+裏書庫+
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Sleep Disorders |
Date: 2003-09-26 (Fri) |
*"SleepWalker"続き*
階段を降りると、そこは見慣れた女の部屋。
インクの香りが強い時は早々に追い出され、アルコールの香りが強い時は大抵、早朝まで共に過ごす。
それが、ここでの俺達の暗黙の了解。
今日はコーヒーの香りだ。
―さて、どっちに転ぶか―
俺は勧められもしないうちからソファにもたれて床に座る。
ここが一番落ち着く場所だ。
カウンターでコーヒーをカップ移しながらナミは言う。
「あんたねぇ、ソファって座る為にあるのよ」
「うるせぇな、いいんだよ。俺はここで」
そんな俺をじっと見つめて、ナミはわざとらしく溜息をつきやがる。
「あんたって、そんなに地べたが好きなのに何で方向音痴なのかしら・・・」
―さっきのはわざとだって言ってやろうか―
そう思ったが、やめた。後の追及をかわしきれる自信がねぇ。
口でこいつに、かなうはずがねぇもんな。
黙ってるとナミがカップを両手に持ってこっちに来る。
こいつ俺にコーヒー飲ます気じゃねぇだろうな。
と、カップからはウィスキーの香り。
アイリッシュコーヒーか。
―甘くしねぇところがコイツらしいな―
甘すぎる酒は似合わねぇからな。俺にもコイツにも。
ナミは俺にカップを渡すと後ろに回りこんで座る。
俺が邪魔で足の伸ばせねぇだろうと思っていると、俺の頭を挟みこむようにして、両足を俺の肩にのせてきやがる。
―この女、このまま襲ってやろうか―
と思ったら頭上に、ナミのカップが見えた。
―下手に動くと熱湯地獄って訳か―
相変わらず隙のない女だ。
わざとなのか、たまたまなのか分からねぇがところが、またタチが悪い。
―とりあえず、コイツが飲み終わるまで待つとするか―
とナミの手が俺の額に当てられる。
その手の冷たさが、俺の頭に一瞬のぼった熱を冷ます。
「さっき....痛かった?」
「あぁ?」
―一応気にしてたって訳か―
いや、油断してたから、結構効いたといえば効いたんだが。
大丈夫だ、と言おうとして気が変わった。
そう言えば、こいつには昼間にもっと痛い思いさせられてるしな。
「うぅっ...」
俺は軽く身をに屈めると、大仰に唸って見せた。
「ど...どしたのっ !!...」
ナミは焦ってカップを床に置くと俺の前に身を屈める。
「昼間...お前に蹴られてから...くっ..おかしんだよ...くっ」
俺は笑いを堪えながら話したんだが、その調子がかえってリアルに聞こえたらしい。
薄く目を開けて見ると、ナミは顔面を蒼白にしている。
少しは心配させようとした目論見が当り、俺は満足した。
自由に身動きもできるようになったし、一石二鳥だ。
しっかし、この女がこれだけうろたえるのも珍しい。
慌ただしく俺のズボンをゆるめて、脱がそうとしている。
「くっ..くっ、くくくっ、はははははっ !! 」
我慢の限界を超えて、爆笑する俺。
そんな俺をナミはキョトンとした顔で見ている。
―珍しく、可愛い顔するじゃねぇか―
などと考えた瞬間、ナミの顔が、さっと紅潮する。
かつがれたのに気がついたんだろう。
尚も笑い続ける俺。
と、ナミは俺のズボンに手をかけると、思いきり引っ張りやがった。
余りの意外な行動に、俺の笑いもさすがに止まる。
「あ・ん・た・ねぇ〜」
地の底から響くようなナミの声。
―ヤバイ、相当怒らせたか?―
俺は思わず、ずるずるとソファの上へと後退する。
ナミは俺の腰が浮いた瞬間を見逃さずに、更に力を込めてズボンを引きずり下ろした。
「なっっっ」
下半身だけ剥き出しにされ、俺は思わず硬直する。
すかさずナミはにじり寄ってきて、世にも恐ろしげな宣言をする。
「人、驚かすのもいい加減にしなさいよっ。こんなモン食いちぎってやるからっ」
―なんだとっ―
ホントにやりかねん、こいつは。
後ろに下がろうとしてもそれ以上は下がりようもなく、ナミの顔が俺の下半身に近づく。
「ナミっ、やめっ....」
俺の制止は途中で止められた。
それは、痛みによってではなく快感によってだった。
ひやりとした感触。
それは女の唇の持つ感触。
俺に抱かれる時だけでなく、ただ気紛れに唇を合わせてくる時にも感じるが、こいつの唇は大抵冷たい。
―こんなに紅い癖に、何であんなに冷たいんだ―
だからこそ俺はこいつの唇を舐めるのに、ついつい夢中になってしまうんだろう。
少しでもその熱をあげたい、という欲望のままに。
しかし、そんなことを考えることができたのはほんの一瞬の間だけだった。
さっき感じた冷たさが嘘のように、ぬるぬるとした温かい感触が、俺自身を包む。
口腔全体で包み込み、舌先を幹にあて、なぞり上げる。
白皙のこの女の、唇だけが異様に紅い。
紅い空洞の中に俺自身が吸い込まれている様はとてつもなく卑猥で―
それを見てるだけで腰が疼く。
体中の血がその一点に集中していくのが、はっきりと分かる。
急激な形の変化にナミが、くっと喉を鳴らす。
それでもナミの唇は俺を放すことなく、俺を締めつける。
咥えられるまで咥えこむと、焦らすようにゆっくりと引上げる。
そして、今やハッキリと形の浮き出た先端へと舌を伸ばしてくる。
「っつ...」
敏感な筋をなぞられ、その先の割目にまで舌を入れられ、流石に俺の口から声が漏れる。
・・・その瞬間
紅い口元が歪んで見えたのは―
嘲っている様に見えたのは―
―俺の気の所為だろうか―
俺が声を漏らしたことで気をよくしたのか、ナミは嵩に懸かって俺を責め立てる。
口に入りきらない根元に手を添え、口の動きと連動させる。
零れ落ち、幹を伝うナミの唾液が淫猥な水音をたてる。
―畜生っ、コイツどこでこんなコト覚えてきたんだ―
それは、俺がこいつと肌を合わせるたびに感じる些細な嫉妬心。
それでも、そんな感情はこいつの躰を前に長続きすることはない。
そして、今も。
俺の中心に集まった血が、狂ったように暴れだす。
ギリギリと神経が悲鳴をあげ始める。
感覚は快感と苦痛の狭間をさ迷い続ける。
心臓よりも激しく脈打つ俺自身。
―ヤベェ―
ナミの舌にだけでなく、自分の脈動にすら快感を感じてきちまう。
「ナミっ...くっ....」
思わず顔が歪む。
情けねぇツラしてんだろうな、きっとよ。
そんなことを考えた瞬間。
熱が引いた。
すっ、とナミの顔が離れる。
最後まで俺とナミを繋いでいた唾液の糸が途切れ―
ナミは自らの唇に舌を這わせ、零れた液体を舐め取る。
これ見よがしにゆっくりと。
艶かしい微笑を浮かべながら。
「食いちぎるのは勘弁してあげる。後は帰って寝なさい」
―はっ、これが報復って訳かよ―
満足げな笑みを浮かべ、俺の膝に両手をついてたちあがろうとするナミ。
潮の香を残すオレンジの髪がさらさらと目の前を零れていく。
だが―
俺は知っている。
俺を感じさせながら、こいつも感じていたことを。
纏うその香りが変わったことを。
だから―
だから、俺はナミの手首を掴んで思いきり引き上げた。
軽々と浮き上がった腰を片手で引き寄せ、腿の上に座らせる。
顔をあげるとすぐ傍にナミの瞳。
挑むように真直ぐ俺を見下ろしている。
―睨むんじゃねぇよ、んな濡れた目で―
俺は目を逸らさずにナミの襟首を掴む。
唇が触れるか触れないかの距離で俺は言う。
「ここまでされて大人しく帰ると思うか? 俺が」
俺の言葉にナミが、クスリと笑う。
熱を帯びた息が触れる。唇に。
その甘さに眩暈までしやがる。
「やらしいわよ、あんた。昼間っからヘンな夢見てたくせに...」
―ったく、どのクチがんなこと言うんだか―
思わず苦笑しながら、俺はゆっくりと唇の紅を手繰り寄せる。
「夢に出されたくなかったら、今抱かせろよ...」
慌ただしく服を脱ぎ、手触りのいい女の内腿に手をかける。
その瞬間、ナミの躰は小さく跳ね俺の手に僅かばかりの抵抗が加わる。
「足、開けよ」
憮然とした俺の口調に、ナミは吐息混じりにだってと呟く。
「・・・灯り、おとすからちょっと待って...」
そう言って起き上がろうとする、その動きを俺は封じた。
「てめぇ、今まで散々人のモン弄っておいて今更何言いやがる」
それに―
俺は最後に残された薄っぺらな布の隙間に指を挿し入れる。
「あぁあっ....」
理性の箍を外さんとするその声と。
俺を誘い続ける其処は、果たして熱く零れんばかりに潤んでいた。
悦びに口の端が自然と弛む。
「焦れてんじゃねぇかよ、てめぇも」
俺は薄く嘲うと、十分に水気を吸い込んだその布を一気に引き剥がす。
瞬間、たちのぼった匂いは甘い―
余りにも甘く。
この女の匂いが―
俺の箍を―
僅かに身じろぎするナミに構わずに、俺はその潤みに口づける。
「っあぁっ!! 」
唇が動く度、敏感にしなるナミの躰。
俺の唇から快楽を得いてくその姿に否が応にも興は高まっていく。
深い口づけのように舌を挿す。
水音と吐息を供として。
深く、深く、柔らかな襞をなぞりながら奥にまで。
溢れ出す液体は益々熱く、甘く、俺の喉を濡らしていく。
「っあ、はぁ...ね、ゾロ...」
絶え絶えの息の中、ナミが濡れた声で囁く。
秘唇を舐めあげながら顔をあげると、実際その瞳は濡れていた。
快楽に耐えきれずに溢したのであろう涙で。
水をたたえ、切なげに光る瞳。
長い睫がゆっくりとおり、その瞳を隠す。
俯きつつ、ナミは消え入りそうな声で呟く。
「私にも、させて....じゃないと私、もう....」
ほんの少し前までひっきりなしにあがっていた嬌声が消える。
代わりに響くのは秘所と唇の発する水音と、くもぐった息遣い。
飢えた獣のように俺達は互いを貪りあった。
俺がナミを啜りあげる。
ナミが俺を飲み込む。
体内に潜ませていた液体が流れるままに、俺達は舐めあい、濡れあった。
「・・・っつ、くっ...」
絡みついてくるナミの舌に顔を歪めながらも、俺はナミの花弁を押し広げ剥き出しとなった花芯に舌を伸ばす。
「っきゃあぁぁぁっ...」
何処よりも感じ易い場所に触れられ、ナミは俺から唇を離す。
その表面を舌でなぞりながら、俺は唾液と愛液でぬかるんだ谷間に指を潜らせる。
途端に俺の指はきつく内壁に締めつけられる。
軽く花芯を吸い上げると、ナミの襞が一段と大きく収縮する。
絶頂を兆している証拠だ。
「・・・このままイカせてやるか?」
「あぁっ、や、だ...やっ、来て、ゾロっ! 挿れて、は、やくっ..」
問うた端から拒絶される。
激しくも甘いその言葉に、俺の最後の箍はあっさりと吹き飛ばされた。
ガバリと身を起こし、ナミを組み敷く。
次の瞬間には俺はナミの中深くを抉っていた。
液体の溢れる其処は熱く柔らかく、そして滑らかだった。
どこまでが俺の躰でどこからがナミの躰なのか分からなくなるほどだ。
「っふ、あ...あぁっ、あぁぁぁぁっ!!」
一心に腰を打ちつける俺の下で、今度はナミが絶え間ない快楽に煩悶する。
しかしそれは俺も同じだった。
「っつぅ!」
喉の奥から漏れ出る呼気がやけに熱い。
突き入れる度に頭が痺れ、引き抜く度に躰が疼く。
そして―
熱が、一気に全身に広がる。
自制か理性か、そんな名のついた箍ごとを焼き尽くさんばかりの熱が。
「っぁ、ダメっ、ゾロっ!! も、う...限界っ、あ、あぁぁぁっ!!」
高く、細い絶叫と共に小刻みに震えるナミの躰。
それ以上にナミの中は激しく揺らぐ。
襞の一つ一つが意志を持ったようにきつく締め上げ、俺をも絶頂へと誘った。
互いに果てた後、俺達は気だるげな時を過ごしていた。
濡れたままの、いまだ熱の燻る躰を持て余したままで。
と、ナミがくるりと身を転がし、俺の胸の上に乗ってくる。
「これであんたも妙な夢見ないで済むわね」
くすくす笑いながら、またヘンな夢見てるようだったら踏んずけてやるからと物騒なことを言っている。
―冗談じゃねぇよ―
俺はナミの肩に手をかけ、態勢を入れ替える。
「残念だったな、ナミ。足んねぇよ、これじゃ」
俺は笑いながらナミの首筋に唇を落とした。
「じ、冗談止めてよっ」
慌てて身を捩るナミの躰を抑えながら俺は言った。
「何言ってやがる、もともとてめぇが誘いをかけたんだぜ」
何のことか分からないといった表情のナミ。
可笑しくて自然に笑いが零れてきちまう。
「最初にお前が言ったんじゃねぇかよ、"いっぱいやってく?"ってな」
ニヤニヤ笑う俺を見上げて、ナミは呆然と口をパクパクとさせている。
「・・・だったらお言葉に甘えて...な?」
そのまま、ナミの胸元へと顔を埋めながら思う。
―いくら抱いたって足りる訳ねぇだろうが。
抱けば抱くほど俺は飢えちまう。
お前を抱けない夜は眠れなくなっちまう位にな―
けれども、だからこそ俺は、何度でもナミの肌を求めちまうんだろう。
箍の燃殻を握りつぶして。
飢(かつ)える己が心と躰の赴くままに。
終
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