+裏書庫+
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Laugh or Giggle |
Date: 2003-09-26 (Fri) |
「あ、馬鹿一号発見」
男の前に伸びた影は楽しげな口調でそう告げた。
二晩降り続いた雨が上がり、アラバスタは快晴だ。
つい数日前までは禍禍しさすら感じさせた太陽。
そんな負の印象も雨に流され、今は清浄な光を国土の隅々にまで送り届けている。
そんな燦々たる太陽のもと。
二つの大岩が何故か宙に浮いている。遠目にはそう見える。信じられない光景だ。
それでも。
その岩の真ん中に人間が胡座をかいて座っていること。更に言えば、その大岩がその人物の腕の力だけで支えられていること。
このことを事実として受け入れるよりは"宙に浮く大岩"として謎のままにしておいたほうが常人の精神には都合がいいだろう。
黒衣を纏ったその男はピンと張った両の腕に岩を乗せ、目を閉じている。
男の身体は身体は微動だにしない。
動くものといえば、精悍な顔を流れる汗。
聞こえるものといえば、一定のリズムを刻む呼吸音。それだけだ。
そんな静寂を突如破った場違いな明るい声。
それでも男は驚くことなく、表情も変えずにただ口だけを僅かに動かす。
「・・・・誰が馬鹿だ・・・・・・・・で、何で俺が一号なんだよ」
女のそれとは対極にある口調。
男の背後で、くすくすと笑っているのは若い女。
シンプルだが仕立のよいワンピースが、その姿形のよさを引きたてている。
砂地を渡る乾いた風が、鮮やかなオレンジの髪と、スカートの裾を乱す。
手で髪を押さえながら、ナミは再び男に話しかける。
「あれだけ血塗れになった直後に、こんな事やってるあんたを馬鹿と呼ばずしてなんて呼ぶのかしら?」
風が止んだ。途端に熱気が増す。
髪から手を離すとナミは、肩を竦める。
「馬鹿の親玉だと思ってた奴も、流石に熱出して寝っぱなしだし。後は大人しく買い出しに行ってるしね。
・・・だから、今のところあんたが馬鹿の暫定一位って訳」
そこでゾロは目を開ける。
明らかに不機嫌そうな表情で反論しかけるが、修行中である事を思い出し、言葉を飲み込む。
「修行の邪魔だ、どっか行け」
無表情のままゾロは、つっけんどんにそれだけを言った。
「私がいるくらいで乱れるようじゃ、それこそ修行が足りないんじゃないの?」
ナミは挑発的な笑みを浮かべてゾロを見下ろしている。
「勝手にしろ」
眉を顰めて吐き捨てるようにそういうと、ゾロは再び目を閉じる。
背後でざりざりと砂を踏みしめる音が聞こえた。
意識を外界から切り離す。己の内へ、内へと沈み込ませる。
自らの意識を一本の糸とイメージする。
この間の闘いで得たあの感覚。
そこに到達するまで深く深く糸を垂らしていく。
外気の暑さも、頬を伝う汗も気にかからなくなる程に深く。
ふつり
突然その糸が断ち切られる。
甘やかな香りと柔らかな感触によって。
一瞬の後、大音響と共にゾロの後方へと岩が転がり落ちる。
思わず目を剥いたゾロの至近距離にナミの顔があった。
唇同士が触れるか触れないかのぎりぎりの距離で。
それを見たゾロは素直にしまった、という顔をしている。
そんなゾロの真正面にしゃがみ込み、ナミは男の瞳を見つめたまま笑って言う。
「修行は終わり?」
濡れた感触がまだゾロの唇に残っている。
軽く唇を合わせた後、ナミはご丁寧にもゾロの下唇に甘く噛みついていた。
ねぇ?とナミは応えを促す。
唇の温もりだけが伝わってくる距離で。
「タチ悪ぃぞ、てめぇ...」
ガックリと肩を落したゾロは、ナミの身体を引き剥がすと、ようやく岩から解放された両手で頭を抱え込んでいる。
「何で?」
小首を傾げ、笑ってみせるナミ。
ゾロは額にあてた指の隙間からナミを見る。
無邪気に見えるナミの微笑。だがあの微笑は擬態だ。
その証拠に。
濡れて光る紅い唇。周りを取巻く空気はこんなにも乾燥しているのというのに。
濡れて煌く両の瞳。まだ日は高く、ここは屋外だというのに。
ゾロはきつく目を閉じる。分かっている。
誘われているということは。
そして同時に試されているということも。
ここで応じてしまったら、あの女の思う壺だと理性は警鐘を鳴らし続けている。
それでも瞼に映り続ける淫靡な輝きには抗し難く。
身体が熱くなっているのは外気の所為だけではない。
禁欲と肉欲の狭間を揺れ動くゾロ。
その間にもナミの視線はゾロに絡みついていく。
怠惰の、刹那の、快楽の世界に引きずり込もうと。
―畜生っ、面白がってやがるな―
こんなあからさまな胸の内などこの魔女にはお見通しなのだろう、そうゾロは思った。
眉間に深く皺を寄せたまま、がばりと顔をあげるゾロ。微笑み続けているナミ。
「あぁ、くそっ」
ゾロはナミの身体を軽々と抱えあげると、肩に担ぐ。
そのまま立ち上がり、大股で歩き出す。
その先には無数の廃墟がある。
年月を、戦いを経て崩れ、傾き打ち捨てられた残骸達。
今や誰にも必要とされなくなったその場所に行く必要が、今、二人にだけはあった。
肩からナミを下ろして立たせると、ゾロはぞんざいな所作でもって、その細い肩を壁へと押し付ける。
それでもナミは笑っている。くすくすと、満足げに。
「笑うんじゃねぇよ」
威嚇するようにゾロは低く唸る。
それでもナミは笑っている。
笑いながらゆっくりとゾロの首に両腕を回し、自分の方へ引き寄せていく。
畜生、もう一度低く小さく呟いてゾロは動いた。
濡れた唇を塞ぐ。乾いた唇で。
ゾロの舌を迎え入れるべく、すぐにナミの唇は開く。
挿し入れ、挿し入れられる二本の舌。
唇の隙間から僅かに覗く、その動きは何とも卑猥だ。
零れた唾液がゾロの唇をも濡らしていく。
ようやく唇が離れると、ナミは一つ大きく息を吐いて、ゾロを見上げる。
情欲に濡れる瞳。
見つめているだけで狂ってしまいそうだ。
そこから目を離すことができない―
例え離すことが出来たとしても、その誘惑から逃れることは不可能なように思えた。
「これで満足かよ」
柔らかな耳朶に噛み付きながら、魔女め、と忌々しげにゾロは言う。
「・・・人を誘って堕とすのが魔女だもの」
吐息混じりの笑いを溢しながら、ナミは続ける。
「相手がストイックなら、尚更・・・ね」
そこでナミは言葉をきり、自らの指を口に含む。
濡れた指先をゾロの頤にあてる。
ひやりとした感触にゾロが僅かに顔をしかめる。
ゆっくりとその指先を首筋へと滑らせながら、ナミは再び口を開く。
「・・・まだ満足はしてないけど」
ナミの指先が動く。
喉元からゾロの大傷の起点へ。
黒衣の上からでも、ナミの指は正確に傷痕を辿っていく。
指が進むたびに煽られていくゾロの身体。
ざわざわと神経を侵していく、その感覚にゾロは更に顔をしかめた。
傷の終点に近づくと、ナミはその手をするりと腹巻の中に潜り込ませ、ズボンの結び目を器用にといていく。
「ナミ、まっ...」
我に返ったゾロが慌てて制止するその前に、ナミの指はゾロ自身に触れていた。
既に固く立ち上がっているそこにナミは指を這わせ、ゆるく握り締める。
「っつ、てめぇ」
きつく睨みつけるゾロの眼光をナミは笑って受け流した。
ゆるゆると手を動かすと、ゾロの息が上がってくる。
息を荒げながら、ゾロはナミのワンピースの裾をたくし上げる。
顕わになっていく白い脚。
足の甲の包帯はまだ取れず、脛や腿には擦り傷やら切り傷が赤い痕を残している。
白の中に点々と在る赤。それすらも今は淫靡に見える。
ゾロはナミの上半身にまで手を突っ込み、下着を肩紐ごと引き摺り下ろす。
布越しにもはっきりと分かる、胸の頂点のしこり。
そこにゾロは顔を寄せた。
「・・・んっ....くぅ..」
服の上から噛みつかれる度に、或いは舌で転がされる度に、ナミの鼻が、喉が甘く悲鳴をあげる。
それでも、ナミは握り締めた手の動きを止めない。
互いに快楽と戦いながら、互いを責め続けている。
ゾロはおろした手を、今度はナミの下半身にかける。
胸に唇を残したまま、その手を下着にかけ下ろしていく。
太股で一旦止まった白い布を、ナミが片手で取りさる。
焦れているのだ。もう、お互いに。
ゾロはナミの胸から顔を離すと、ズボンを弛める。
ナミの手の中で、自身が激しく脈打っているのが分かる。
華奢なナミの身体を壁に押しつけるようにゾロは自分の身を寄せる。
ナミの手は、ゆっくりとゾロ自身を自らの秘所に導き入れていく。
先端に濡れた感触を感じた次の瞬間には。
「・・んぁ、あぁぁぁぁっ!!」
「う、くっ....」
淫らな水音と共にゾロはナミの中に取り込まれていた。
無人の廃墟の中に、二種の息遣いが満ちていく。
一方は凶悪な程に扇情的な、もう一方は仕留めた獲物を食らう獣のような。
快楽に仰け反るナミの首筋にゾロが噛みつく。
そうしながら、ゾロはナミの右の膝裏に手をかけ、持ち上げる。
濡れた音と共に秘唇が開き、更に深くゾロが埋め込まれていく。
「っあっ、はっ...」
絶息しそうなナミを、ゾロは容赦なく揺すぶる。
オレンジの髪が乱れ、頬に張りついていく様がゾロを昂ぶらせる。
がくがくと大きく上下するナミの身体。
と、突然。
「あっ、痛ぅっ!」
ナミが小さく悲鳴をあげる。思わず左足の甲に目をやるナミ。
痛めた足が衝撃に耐えられなかったのだ。
それを見たゾロは、身体を繋げたままで残った右手をナミの左足へと伸ばす。
両の膝に腕を回し、ゆっくりと抱えあげる。
ナミの身体が完全に地から離れ、男の太い腕だけで支えられる。
「きゃ、あぁっ!! 」
バランスを崩しそうになり、ナミは慌ててゾロの首にしがみつく。
恐る恐る顔をあげるナミにゾロはニヤリと笑いかける。
「これで痛くねぇだろ?」
「馬鹿・・・・」
ゾロの首をかき抱いたままのナミは、照れたような笑いを浮かべて呟く。
身体を密着させたまま、目の前のゾロの額に唇を落とすと、
「取っちまえよ、んなモン」
ゾロは邪魔くさげに、上目使いで包帯を示す。
だって、と躊躇うナミにゾロは苦笑する。
「元々かすり傷だ、心配ねェよ」
恐る恐る包帯を取っていくナミ。
ゾロの言うことは本当で、包帯は傷に付着もしていない。
はらりと落ちる包帯の端が視界から消えると、ナミは再びゾロの額に口づける。
「傷は、もう塞がってるわね」
だろう、とゾロは頷く。
「あのトナカイは腕はいいんだが、心配性なのがタマに瑕だな」
そう言ってゾロは口の端を歪めた。
「・・・でも、まだ...血の匂いがするわ...」
ゾロの額に鼻先をあてるとナミは、目を瞑り、そう言った。
「気になるか?」
薄く笑ってゾロは問う。
まさか―陶然とした様子でナミは答える。
「それがあんたの匂いだもの―
血と汗と・・・・あんたの命そのもののね―」
ゾロは、その答えに満足したようだった。
「いくぞ」
低い声でそう言うと、ゾロは徐々に腕の力を緩めていく。
重力に従い、落ちるナミの身体は必然的に深くゾロに貫かれる。
「あぁぁ、あぁぁぁぁぁっ」
ゾロの全てがナミの中に納まる。
そこから一気に広がる快感。
脳まで焼きついてしまうような鋭い刺激を受けて、思わずゾロはぶるりと頭を振る。
力が入らないのだろう。
ゾロの首にかけられていたナミの両手がずるずると落ちていく。
「おい、ナミ」
ゾロがナミの身体を抱え直す。
再び深く貫かれたナミは、短い悲鳴と共に背を仰け反らせ、ゾロの両の肩にその手をかける。
「そうだ、ちゃんと掴まってろよ」
人の悪い笑みを浮かべるとゾロは、思い切り腰を突き上げる。
額に汗を滲ませ、荒々しく息を吐き出しながら何度となくゾロはナミを挿し貫く。
その度にナミは身体を震わせ、顔を仰け反らせる。
顕わになった白い喉が震え、甘く切ない音を奏でていく。
広い胸の中で揺すぶられるナミの身体はいかにも華奢で、痛々しくさえある。
それでも、幾ら大きく揺すられてもナミの秘唇はゾロを食い締めて離さず、逆にゾロを追いつめていく。
身体中を流れ落ちる汗が二人の境界を曖昧にしていく。
足元に落ちて行く水滴。
だが、それは汗だけではないのだろう。
廃墟の中に響き渡る二人の水音。そして甘く且激しい息遣い。
そのピッチが徐々に上がっていく。
先に根を上げたのはナミだった。
「んっ、あぁぁっ!! や、もう、...イクっっっ」
その直後、高い悲鳴と共にナミの身体が大きく弾け、体内の襞は一斉にゾロを包み込む。
ビクビクと脈打つナミの内部にきつく締めつけられ、ゾロも苦しげに眉を顰める。
「くっ、俺も、ヤベェ」
切れ切れの熱い息がナミの額に拭きかかる。
力を失ったナミの身体を、ゾロは一旦持ち上げる。
ぎりぎりまで己を引き抜いてから、ナミの最奥まで届くように穿つ。
即効性の毒のような凄まじい快感がゾロの全身を襲う。
頭が痺れる。身体が勝手に痙攣する。
ナミの背を片手で支えながらゾロは自身を引き抜くと、身体を支配する快感を全て吐き出した。
ぐったりと胸に持たれかかるナミを抱いたまま、ゾロは空に目をやる。
いつの間にか陽の高さが変わっている。
思いのほか長い間交わっていたようだ。
ゾロは胸の中のナミに視線を落とす。
瞳を閉じるナミの表情には邪気がない。
人を惑わし、快楽の淵に突き落とす魔性の欠片すら見て取れない。
それでも、ついさっきまでこの女と共に溺れていたのは確かに自分なのだ。
―俺も修行がなってねぇな、全くよ―
自嘲気味の笑いと溜息をおさめると、ゾロはナミの身体を軽く揺する。
「おい、おいナミ」
「・・・・・ん・・・・?」
ゆっくりと身を起こし、ナミは暫し呆然とゾロを見つめる。
焦点の合わない瞳に、徐々に光が戻る。
軽く頭を振ると、状況を把握したようだ。
ゾロを見つめ、ナミは突然その表情を変える。
上機嫌で、朗らかに笑う。
「そうそう、ビビのパパから死ぬ程本貰っちゃったのよ」
「あ?」
そうそう、このことを言いにきたのよ、元々は、とナミはひとりごちる。
話の展開について行けないゾロに構わずそのまま話を続けるナミ。
「とりあえず読みたい分は抜いといたから、残りはゾロ、あんたが船に持ってくのよ」
抱き上げられたまま、ナミは人差し指でゾロの額を軽く小突く。
途端に、浮き出る怒りの青筋。
「あぁ? 何で俺がてめぇの荷物持ちやらなきゃならねんだよっ」
だって―とナミは笑う。
「あんた、物持つの好きみたいだから。
これでも少しは悪いと思ってるのよ、修行の邪魔して」
しれっといた顔でナミは続ける。
「だから修行の続きをさせてあげるわね。思う存分持って来ていいわよ、私の本」
もはや言葉もなく唖然とナミを見つめるゾロ。
その顔を見て、またナミは楽しげに笑う。
天真爛漫という言葉がぴったりの笑顔。
―これがさっきのと同じ女かよ―
半ば呆れながらも、ゾロは目を細めざるを得なかった。
廃墟の崩れかけた天井の隙間。
そこから覗いた陽の光の眩しさと。
目の前の女の、その笑顔の眩しさに。
終
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