+裏書庫+
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月蝕 |
Date: 2003-11-28 (Fri) |
*"日蝕"続き*
天には触れれば切れそうな程に細い月。
その静かな佇まいとは正反対にGM号のキッチンは賑やかだった。
"雑用"の特典とばかり貰ってきたつまみは、残り物だと言うには勿体無い味とボリュームで、自然と酒宴は盛り上がる。
それも夜半過ぎには勢いをなくし・・・
「俺ゃもう寝るぞ」
最初にグラスを手放したのはウソップだった。
「今日は別に見張りもいらねーだろ?」
まだジョッキ片手のナミに確認しながら、ウソップは肩にもたれてこくりこくり揺れる麦藁帽子を軽く叩く。
「ま、大丈夫でしょ」
「おし、んじゃな。」
ナミの答えに頷くと、ウソップはルフィの片手を自分の肩にまわす。
「お前らどうすんだ?まだ飲んでんのか? 」
「え? 私?」
ゾロはナミをちらりと見やる。
「え、えぇっと・・・・どうしようかしら」
ナミの視線がゾロのそれとぶつかる。
言葉の空白はよくある、他愛のないもの。
それでも、その間には当人同士しか分からない緊張感が存在した。
ナミは思い出す。昼間、闇に覆われたあの狂おしい一時を。
熱かった。
その熱にまともな判断ができなくなってしまった。
けれど理性の全てが焼き切れる寸前にゾロの唇は離れた。
―――?
弾かれたように身を離したゾロ。
そこから先の記憶は靄がかかっているようにおぼろげだった。
直後に皆の足音が聞こえたのは覚えているが、はたして誰が最初に顔を見せたのか。
その時のゾロの表情とか。
自分が発した言葉とか。
全ては曖昧で、そこに現実感を感じることができなかった。
黒い陰から僅かに顔を出した太陽。
その眩しさははっきりと思い出せるのに。
そしてもう一つ記憶に刻まれたもの。
「今夜、食堂に残れ」
それは、すれ違いざまにそう残していったゾロの低い声。
そして今。
ゾロの視線が熱い。
それは唇に昼の感触を思い出させる。
身体の芯を疼かせる熱い感覚。
「どうした? ぼーっとして。眠いんなら無理すんなよ」
ナミは小さく首を振って笑う。
口は勝手に動いた。
「うぅん。何か目が冴えちゃって。も少しだけ飲んでから寝るわ」
「おぅ、あんまり無茶すんじゃねぇぞ」
「え?」
驚くナミにウソップは不思議そうな顔を見せる。
「酒だよ、酒」
そう言い残してウソップはルフィを引きずりながらキッチンを後にした。
沈黙が続くキッチン。
「・・・・おい」
痛い程静まり返ったキッチンにゾロの低い声が響く。
考えのまとまらぬままのナミはテーブルに突っ伏したままピクリともしない。
ゾロは更に低い声で凄む。
「寝たふりなんかしてんじゃねぇぞ、こら」
その声に引きずられるようにナミは顔をあげる。
ゾロはナミを睨みつけているが、その表情にはどこか困ったような感情が見てとれた。
考えるのはやめよう。
ナミは思考を停止した。
何故ゾロは自分を誘ったのか。何故自分は誘いに乗ることにしたのか。
考えたところで詮無きことだ。
例え結論が出たとして、未来がある訳ではない。
欲しいのは刹那の快楽。
ならばその交わりは獣の交わりでいい。
ただ、快楽だけを貪る獣で。
「・・・・・・・・・・・・いいのか?」
逡巡した挙句何とかその言葉だけを口にしたゾロをナミは可笑しそうに見る。
「ここまできてわざわざそんなこと口にするもんじゃないわよ、野暮剣士」
そうしてナミはテーブルの上の灯りを吹き消した。
小窓から射し込む薄い月明かり。
それが闇の中からナミの身体を僅かに浮かび上がらせる。
立ち上がったナミは歩きながら前開きのシャツのボタンに手をかける。
まるで一人自室にでもいるかのような気安さで全てのボタンを外す。
柔らかな生地が闇の中で揺れる。
ナミが後ろに手をまわすと、間もなく床にストラップレスのブラが落ちた。
シャツの合間に見え隠れする豊かで柔らかな輪郭。
ゾロは動けない。
魅入られたようにただそこだけを見つめていた。
ゆっくりとゾロに近づいていくナミ。
その手がスカートに伸びる。
闇を裂くジッパーの音。音もなく落ちたスカート。
ゾロの視線が動く。
形よく伸びた両の足へと。
気がつけばナミは目の前にいた。
その手がまたゆっくりと動き出す。
腰を撫ぜるその指にかかっているのは僅かばかりに下半身を覆っている最後の一枚。
指が下へと落ちるにつれ、闇の中で淡く光るその布も落ちて行く。
ナミは片手をゾロの肩に置き、バランスをとりながら身を屈める。
視線の先で右の爪先が浮き、そして左の爪先が浮いた。
床に残された布。
シャツ一枚を素肌に纏っただけの姿。
ナミは堂々とその身をゾロの前に晒す。
ナミが呼吸する度、僅かに揺れるシャツの裾。
その奥にある陰が妙に生々しい。
ナミの手はゾロの肩から頬へと動く。
半ば呆けたように自分を見上げる瞳に、挑発の笑みを映す。
「何よ、やんないの? それとも脱がして欲しいとか?」
ナミの言葉に、ゾロの瞳に獣の光が戻る。
頬から手を離し、ナミはするりと闇の中に身を滑り込ませる。
月の光も届かない部屋の隅に。
ゾロは大きな音を立てて立ち上がると、勢いよくシャツを脱ぎ捨てる。
「あんまりふざけたこと言ってるとぶっ殺すぞ」
つかつかと歩みより、伸ばした手はナミの頤を掴み強い力で上向かせる。
睨み合うように二人は互いの瞳を見つめる。
容易く屈したくはないという思い。
それでも、どうしても抗えない思い。
相反する二つの思いを互いに抱えながら。
瞳の色は見えなくとも発する気配で表情は分かる。
ゾロの瞳に浮かんでいるだろう剣呑な光をナミは挑発で返す。
「望むところ」
ナミは片手でゾロの首をぐいと引き寄せる。
唇が触れ合う寸前、ナミはひっそりとこう付け加えた。
「返り討ちにしてやるわ」
噛みつくような口づけが交わされる。
下手をしたら食い千切られてしまいそうな。
それでも、隙をついて挿し入れられた舌の熱さにナミは眩暈を覚えた。
身体の芯がどうしようもなく疼く。
その欲望の赴くまま、ナミは身体を開放した。
ゾロの舌に自分の舌を擦り合わせながら、ナミは下方に手を伸ばす。
乾いた、けれど熱を持ったゾロの身体。
がっしりとした腰に触れた手のひらをゆっくりと動かす。
ざわりとした茂みを感じた次の瞬間、一際熱いゾロ自身を手で包む。
「っ、ナミ、て、め・・・・」
硬く、ごつごつとした感触を楽しむように何度か擦ると、ゾロは唇を離し荒い息を一つ吐く。
「気持ち良かったら素直にそう言いなさいよ」
揶揄するような口調でナミは擦るスピードをあげる。
「・・・るせ」
少し掠れた声でそう言うと、ゾロはナミのシャツをはだけ、胸元に顔を埋める。
乳房にざらりとした舌の感触を感じたかと思えば強く吸い上げられる。
ゾロの口に含まれ、ナミの乳房は形を変える。
乱暴な程の愛撫に何故か興奮は高まる。
ナミはもう一方の手もゾロ自身へと伸ばした。
太い幹を強く擦りながら、一方の指先で裏側の筋を撫ぜる。
「んっ、あぁっ、はっ!」
「ぐっ・・・・う!」
引くことなく互いの身体を責め続けるその姿はまるで二匹の獣だった。
やがてゾロは身を起こし、ナミの背を壁に押しつける。
荒い息がナミの髪を揺らした。
「おい・・・・もう、挿れる、ぞ・・・・」
「何よ、もう我慢できなくなったの?」
汗に湿った前髪の隙間からナミはニヤリと笑う。
しかし直後、その笑みは崩れた。
「んっ、あぁぁっ!?」
無言のままゾロがナミの片方の腿を持ち上げ、その間を一気に貫いたのだった。
「てめえだって、随分、お待ちかねだったみてぇじゃねぇかよ」
熱く絡みつくナミの内部に、堪らず顔を顰めながらもゾロは憎まれ口を叩く。
「あ、う・・あぁぁぁっ!!」
ガクガクと身体を揺すぶられながら、過ぎた快感にナミは飲み込まれていく。
自分がどんな顔をしているのか、何を口走っているのかも分からない。
「待、ってた・・・・・待ってた・・・・ずっと・・・・っあぁぁっ!!」
瞳は闇を映し、意志は白く。ただどこまでも白く。
流れてきた黒雲が月を覆っていく。
激しい情事の後、ぐったりと伸ばされた足。
その爪先に灯っていた月の光が消える。
まるで波が引くように。
「・・・・月も消えたわ」
ポツリと呟き、ナミは身を起こす。
尚一層の闇の中、床に落ちている下着を拾い上げ、スカートのジッパーをあげる。
ナミはゾロに背を向けたまま、振り向かずに扉へ向かって歩いていく。
扉に手をかける。
蝶番の軋む音にナミは別れの言葉を紛れ込ませた。
「・・・・バイバイ」
背に感じるのはゾロの視線。
何も言わない男の視線が痛い。
愛しくすらあるその痛みに気づかぬふりをしてナミは天を見上げる。
黒の絹を纏う月。
まるで見たくないものから顔を背けるように。
雲に蝕まれたまま、月はまだその姿を見せない。
終
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