■ share the bottle,shara my heart(上) | Date: 2003-09-26 (Fri) |
【after "愛しきものへの杯1"】
「十分酒くさいわよ、こっちだって」
女部屋に続く扉を完全に閉めてから、ナミは笑いながら反論した。
振り向くとゾロは壁に寄りかかって座り、大儀そうに脚を投げ出しているところだった。
残り少ないボトルを掴んでナミは立ち上がり、ゾロの隣に移動する。
よ、とナミはゾロの隣に腰を下ろし、同じように背を壁に預けた。
「でも、ありがと。いてくれて助かったわ」
緑の短髪を撫ぜながら、ナミは言う。
いつになく優しく、素直な言葉を受けたゾロは、わざわざ身を起こすとナミの顔をまじまじ覗きこむ。
黙ったまま、ゾロは右手をナミの顔へと伸ばす。
至近距離に真剣な顔を、そして大きな手の温もりを感じる。
―うわ、そんな久しぶりに二人きりだからっていきなり―
急上昇するナミの心拍数。
しかし、伸びてきた手は頬を素通りして額に。
よくよく見ると、眉根を寄せたゾロの顔には『どーしたんだ、お前』と書いてある。
「・・・・・・・・・・・・・・何してんの、あんた」
急降下するナミの心拍数。
「いや、まだ熱でもあんじゃねぇかと思ってよ」
じゃなきゃこんなに素直に礼なんか言う筈ねぇだろうが、と口の中で続いた呟きをナミは聞き逃さなかった。
ゾロの頭に乗せられていたナミの手にじわりと力が込められる。
次の瞬間、拳骨へと形を変えた手が翻る。
パカン!!
緑色の頭はなかなか良い音をたてる。
「あんたねっ! タマに人が素直になってみればっ!!」
自分こそ礼くらい素直に受け取りなさいよとナミはポカポカゾロの頭をはたき続ける。
暫しその状態に甘んじていたゾロだったが流石に我慢の限界に近づいてきたのか、がし、とナミの手首を掴み、その動きを封じる。
「てめっ、たいがいにしろっ! 好き放題殴りやがって、壊れたらどうすんだっ!!」
「ふんだ、もとから壊れてるようなもんじゃないの!」
半ば睨みつけるような真っ直ぐな視線を、ナミはつんと横を向いてかわした。
「特に方向感覚がねーーっ!」
手首を捻りあげたまま黙り込むゾロと対称的にナミの口は益々滑らかになっていく。
「だいたいあんたは普段何にも考えてないんだから、たまには刺激を与えたげないと、って、え?」
語尾が上がりきらない内だった。
「少し黙れ」
突然ゾロは自分の唇でナミのよく動く口を止める。
目を剥いて驚くナミを見てゾロは唇を離す。
声をひそめてニヤリと笑うゾロ。
「・・・・酒くせぇな」
「・・・・あんたこそ」
「そりゃ、あんだけ待たされリゃあな」
全く、とゾロは思い返す。
酒を飲んでとっとと寝ちまおうと思ってたのだ。お呼びがかかるであろうその時まで。
それが。
気づけば俺が話題の中心じゃねぇかよ!!
酒吹き出すわ、酒瓶を落としそうになって床を転がるわ、鬼徹は倒れるわ散々だ。
挙句、コイツも調子に乗りやがって。何がノロケ対決だ。
眠れる訳あるかっつうんだ。
ぶっきらぼうに見えて実は優しい、何てのはベタでこっ恥ずかしいがまだいい。
曰く。
いつも元気付けてくれる大きな手が好き(ビビ談)
キスする時につぶった瞼が可愛い(ナミ談)
止めろ!!
頼むから身体のパーツを比べるのは止めてくれ!!
ゾロは思わず祈った。
このままエスカレートしたらナニのサイズやらキープ力やらまで比べられるんじゃねぇか。
戦々恐々。
これが飲まずにいられるか。
眠ることもままならない。
赤くなったり青くなったりを繰り返しながら一人悶々と時を過ごすゾロ。
そんな悩ましい時間を思い出すだけで知らず握り拳に力が入るというものだが、
「でも待っててくれたんだ」
あんまり嬉しそうにナミが言うので、そこでゾロは思いきり毒気を抜かれる。
「あいつを地べたに寝かせとく訳にもいかねぇだろうが」
ゾロの言葉を聞いてナミは意外そうな表情を浮かべる。
「何かそれってサンジ君あたりが言いそうな台詞よね、あんたがそんなこと言うなんて意外」
くすくすとナミは笑うが、ゾロは思いきりイヤそうな顔をしている。
「あんなエロコックと一緒にすんじゃねぇよ、誰彼構わず言う訳じゃねぇ」
「あんたって何気にビビには親切よね、何で?」
ナミの疑問にゾロはふふんと鼻を鳴らす。
「サシで俺に喧嘩をふっかける女は珍しいからな、結構気に入ってるんだぜ俺は」
「ふーーん」
複雑なナミの表情を見て、ゾロは声を出さずに笑う。
「妬いたか?」
「・・・・別に~~」
一瞬あいた間が正直な心を表している。
ゾロは、くくくと肩を揺らしながらナミの両脇に手を入れ、その身体をひょいと持ち上げる。
そのまま自分の両腿の上に座らせる。
「お前なんかその最たるもんだぜ」
拗ねた瞳をゾロは覗き込む。
「俺にキツイ一撃を食らわしてくれたしな」
親指で鳩尾を指しながらゾロは笑う。
「―――馬鹿」
羽を思わせるような動きでナミの両腕がゾロの首に回される。
「ありがとね」
金の光が揺れる耳元でナミは囁く。
「もう分かったって」
「うぅん。今日のことだけじゃなくて、もっと色々」
がっしりした肩に顎を乗せたままナミは続ける。
「寝込んでる間、傍にいてくれたこととか、あと私達がいない間船を守っててくれたこととか」
「お前があれくらいでくたばる訳はねぇからな」
ゾロの大きな手がオレンジの髪を撫ぜるように包む。
「戻ってきて船がありませんじゃあ、逆に俺がお前に殺されちまう」
冗談めかした口調とは裏腹にナミを抱くゾロの腕には力がこもる。
ふふ、とナミはたしなめるように笑う。
「ま、途中で任務を放棄したのは重大な過失だけど」
ナミのその言葉にゾロはビクリと身を剥がす。
ばつが悪そうにあちこちと視線は定まらない。
「ばっ、ありゃあ別にサボった訳じゃねぇよ。船の周りを回ってる筈だったんだけど」
「いつの間にか迷子になってた、と」
「あぁ、気づいたら森にいてビビった・・・・・・ってコラ!!」
目の前で細かく肩を揺らすナミをゾロは睨む。効果は皆無であったが。
「だったら船から動かなきゃいいのに」
涙目になりながらナミは尤もなことを言う。
「仕方ねぇだろ、何かしてねぇと―――」
その先をゾロは言わなかった。ただ荒々しくナミを抱きしめる。
すり変えられた言葉は、
「――もう、心配かけんじゃねぇぞ」
顔も見せず、消え入りそうな声でそれでもゾロの思いはナミの胸へと流れ込んでいく。
「ありがと」
半身をゾロに預け、ナミも囁き返す。
唇は丁度ゾロの胸の辺りだ。
シャツ越しにゾロの熱が伝わってくる。だから、
自分の心に灯るこの温もりも、喜びも、きっとゾロには伝わるだろうとナミは思った。
と、乾いた指先がナミの輪郭を探る。
ゾロの指はナミの顎にかかり、ナミはゆっくりと瞳を伏せる。
唇が触れ合う直前、ナミの目にあるものが映る。
「―――あっ! ちょっと待って忘れてた!!」
落胆と唖然を足してニで割ったような顔のゾロを他所に、ナミはひょいと手を伸ばしボトルを掴む。
「ほら、お礼にあげるって言ってたでしょ、あれ?」
にこやかなナミを前にゾロは額を押さえて俯いている。
今欲しいのはそんなものではないというのに。
「あとで倍よこせとか言われても困るし、ビビに怒られちゃう」
―言わねぇよ、お前じゃねぇんだから―
今度は完全に胸の内で呟いた後、やれやれとゾロは顔をあげる。
ナミはコルクに噛みつき、器用に栓を抜く。
グラスはない。
はい、と自分にボトルの口を向けるナミ。
ゾロはその口を反転させてから顎をついと動かし、ナミに飲むよう勧める。
ゾロの意図をくんだナミは艶やかに微笑み、ボトルに口をつけ傾ける。
ナミの喉は動かない。
ゾロの頬を両手で包むと、ナミは静かに口づける。
アルコールはゆっくりと押し出される。
ゾロの喉が動く音がやけに大きく聞こえた気がした。
唇の端から零れる移しきれなかった液体をナミは人差指でせき止める。
全てを飲み下したあと、間に細い指を挟んで二つの唇が一旦離れる。
それから息を詰め、悪戯っぽく笑う。
「・・・・酒くせぇな」
「・・・・嫌い?」
「・・・・いぃや」
口の端を僅かに動かし、ゾロはナミの指をとり舌を這わせる。
それを見たナミは背を伸ばし、自らの指を追う。
ゾロと同じように舌を伸ばし、濡れた指を舐める。
一本の指の上を二つの舌が動き回る。
互いに触れ合ったり離れたりを繰り返しながら。
その最中、ゾロは空いた手でナミのシャツを引上げる。
「―――っつ!」
ふ、とその舌は指から離れる。
「―――っと待って、ダメよ下にビビが居るんだから」
身じろぐナミに構わず、ゾロは柔らかな肉に手のひらを押し当て無造作に動かす。
「――んっ!!」
声を殺して俯くナミの耳朶にゾロは噛みつく。
身体の芯を震わせるのは、耳に低くそして甘く響く声音。
「今まで随分待たされてんだ。もう待たねぇよ・・・・・」
続