+裏書庫+


  Performer Date: 2003-09-26 (Fri) 
「つっかれたぁぁー」
ナミはペンを置くと、目の前で組んだ両手を裏返して天井に向ける。
そのまま思いきり伸びをすると肩のあたりがコキリと軽く悲鳴をあげた。

―何かもう体がガチガチ―
そう思って思わず苦笑する。
つい先程まで本当に固まっていたのだ。

巨人島。リトルガーデンにて。
蝋漬けにされて半ば意識を失うといった有様だったのだ。

―全く、よく助かったものだわ―
あの子も、そしてあいつも。

―全く馬鹿なんだから、アイツは・・・人の気も知らないで―
自ら足を切り落とし、それでも戦うと、勝つと言い切った男。

―ホントに馬鹿―
ナミの口から溜息が一つ零れ出た。その中には安堵の成分が多分に含まれていたのだが。
と、ゴンゴン頭上から音がする。
あ、と思って天井の扉を見上げると鍵がかかっている。
ナミはサンジに上着を借りたままま姿だ。
進路を確認してから着替えようと鍵をかけていたのを失念していた。

「あ、今開けるわ、ちょっと待って」
鍵を外して、扉を開けると目の前には血の滲む包帯。
ゾロだ。

真白な蝋の隙間から溢れ出る鮮血。
ナミの脳裏にその瞬間の映像がリアルに蘇る。
動揺を隠すのに憎まれ口をたたくのが精一杯だった。

「あんたねぇ、いきなり痛そうなモノ見せないでよ」
「うるっせーな、ほっとけ!!」
そのままズカズカと下へ降りてくる。
「・・・・・痛くないの?足?」
ナミの声に心配げな雰囲気を感じ取ったのか、ゾロはニヤリと笑って見せた。
「あぁ、大丈夫だ・・・」
「痛覚馬鹿」
先刻よりは幾分口調が軽くなったナミ。
ゾロは笑いながらも、すれ違いざまにその頭を軽く小突く。
「一言多いんだ、てめぇはよ」

そのままベッドの縁に腰をかけたゾロにナミは尋ねる。
「皆は?」
「食料取りに行った」
食料?なんの事かと聞き返しかけて、はたと思い当たる。
「あぁ、あの馬鹿勝負」
きっぱりとそう言いきったナミにゾロはムッとしながら言いかえす。
「馬鹿、馬鹿うるせーんだよ、てめぇは。大体勝負ってのはなぁ・・・」
長引きそうな話を無視してナミは自分の疑問を優先させる。

「・・・で、何であんたが船にいるの?」
「残ってろとよ、皆に言われたんだ」

本人は痛みをおくびにも出さないが、足の傷は決して浅くはない。
それを心配してのことだろう、そう思いながらもナミの口から出た言葉はかなり辛辣なものだった。

「あんたが一緒じゃ皆で遭難するのがオチでしょうからねぇ」
ぐ、と息を飲むゾロ。何かを思い出したのだろう。
「で、あんたちゃんと場所説明できたの?」
無言のまま一方向を指差すゾロ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あんた・・・そっちは海・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

重苦しい沈黙の中ナミは必死に「方角の神様」に祈った。
クルー達の無事の帰還を。




「おいっ!! おい、ナミっ!!」
一心不乱に祈っていたナミは、ゾロに呼ばれて我に返った。
「ちょっと、コッチに来い」
いつもなら、あんたが来なさいよ位のことは言うのだが、やはりゾロの足の具合を気遣って素直にナミはゾロの前まで歩いていく。
「何?」
ゾロは答えない。ガリガリと頭を掻いたり、わざとらしく咳をしてみたり。
「何よ」
ナミが語調を強めると。

「・・・・・お前・・・・・ちょっと脱げ、ソレ・・・・」
とゾロが指差したのは借りたままのサンジの上着。

「・・・・は?」
「・・・・いいから脱げって」


―はぁん、上着、上着ねぇ―
妬きもちなんて可愛いトコあるじゃない、とナミにちょっとした悪戯心が宿る。

「ふふふ。サンジ君てやっぱり優しいわよねぇ。すぐに気づいてコレ着せてくれたんだから。
ずっと一緒にいたのにシャツ一枚も貸してくれなかったお馬鹿さんとは違うわよねぇ」
言いながらポンポンと緑の頭を叩き、ナミは殊更に笑顔を見せる。
と、ボールよろしく頭を叩かれながらゾロは怪訝な顔をする。

「あ、お前何言って・・・・・」
―あれ?違うのかしら―
てっきり妬いてるものだとばかり思っていたのに。

「・・・・・・・あ゛ーーーっ!! その上着、エロコックのじゃねぇか!!」
突然大声をあげるゾロ。上着を指した指先をぶるぶると震わせている。
「てめぇ、いつまで着てんだ、そんなのっ」

―気づくのが遅いのよ―
ナミはがっくりしながら溜息と共に言葉を押し出す。

「丁度着替えようと思ってたところにあんたが来たんじゃない、何今更・・・」
「・・・そうだ、大体、何しに来たのよ、あんた」
逆にビシリと指を差され、途端にゾロは答えに窮する。

「・・・うっ・・・だから脱げってんだろうがよ」
「だから、何で突然"脱げ"なのよ。理由を言いなさい、理由を」
「脱ぎゃ分かかんだよ、脱ぎゃっ・・・・」
「分かんないから聞いてんじゃないのよっ」
「だからっ・・・・・・・・」
「このスケベっ」
「ぐっ・・・・・」
「エロ剣士っ」

ズバズバと斬り込んでくるナミの攻撃に、いよいよ耐えきれなくなりつつあるゾロ。
腿の上に両肘をつくと、今度は自分の手で自分の頭を抱え込む。
よくよく聞くと、うーー、などと低い唸り声を出している。
そして突然あげた顔の、その瞳は剣呑な光りを発している。

―やばっ、キレちゃったかしら、こいつ―
ナミがそう思った次の瞬間には既にゾロに抱きかかえられていた。

抱き寄せたナミの体を強く引き寄せ、ベッドへと引きずり込む。
ナミがもがきだす前に、その華奢な背の上に覆い被さる。
抱きしめようと体を寄せると上着から仄かに煙草の香りが。
サンジの香り。
いつもなら気にも止めないその香りが今はヤケに鼻につく。

「脱げっつったろ!」
ナミの首を押さえて乱暴に上着を引き剥がす。
「っや、ゾロっ、痛っっ」
小さな悲鳴を無視してナミの頭上に上着を投げ置くと、改めてナミを抱きしめる。

それで気が済む筈、だった。
邪魔なモノを脱がせて抱きしめれば、このイライラもおさまると、そうゾロは思っていた。

―気の所為なのか、気にしすぎなのか―
上着を脱がせてもナミの躰からサンジの香りが抜けない。
ゾロはナミの頭の向こうにある上着に一瞥をくれると、そこにはいない相手に舌を出す。

―こいつはお前んじゃねぇんだよ―
そう毒づきながらゾロは、ナミの首筋に顔を埋めた。



肌を這う柔らかく、濡れた感触。
髪の毛が絡みつくのも構わず、ゾロの舌は何度もナミの首の上をなぞる。
その度にナミの肩が小刻みに震える。

「んっ...や、馬鹿、ゾロ、止めて、よ...」
細い息と共にナミは呟く。
ゾロは黙ったまま、柔らかなオレンジの髪の中に大きな手を滑りこませる。
その髪を梳くように手を動かす。
身悶えるナミをあやすかのように。

そして顕れた小さな耳に口を寄せる。
「こんな体勢で、んな声聞かされて止められるわけねぇだろ」
そのまま耳朶に軽く歯をあて、その隙間から零れる柔らかい部分に舌を這わせる。
そして空いた手を無造作にナミのスカートの中へと運ぶ。
既に薄い布一枚では隠しきれないほど熱く湿り気を帯びている窪みを指の腹で強くなぞってやる。

「ん...く...」
窪みに指が引っかかる度にナミの細腰が誘うように揺れる。
誘われるがままに布団の中に着衣を脱ぎ捨てると、ナミの下半身を覆う邪魔な布を引きずり下ろす。

ゾロは、とうに戦闘準備ができている己の分身を熱い潤みの縁にあてがう。
と、ゾロの太い腕に捕まえられたまま、突然ナミがその半身を起こした。

その視線の先には、ついさっきゾロが放り投げたサンジの上着。
「や、これっ、サンジ君の上着っ、どかしてっ」
「ただの上着だぜ、気にするこたぁねぇだろうが」

ゾロとしては、二人きりの閨の中で他の男の名前が出たことの方が気に入らない。
いやよ、と上着に伸ばしかけた手首をゾロは掴み、シーツへと押し付ける。
「いいじゃねぇか。見せつけてやろうぜ」
低く笑いながらそう言うとゾロは、ナミの中深くに潜りこんでいった。



ポツリ・・・・・
ゾロの掌に零れ落ちてきたのは一滴の雫。
少しの間掌の上で踊っていた雫も、ゾロの激しい動きの所為で、次の瞬間にはそこから零れ落ちてしまう。

「泣くほど、いいってか?」
ゾロはニヤリと右頬を歪めてナミを見やると、からかいを含んだ言葉を投げる。

「っ...く..そんなコト、ない、わっ」
新たな雫を目の縁に宿らせつつも意地を張るナミ。

「じゃあ、顔見せろよ」
「やっ!!」

そう言うとナミは自らの顔をシーツに押し付ける。
ばさり、とオレンジの髪がシーツの上に鮮やかに散らばる。

―花、だな―
綺麗だ、ゾロはふとそんなことを考えはした。

だが、耳にした途端にゾロの全身の血を沸騰させるナミの嬌声。
いつもゾロを昂ぶらせるその甘い声が、くもぐった、ただの振動へと変わってしまったのが癪に触る。

つまらなさそうな、悔しげな表情を浮かべつつゾロは、ナミの頭に手を回し、何とか振り向かせようと躍起になる。

「こっち向けよ!」
「絶対イヤ!」



そうかよ、とゾロは再びナミの内部を弄り出す。
と、突然。

「っ痛ぇっ....」
搾り出すような声と共にゾロは突然に動きを止める。

―まさか、傷が!!―
思わず身を捩ったナミが見たものは―

肩を震わせて笑いを堪えているゾロの姿。
「やっとコッチ見たな」
お得意の人の悪い笑みを浮かべるゾロ。
一旦腰を引くと、自分を指して口をぱくぱくさせるナミを仰向けにする。

「悪ぃな、騙して」
言い終わるか終らないかの内に、ゾロは再びナミの中深くを刺し貫く。
「んぁぁぁぁあっ...」
切ない声と共に背をそらせるナミを満足げな表情で見つめると、ゾロはお預けを食らった分を取り戻すかのようにじっくりとその甘さを堪能していった。




そーっと倉庫の扉を開けると、ナミは目と耳だけを出してあたりを確認する。
汗やら何やらでベタベタの体は水を吸った綿のようだ。
人の気配はない、まだ皆帰ってきてないらしい。
大雑把な(に違いない)ゾロの場所説明のおかげかしら、とナミは出会ってからこっち
初めてヤツの方向音痴に感謝をしてみる。
疲労困憊の体に鞭打って一旦部屋に戻ると、早くも眠ってしまったゾロのシャツをかっぱらう。
頭から被ると、汗臭いわ、焦げ臭いわだが、贅沢を言っている暇はない。

準備だけはしていた着替えを抱えて浴室に駆け込むナミ。
大慌てで汗を流し、身支度を整えてようやく落ち付く。

髪の水気を拭き拭き倉庫まで来ると、今だ熱気がこもるナミの部屋からは高いびきが聞こえてくる。

―人の気も知らないで―
殴ってやろうかとゾロに近づくと、その傍らに1枚の紙切れが。
拾って見てみると、そこには大きな文字で、こう書きなぐってある。

『皆が帰ってきたら起こせ』
そして散々書いては消し、消しては書いた跡のみえる下の方には、小さく・・・・・・
『効くかどうか分からねぇが、腹に塗っとけ』

―薬、渡しに来たんだ―
ナミはクスリと頬をほころばせながらベッドの脇にしゃがみ込む。
さっきまで見せていた荒々しい男の顔とは全く違うその寝顔。
遊び疲れて眠ってしまった―そんな感じがする。可愛い寝顔。

―何で最初っから素直にそう言えないのかしら―

「ばーか」
愛しさを込めて、規則正しく上下するゾロの頬に軽くキスを落とす。
ナミとしては本当は抱きしめてしまいたかったのだが。
と、いつもなら何をやっても反応しない筈のゾロがピクリと体を動かす。

―こいつ・・・・―
ピンときたナミは、にやにやしながら呟く。

「さて、サンジ君に上着返しに行こうかなぁ・・・」
それは、ナミの意図的な独り言。

そしてまんまと引っかかる男がここに一人。

「待て、てめぇ!!!」
いびきをかいていた筈のゾロがガバリと起き上がる。
そのままナミの目の前で、先程の蝋人形状態よろしく固まる剣豪。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぷ、ぷぷっ、悪かったわね、騙して」

本日二度目の沈黙。
それを破ったのは、ゾロにしがみつきながら弾けるように笑い出したナミの声だった。


・・・・・それでは、どちらの演技が上手なのかの判断は観客の皆様の御心に委ねて・・・・・・

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