はゾロをとらえた。
さほど遠くはない建物の2階へ、3階へと駆け上っていく。
ゾロは追撃者で鈴なりの梯子へと手をかけ、そのままひっくり返す。
―あンの、ばか力―
溜息をつきかけたナミは、そのまま息を飲む。
倒れつつある梯子を足がかりに空中へと踊り出たゾロ。
冴えた銀の月を背に。
その光を浴びて、更に冴え冴えとした光を宿す2本の血刀を手に。
返り血で、その身を彩る男に。
ナミは目を奪われた。
その瞬間、男がこちらを見てにやりとしたように思えたのは、気の所為だったろうか。
血まみれで微笑むその姿は、やはり魔獣と言う名に相応しく、否。
魔獣というよりは、死、そのものの象徴。ないしは死を具現化する者。
―そうね、死神の方が相応しいかしら―
若き死神が着地した瞬間に、その場に血飛沫が舞い、全ての人間が倒れ付す。
当の死神を除いて。
更に飛びかかってくる数名をかわしたところで、ゾロは背後をとられる。
大女の一撃は、辛うじてかわすが、そのまま地面に抑えつけられている。
女は振り上げた拳を、そのままゾロの額に叩きこむ。
大音響の後、場は静寂に支配される。
―あーぁ、可哀想に―
ぐびりと瓶を傾け、ナミは心底同情する。
勝利を確信しているその女に。
―あいつ、手加減なんかしないわよ―
静寂の一時が終了し、辺りに女の悲痛な声がこだまする。
ゾロが片手で女のこめかみを締め上げている。
泡をふいて倒れる女。
「続けようか、バロックワークス」
低くて、よく通る声。
酒の所為だけではない、ナミの躰はその声に知らず酔わされてしまう。
「ケンカは洒落じゃねェんだぜ?」
けして大声を出しているわけではない。
それでも、その自信に満ちた声は、地上の者を圧倒する。
両手に下げた白刃の切っ先から。
割れた額から。
血が滴り落ちる。
背にした月の色とは正反対の、紅い、朱い血。
ゾロは不敵な笑みと共に、流れ落ちてくる血を舐めあげる。
その舌は一瞬で鮮血に染まる。
―血の...匂い...?―
届くはずもない匂いがナミを包む。
それは、大勢の血の匂い。
そして、ゾロの血の匂い。
躰の最奥にある、欲望の根源に火をつける。
その声。その匂い。
その匂いがふ、と途絶える。
男女3人の攻撃をかわし、ゾロが階下へ移動したのだ。
ゾロの姿は見えない。
見えるのは砲撃をかける男。そして聞こえてきたのは着弾音。
―ゾロが来るわ―
血の匂いに、ナミがそう確信した瞬間、ゾロの体が地上から飛び現れる。
精悍な、狼のような身のこなしに、自然と惹きつけられてしまう。
―目が..そらせないわね、やっぱりアイツからは―
どう、と倒れ付す男をゾロは容赦なく地上へと叩き落す。
ゾロは一刀のもとに男を斬り伏せた、その刃を懐紙で拭う。
思う存分に人血を吸った壊紙は、風に舞うこともなくゾロの足元に纏わりつく。
―どうすんのかしら―
黙ってナミが見つめていると、ゾロは足元の壊紙をうるさそうに蹴り払い、その場に
腰を下ろす。
どこから持ってきていたのか、満足げな顔で酒瓶を傾けている。
―仕方ないわね、私が動くとしますか―
ナミは、空になった酒瓶を放り投げると、立ち上がって歩き出す。
殆ど酔いを感じさせない軽快な足取りで。
ゾロのいる建物へと。
と、地上で再び喧騒が巻き起こり、ゾロがひらりと地上へ飛び降りる。
ナミのいる場所からは死角となって分からないが、一悶着あったのは明白だ。
数名の人影と、幾度かの爆音、血煙、砂煙。
ナミがゾロのいた場所に到着した頃、ようやくそれらが晴れる。
ナミの眼下では、最後に倒された男、イガラムが必死の形相でゾロに助けを乞うている。
―莫大な恩賞 !?―
煩わしそうにその手を振り払おうとしているゾロの頭上から女の声。
「その話のったv 10億ベリーでいかが ?」
一刻の後、鮮やかな手並みでイガラムとの交渉をまとめ、ゾロを丸め込むナミ。
「大体、てめぇ、人が働いてる時にのんきに月見酒なんてしやがってよっ」
借金に縛られて戦いを余儀なくされたゾロ。これ以上はない、といった仏頂面で
ぶつぶつと文句を言っている。
―あぁ、やっぱり気づいてたのね―
あの騒ぎの中から自分を見つけてくれていたことが、ナミには少し嬉しくもある。
―じゃあ、何で片がついた後、1人で飲んでんのよ―
ということにも気づき、面白くない気もする。
「あんたねぇ、アレで働いたつもり? ケンカして自分が楽しんでただけじゃないのよ
あいつら斬ったって1ベリーの得にもならないじゃない」
ぐうの音も出ない様子のゾロ。
「と、言う訳でさっさとお姫様助けに行くように、じゃなきゃ今すぐ耳を揃えて利子返して」
はい、と手を差し出すナミ。
舌戦に再び敗北し、ゾロは苦虫を10匹ほどまとめて噛み潰したかのような顔をする。
「ちっくしょう、わーかったよっ、けどな...」
ゾロはナミの手首を引っ掴むと、有無を言わさずに建物の裏手まで引きずっていく。
そしてそれを、目を丸くしつつ呆然と見送るイガラム。
「ちょっと、あんた、何してんのよっ、さっさと行かないと...」
ゾロは、もう片方の手首も掴むと、そのまま壁に張りつける。
ナミの体は血の匂いで包まれる。
「うるせぇよ、 実質俺はただ働きじゃねぇか」
ゾロの顔が近づく。
血の香りが濃くなる。
「行き掛けの駄賃ぐらい貰ったっていいだろ...」
一度重ねられた唇が離れる。
「ナミ、てめぇが悪いんだぜ..折角気がおさまったってのに、また興奮させやがって..」
ゾロの言葉の途中で、ナミはゾロの首に両手を廻し更に深く口付ける。
「..んぅ...ふ.....」
先刻、ゾロの血を十分に吸った舌を今度はナミが一心に吸い、舐める。
その血の味を自らの舌に刻み付けるかのように。
先に仕掛けた筈のゾロの方が思わず苦笑する。
「...どうした、ナミ」
「...血の匂いがする...何だろ、すごく...」
そこで、言いよどんだナミの言葉をゾロが引き継ぐ。
「..興奮すんだろ...」
ばさりと血塗られたシャツを脱ぎさるゾロ。
鍛え上げられた固い肌のあちこちに半ば乾いた返り血の跡が見える。
ゾロはナミを後ろ向きにし、壁に手をつかせる。
「そういう人間だろう、俺も..てめぇもよ...」
後ろからきつくナミを抱きしめ、ゾロは左の肩口に口付け、その傷口に歯をたてる。
「っあぁぁぁっ...」
静寂の中、ナミの甘い声は思いのほか響く。
びくりと顔をあげ、ゾロはナミの口腔に人差し指をねじ込む。
「他の男に聞かすんじゃねぇよ、そんな声...」
「う...んっ...」
再び広がる血の匂いに、躰の芯だけでなくも理性すらも蕩けそうになる。
無意識のうちにナミは、ゾロの太い指に舌を這わせていた。
唇で指の根元を挟み、そこから指先まで舐めあげる。
間接のくびれに舌先をそわせ、舐め回す。
まるで口淫をされているような感覚に、ゾロの息も自然と熱くなる。
「..ったく、やらしいぜ、てめぇの舌はよ..」
ゾロは忌々しげに呟くと、ナミの下着に手をかけ、そのまま引き下ろす。
片足を上げさせ下着を引き抜く。
そして片手でズボンをゆるめ、はちきれんばかりの己の欲望を取り出す。
「..時間ねぇんだろ..挿れちまうぜ、ナミ」
前戯もろくにしていない、にも関らずしっとりと濡れているナミの柔肉は、さほどの抵抗も
なしにゾロの欲望を受け入れていく。
「んっ...んんんんんーっ...」
ナミの口の中で、ゾロの指は快楽を伝える音に震える。
「くっ...う..すげぇ、な..入っちまったぜ、ナミ...」
快感半分、呆れ半分といった風に顔を歪めつつも、ゾロは下から大きくナミを
突き上げ始める。
突き上げるたびに、引き抜くたびに、粘る水音が大きくなる。
ゾロは息を荒げながらナミの躰をまさぐる。
苛烈な、と言ってもいい程の愛撫。
大きな手に余るほどの豊かな膨らみを乱暴に揉み、指でその頂点を挟む。
散々その柔らかさを堪能すると、その手を下方へと伸ばす。
ゾロは、指先で肉芽を探し出すと抉るようにすくい上げる。
「んんぅっ...ふうぅぅぅぅぅーっ..」
そんな無骨な指が動くたびに、ナミの躰の中はひくひくと敏感な反応を見せる。
「..興奮してんだろ、ナミ..無茶苦茶立ってるぜ、上も、下もな..」
ゾロは汗を滲ませながら、にやりと笑う。
「..俺も、そうだがな、くっ、ぅ...」
言い終わるとゾロは一段と激しくナミを突き上げる。
がくがくと大きく揺すぶられるナミの躰。
そのたびに、ゾロの指がナミの2つの急所を刺激する。
「っうぅんっ...」
「っう...そろそろっ、イ、くぜ..ナミっ..っふぅっ...」
大きく息を吐くゾロ。
血にまみれた吐気の中、ナミの躰は一気に絶頂へと向かう。
「っナミ、ナミっっ ...うぅっ.. 」
「っうぅぅぅぅぅぅんっ..んんんーーーっ !! 」
絶頂の瞬間、噛み締めた歯の間から流れ出たゾロの熱い血がナミの口腔を
満たした。
「痛ってぇなっ、噛み切るんじゃねぇよ」
「うるっさいわねぇ、あんたが突っ込んだんでしょう !! 」
嵐のような情事の後で、顔を真っ赤にしてナミは言いかえす。
「とにかくっ、早く行かないと今の駄賃分も3倍返しにしてもらうわよっ」
ずいっと凄むナミ。
渋々とゾロはズボンをあげ、再び戦場へと赴く。
「てめぇ、ろくな死に方しねぇぞっ」
そんな負け惜しみに動じることなく、ナミは平然と言葉を返す。
「そうね、私は地獄へ落ちるの」
そんなナミの言葉は届いたかどうか、ゾロは既に走り出していた。
「そうよ、私は地獄へ落ちるの....」
ナミは、遠ざかるゾロを見つめながら、小さな声でもう一度そう呟く。
―じゃなきゃ、もう一度あんたに会うことなんて出来ないじゃない―
ねぇ、とナミは漆黒の空に鎮座する月を見上げ、微笑む。
―どっちが先に逝くかは分からないけど、寝ながら来るのを待つことになるのかしらね―
今夜の月のように。
終
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