+裏書庫+
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緋の滴瀝 |
Date: 2003-09-26 (Fri) |
「さわんないで!!」
自分の方を向かせようと、その手を頤にかけた瞬間。
振り払われた手と、明らかな拒絶の言葉は男の眉根を顰めさせる。
平素、無愛想な男の顔が一層険悪なものとなるのを気にもせずに、女は再び目を瞑り、
押し黙る。
「顔...青くねぇか? お前...」
ゾロの言葉の下から、ナミの体がふらりと揺れる。
膝から崩れ落ちた、その体をゾロは寸でのところで抱きとめる。
その瞬間に何かを嗅ぎとったゾロの目が細まる。
腕の中でもがくナミの手の動きは弱く、たどたどしい。
黙ったままゾロはナミを抱き上げ、ベッドへと横たえる。
自分はその傍らに立ち、ナミを見下す。
幾ばくもなく、ゾロが口を開く。
「・・・・・・もしかして、血ィ足んねぇ日か? お前・・・」
その言葉に微かに驚いた顔を見せたナミは目線だけ動かしてゾロを見る。
「・・・・・・・そう、あんたの言う通りよ...」
溜息を一つ溢すと、力なく続ける。
「だから出てって―
今夜は何も話したくないし、誰にも触れられたくないの」
顔を隠すように腕で覆い、そう言ったきりナミは動かない。
そしてゾロも動く気配を見せず。
「・・・何してん...っ!?」
苛立ちを隠せない言葉は、半ばで驚愕の叫びにすり代わる。
ベッドが男の重みで沈み込んだかと思うと、瞳を覆っていた腕が捩じり上げられる。
光を閉ざしていた瞳は急に与えられた灯りに眩み。
力入らぬ体では抵抗することは敵わず。
ゾロは易々とナミの自由を奪い取った。
ナミの唇に触れるかどうかの距離でゾロの唇が動く。
「・・・辛ぇの...忘れさせてやるか?」
その言葉は問いかけの形をとってはいたが、ゾロの中では既に実行が決まっていた事項
であった。
その証拠に、ゾロは僅かに口の端を歪めると、ナミの答えを待たずしてその柔らかな
首筋に唇を落とす。
「...っや、だ...冗談やめてっ、ゾロっ!!」
ただでさえ自由のきかない体は、ゾロによって完全に束縛され、
「今日はっ...やだ、て言ってるのに...」
ナミに出来ることは、僅かに顔を背ける―それだけだった。
イヤだと言い続けるナミの声に嗚咽が混じり始めた頃、ふいに腕の戒めを解くとゾロ
は耳打ちする。
「本当にイヤか? ナミ....」
ゾロの言葉にビクリとナミの肩が震える。
喉の奥で小さく嘲い、続けるゾロの台詞は底意地の悪いものだった。
「・・・・血の匂いが濃くなったぜ」
「・・・ウソよっ!! そんなの」
きつい色で見返すナミの瞳に、薄い笑いを張りつかせたゾロの顔が映る。
「そういやお前、海賊狩りやってた頃の俺の二つ名、知ってるか?」
東の海でその名を知らない者はいないだろう。
「・・・・・"魔獣"・・・・」
「そう、血に飢えた―だ」
その笑みは凄みを増し、一段と近づいてくる。
「確かにあの頃は毎日のように血を見てたからな、けど最近はとんとご無沙汰
でよ...だから―」
一瞬の間。
「血を感じると疼きやがるんだ、この体はよ」
そう言ってゾロは声を出さずに笑う。嬉しそうに。
その瞳は、獲物を見つけて昂ぶる狩人のそれだ。
「・・・・だから、止めらんねぇぜ、もう...」
残忍なる宣言。
だが低く囁くその声は、ナミの耳にはいっそ甘く響いた。
瞳の際に滲む涙の粒が大きく震える。
自分が既に捕らわれていることをナミは悟った。
その瞳に
その声に
心を押しのけてでも器が従おうとしてしまうことも。
そして
本気で自分を狩ろうとするこの男からは―
―逃げることなんて...できない―
ゆっくりと閉じられゆくナミの瞳から、真白なシーツへと涙が一滴零れ、
心を道連れにして、墜ちた―
ゾロの乾いた大きな手がナミの躰の上を這い、薄い上着を捲りあげる。
いつもより張りのある乳房の一方をじんわりと揉み上げ、もう片方の頂点をちろりと
舐める。
「っあ...あぁあっ!!」
湧き上がる嬌声はいつも通り甘やかではあるが、血が足りない所為か、ナミの躰
が見せる反応は酷く緩慢だ。
ゾロの愛撫にナミの手足は弱々しく浮いたかと思うと、間もなく沈んでいく。
身動きできぬ者を支配すること。
その躰を思いのままにできる愉しみ。
甘美なまでの背徳感がゾロを包む。
我知らず口の端を歪め、ゾロはナミの太股に手をかける。
手に伝わる抵抗は無いも同然で、ゾロはあっさりとナミから下着を取りさる。
瞬間、立ち込める血の香り。
合わいめより溢れた血糊。
それを指で掬うとナミにも見えるように眼前に翳す。
「お前、すげえよ」
「や、だ....ゾロ...言わないで...」
足を閉じることもできず、弱々しくナミは呟く。
「何でだよ...」
ズボンを弛めながらゾロは続ける。
「・・・・イイじゃねぇか、緋くて...甘くて....」
そう言うとゾロはナミの両の足首を持ち上げ、自らの肩に乗せる。
血塗れたゾロの手が、ナミの滑らかな足に朱の線を残す。
暴かれた濡れ光る紅の花弁。
其処をじっと見つめるゾロは凄絶な笑みを浮かべ囁く。
「・・・・狂っちまいそうだと思わねぇか?」
濡らす必要ねぇな、今日は。
そう一人ごちると、ゾロは血だまりの口へと切先を押し当てる。
「ぁ....」
ナミの口から小さな吐息が零れ落ちる前に、ゾロは一息に腰を突き入れる。
「ぁぁあ!? あ、やぁっ...あぁぁぁぁっ」
驚きを含んだ嬌声が響く。
ゾロが沈みゆく時のぬめる水音よりも、堪えきれずにゾロがこぼした溜息よりも大きく、そして甘く。
相変わらず、ナミの四肢は動かないが反らせたままの背と首筋が快感の凄まじさを物語っている。
「あっ..う、そっ....嘘っ...こんな、のっ...」
「何、言ってやがる」
揶揄するようにそう応じ、浮かべたいつもの皮肉な笑みは長くは続かず。
「っ...熱い、ぜ...いつもより、お前っ」
侵入する何もかもを溶かしてしまいそうな程の熱に顔を歪めながらも、ゾロは腰を送り始める。
荒々しく打ち込まれる度に柔らかな髪は乱れ、細い腕がシーツの上で揺らめく。
それは、絶息寸前の蝶を思わせた。
蝶ならば、こんなにも甘やかに喘ぐことはないのだが。
腰を引くと目につく、朱に染まった分身と纏わりつく緋の芳香。
呼び覚まされるのは自分の中の狩人、否獣の血だ。
―とっくに狂っちまってるさ―
再びナミの中深くに突き刺しながら、ゾロは思う。
―血に染めてまで、この女がこんなにも欲しいんだから―
そんな考えを振り捨てるようにゾロは再び行為に没頭する。
苛烈、と言ってもいい程の動きにナミの躰は完全に力を失い、喘ぐその声も掠れかけている。
そんなナミを見下ろしながらゾロは忌々しそうに、熱い息を吐く。
「てめぇっ、体、動かせねぇくせに...何でここだけっ...」
内部に存在する粘性の血の所為だろうか、ナミの襞はいつも以上にきつくゾロを締めつける。
気を抜けばすぐにでも達してしまいそうだ。
ゾロは唇を噛み締めて何とか意識を保つ。
しかし、ナミの掠れれて尚煽情的な声がゾロを絶頂へと引きずりあげる。
「・・・・!! はっ..っん...ゾロ、も、私っ」
そう言い終わるやいなや、膣口が一気に締まる。
どくり
新たに流れ出た赤い体液は行き場をなくし、ナミの中で卑猥な水音をたてる。
その音が更に二人の情を煽る。
「.あっ..あぁぁ、も、だめぇ、ん、あぁぁぁぁぁっっ」
びくびくとナミの中が痙攣しだし、その度に熱く粘る液がゾロに絡みつく。
先に墜ちたナミを追うようにゾロは激しく腰を送る。
そして
振りきれそうになる理性の、その際で踏みとどまると、ゾロはナミの体内から自らを抜き取る。
ボタリ
シーツの上に鮮血が落ちる。
「っ...あ、くっ」
それに構わずゾロは、ナミの腹の上に精を吐き出す。
荒い息遣いに同調するように滴り落ちる赤の液体。
それは人を斬った直後の刀から滑り落ちる、あの滴と同じ色をしていた。
気を失ったのかナミの体は微動だにしない。
荒かった呼吸が落ちつくにつれ、ゾロの体を気だるい疲労感が襲う。
どさりと腰を落とすとゾロは片膝を立て、暫くの間情交の跡を見つめていた。
目が離せなかった。
白布に染み込んだ血痕はあまりにも緋く―
白肌に纏わりつく鮮血があまりにも綺麗で―
ゾロは溜息と共にかぶりを振ると、目を伏せ眉間を膝に押し当てる。
それでも―
閉じた瞳はいつまでもその滴りを忘れることができなかった。
終
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