+裏書庫+
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緋の蜘糸 |
Date: 2003-09-26 (Fri) |
白い肌の上に幾筋もの赤い線が走る。
張り巡らされた赤い糸。
浅く深く女に絡み、その躯を軋ませる。
まるで蜘蛛の糸のように。
天井の角にどこから入りこんでいたのか蜘蛛が網を張っていた。
船が揺れる度に、灯りに照らされた糸はちらちらと不安定な光を放つ。
華奢なその糸の上に蜘蛛はいた。
細く長い手足。
禍禍しくも美しい模様をその身に宿して。
ゾロはソファに寝転びながら悠然と動くその蜘蛛を見つめていた。
「ナミ・・・・」
ゾロは自分に背を向けて机に向かうナミに声をかける。
「何? ちょっとだけ待ってよ」
「あのな」
「あぁ、もう、ちょっと待ってって!」
返事には僅かに苛立ちが感じられた。
そうしてナミは振り向きもせずにゾロの寝ている所へと球状の物体を放り投げる。
突然目の前に落ちてきたそれをゾロは両手で受け止める。
すっぽりとゾロの手に包まれたそれは赤い糸の塊であった。
ゾロはその塊をくるくると回してみる。
毛糸と麻縄の、丁度中間程の太さで、その芯まで染め抜かれたような赤だった。
「何だ? これ」
「さっき棚開けたら転がってきたの」
ナミは肩を揉み、コキリと首を傾ける。
「何に使うのかしら? 糸って言うか、縄って言うか微妙だし。
サンジ君にでも渡そうかと思ったんだけど、色がついてるから料理にはつかえないか・・・・・・う〜ん、チョッパー何かに使うかしら」
「人のことよりてめぇのことは終ったのかよ」
「あ・・・そか」
不機嫌そうなゾロの声にナミは宙に浮かべていた視線を慌てて手元に戻す。
ゾロは目を閉じる。
それでも無性に苛立つ気持ちは御し難かった。
バランスが崩れる。
自分の中の何か、目を背けてきた何かが顕わになってしまう予感がした。
ゾロは目を開けるとその考えから逃れるように、糸玉を弄ぶ。
表面に張りついていた糸の端を見つけ、目の上でそれを引く。
目の前に真赤な線が引かれる。
二度三度、その糸を引っ張ってみる。
柔かでしなやかなその糸は思いの他丈夫なようだった。
みつめる赤の先で蜘蛛の糸がまた光った。
あぁ、とゾロは思い出したようにナミに話しかける。
「蜘蛛がいるぞ、この部屋」
「待ってって。これだけ終らせちゃ・・・・え?」
ゆっくりとナミは振りかえる。
「でけぇ蜘蛛が、この上に」
そう言いながらゾロは天井を指差す。
ナミはようやく振り返るが、ゾロの指差す先は決して見ようとしない。
「やだやだ! 早く取っちゃってよ、気持ち悪い!!」
「別にいいじゃねぇか。何する訳でもねぇし」
もう、とナミはゾロを睨む。
「あんたホントに意地悪! 誰かまだ起きてるかしら。サンジ君・・・は蜘蛛なんかダメだろうし・・・・」
ナミの口からサンジの名が出た瞬間ゾロは反射的に眉をひそめた。
「・・・だったら、ウソップかルフィに―」
ゾロは強く目を瞑る。
どうしてこんなに心がざわつくのか。
反吐がでそうな程のこの悪心は何なのか。
「まぁいわ。誰か連れてくるからあんたちょっと出てて」
乱暴な大きな音を立てて椅子が動く。
それと同時にゾロはガバリと身を起こし、宙を睨む。
背後にナミの足音が聞こえる。
室内の騒がしさとは裏腹に、ゾロの視線の先で蜘蛛は音もなくその糸を垂らし、ゆっくりと宙に舞う。
ゆらゆら、ゆらゆら、と。
まるで見る者を暗示にでもかけるように。
縛りつけてしまえ。
誰にも渡したくないのなら。
網にからめてしまえ。
誰にも見せたくないのなら。
蜘蛛は揺れる。
振り子のようにゆらゆら、ゆらゆら、と。
ゾロは飛び起きると、階段に片足を乗せたナミの元へ駆け寄る。
細い手首を掴み、床に引き摺り下ろすとその勢いのまま部屋の隅へと追いつめる。
驚きの表情で自分を見つめるナミ。
自分の女であっても、自分だけの女ではない。
そんなことは百も承知で惚れた。
なのに―
ゾロの脳裏に糸玉がほどけていくイメージが浮かぶ。
理性はこれ程に脆い。
落ちた理性が山となり、残ったのは剥き出しの思い。
その髪の一筋から、血の一滴まで。
全てを我が物にしたいという欲望。
その瞳が自分以外の者を見つめることなど許せない。
その声が自分以外の者の名を呼ぶことなど許せない。
残ったものは―
それは子供の如き独占欲だ。
「そんなに蜘蛛が気になるか?」
低く押し殺した声が響く。
ナミは目を見開いたままで何も答えようとはしない。
ゾロは凶悪な笑みを浮かべ、ナミを見下ろす。
「すぐに気にならなくなるだろうがな」
ゾロは糸の端を握ったまま糸玉を手放す。
赤の玉が跳ねる。
ゾロの指先から流れる糸はまるで血のようにも見えた。
「な、に・・・言ってるの?」
見開いた瞳はそのままでナミは声を上ずらせる。
不穏な空気を感じ、逃れようと突き出した両手はあっさりとゾロに捕われた。
「っつ!?」
後手に両腕を固められ、ナミは顔を顰めた。
それでもゾロは表情を崩さない。
突き出される格好となった豊かな胸は、ナミが身を捩る度に悩ましく揺れる。
「や・・・はっ!」
片手はナミの腕を押さえつけたまま、もう一方の手は無遠慮に服の隙間に入りこむ。
薄い部屋着の下で柔らかな乳房は痛々しい程にその形を歪ませる。
「痛っ、・・・・・・や・・・めて・・・」
ふるふると首を振るナミにゾロは冷たい笑みを見せる。
「やめていいのか? 本当に」
ゾロはナミの上着をたくし上げ、手にした糸をその上に渡す。
乳房の上に服を固定してしまうと、ゾロはその糸を今度はナミの肌の上に這わせる。
肩口から胸の谷間を経て斜めに糸をかけていく。
もう一方も同じように。
赤い枷に縛られる両の乳房。
それは例えようもない程淫靡であり、また男の嗜虐心をそそる。
ゾロは糸を引く手に力を込める。
赤い枷は無情にも狭まり、乳房を圧迫する。
「つっ・・・・・・・あぁぁっ!」
苦悶に噛み締められたナミの唇が、次の瞬間大きな喘ぎを発する。
ゾロが乳首を口に含んで転がしたのだ。
苦痛を凌駕する快感が下半身へ向かい落ちて行く。
「あ・・・・・あ・・・ん・・・・」
ナミの声音が変わったことを察し、ゾロは執拗に乳首を舐る。
時折音を立てて吸っては、ナミの羞恥と快感を煽る。
そうしてようやく唇を離した時には、ナミの顔はすっかり上気していた。
赤い糸できつく締め上げられている胸。
その先端はすっかり濡れて光っている。
ゾロは糸を握る手を再び動かす。
肩口から胸を経て、糸は更に下へと降りて行く。
ナミは荒い息をつきながら、自分の肌の上を伸びていく糸を呆然と見ていた。
ゾロはスカートの留金を乱暴に外し、床へと落とす。
糸は滑らかな下腹を降り、薄い下着の上を這う。
「んぅっ」
糸は股の間を通り、臀部へとまわされる。
ゾロが悪戯にその糸を引き上げると、糸は布越しにナミの秘所を割り、埋もれていった。
「あぁぁ・・・・・うっ」
柔らかな秘唇を割られていく感覚にナミは喘ぐ。
「やめろなんて、もう言えねぇよな? ナミ」
ゾロは片頬を吊り上げ、ナミの両手を開放した。
腕に、背に、胸に、足に、数多の糸に絡めとられ、その網の中でそれでもナミは恍惚の表情を浮かべている。
腕を上げれば胸が締めつけられ、背を伸ばせば糸は秘唇に食い込む。
身動き一つする度に喘ぐナミを、ゾロは床に腰を下ろし見つめていた。
「いい眺めだな」
嘲るような言葉にも帰ってくるのは嬌声だけ。
ゾロは、くっと低く笑うと、ナミの下腹を走る糸を束ねて無造作に引き上げる。
ゾロはナミの秘唇深くに糸を潜らせたまま、その糸を左右に振る。
「ひっ・・・あぁっ!!」
一際高く鳴いたナミにゾロは声をかける。
「イイのか? これが・・・・」
尚もゾロは手を左右に振り続ける。
布の中ではクチクチと卑猥な音が湧いた。
息も絶え絶えにナミはガクガクと首を縦に振る。
そうか、とゾロは薄く笑う。
「だったら後はてめぇでやれよ」
ゾロはナミの手を引き寄せ、糸の束を握らせた。
震える拳はそろそろと動き出す。しかし、躊躇いは長くは続かなかった。
自らの身を戒めるその糸を引きながら、ナミは更に押しつけるように腰をくねらせる。
「あぁ・・・・イイ・・・・」
ナミはその甘い声でゾロの耳を酔わせながら踊った。
ナミの秘唇を渡る糸は、染み出る液体を吸ってその色を変えていく。
更に毒々しい緋色に。
ナミが掴んだ糸を弾くと、糸は上部の敏感な突起を嬲った。
「あぁぁ・・・・凄い・・・けど・・・」
ナミはもどかしげな表情を見せる。
どれ程深く潜らせてみても、糸は決してナミの内部までは入り込めない。
突起からの快感に酔えば酔う程、胎内の襞は刺激を求めてわななく。
「あ・・・あぁ・・・ゾロが・・・ゾロが欲しい」
「そうかよ」
ゾロはニヤリと笑うと、ズボンの前をゆるめる。
「コイツか?」
ゾロの言葉にナミは大きく息を飲む。
既に硬く屹立した自身をゾロは握り、一つ擦る。
興奮しきった自身はそれだけでダラリと先走りの液を零し、ゾロは内心苦笑する。
ゾロはゆっくりと自身を擦りだす。
大きな手の合間に見え隠れする自身からナミは目を離すことができない。
徐々に糸を引く力は強く、早くなっていく。
部屋の中は熱い息使いだけで満ちている。
躯を繋ぐことなく快楽を分け合う二人。
先に限界を感じたのはナミだった。
「あ・・でも・・・も・・・イ、ちゃい、そ・・・・・・」
「いいぜ、イケよ」
余裕に満ちた言葉とは裏腹に、ゾロの額には汗が滲んでいる。
手の内の自身は今にもはちきれてしまいそうだった。
そんなゾロの言葉にナミはイヤイヤをするように頭を振る。
「や・・・ゾロが・・・欲しい、のに・・・・」
それでも激しく動く手はもはや自分の意志では止められず。
「あ、ぁ・・・手、とまら・・・ない・・・んっ、あぁぁぁぁぁっ!」
網の中心でナミは大きくその身を震わせ、
そしてゾロはそんなナミの痴態を目の前に、達した。
「・・・・う・・・あ・・・・あぁ・・・あ・・はぁ・・・・」
腿の痙攣がおさまると、ナミは力を失ったように床に膝をつく。
俯き、苦しげに息を吐きながら、それでもナミはゾロの元へと膝を進める。
ゾロの足の間にナミはゆっくりと身を進めて行く。
目の前の床にはゾロの放った精が白い跡を残している。
ねっとりとした液体はナミの膝を汚すが、ナミは意に介さない。
目的地に辿りつくと、ナミはゆっくりと身を屈める。
「おいっ、ナ!!」
ゾロの呼びかけにも構うことなく、ナミは放出したばかりのゾロ自身を口に含む。
まだその芯は硬さを保っているが、周りは溶け出したように柔らかい。
ナミは口に含んだ棒を研ぐように丁寧に舐めあげる。
割れた先端にちろりと舌を入れると、精の匂いが鼻に抜けた。
「っ・・・・・う」
くもぐった声が聞こえてくる頃には、自身はすっかり元の硬度を取り戻していた。
ナミは待ちかねたように身を起こし、ゾロの両足を跨ぐ。
濡れた下着をずらし、入口を顕わにするとその躯を沈ませる。
くちょ・・・・
ナミの入口に溜まっていた愛液が音を立ててゾロを迎え入れる。
しかし、ナミは腰を浮かせたまま焦らすようにゾロを入口付近で出し入れしている。
「う・・・・ぁ、ナミ、てめぇ」
堪らずゾロはナミの腰に両手を伸ばす。
赤い糸の間をぬって伸ばした手がナミの腰を強引に引き下ろそうとしたその時、
ナミは両腕をゾロの背にまわす。
糸は容赦なくソロの躯を絡めていく。
ゾロの手は糸に阻まれ、それ以上先には進めない。
ナミは尚もゾロの先端だけを弄ぶ。
ゆっくりと上下するナミ。
ゾロは身動きできぬまま、目の前で動く唇を見つめる。
操る糸よりも更に赤い唇。
それは確かに笑っていた。
いいザマだ。
縛りつけたつもりが縛られている。
蜘蛛。
目の前のこの女こそ蜘蛛だ。
鮮やかな緋糸の真中に蜘蛛はいた。
細く長い手足。
禍禍しくも美しい模様をその身に宿して。
あれは願望が見せた幻だったのだろうか。
見上げた天井に、もう蜘蛛はいなかった。
終
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