+裏書庫+
■
heaven's door |
Date: 2005/01/09 |
*"100題NO.67 扉"続き*
扉が開いていく。
常になく重たげなその音は、まるで蛇のように、内側で待つ者の心を幾重にも取り巻き、がんじがらめにする。
開いた隙間から夜が入り込んでくる。
ナミは階段の上で縛りつけられたかのように身動き一つできないでいた。
はたして自分が呼吸をしているかどうかも怪しい。まるで判決を待つ虜囚のようだ。
完全に開いた扉から、片膝をついたゾロの姿が見える。
射るような瞳に、これまで感じたことのない熱を感じる。
その熱に押され、へたり込んでしまったナミの目の前に、ゾロの靴が下りてくる。
底の厚い無骨な黒の靴。
ナミはただその靴を見つめる。
そうするしかなかった。ナミにはそれより上に目を向けることができなかった。
「ここでヤんのか?」
薄く笑う声が落ちてくる。
「初めてだってのに豪気な話だな」
俺は構わねぇけど。揶揄する口調でそう続け、ゾロは喉の奥でまた笑った。
そんなゾロを睨みつけようと上げた顔は、だが途中で止まった。
その視界にゾロの腕が入り込む。
とっさに逃げようとしたナミだったが、身体は思い通りには動いてくれなかった。
ずるり、と段をずり落ちるように後じさるナミの腹部にゾロの腕が巻きつく。
「―― っ!?」
声をあげる暇もなかった。
まるで重さなど感じていない動作で、ゾロはナミを抱える。
微塵も遠慮などない荒々しい足音を伴い、黒の靴が交互に動く。
それが止んだ直後、視界が反転する。気づいた時には、ナミは既に軋むベッドの中にいた。
ゾロが片膝をベッドに乗せと、再びベッドが軋み、重心が移る。
ゾロの方へと傾ぐ身体とは逆の方向に、ナミはきつく目を閉じ、顔を背けた。
笑いたいのか、泣きたいのか。
逃げたいのか、受け入れたいのか。
今、自分はどうしたらいいのか、或いはどうしたいのか。
何もかもが分からない。
『原因があって結果がある』
『先を読んで今を動く』
そうやって生きてきた。なのに。
これまで信条としてきた事柄が、たった一人の男を前に、脆くも崩れていく。
自分の心が掴めないまま、ナミはその事実から目を背けるように、ただ目を閉じていた。
目の脇に幾つも皺ができるほど強く瞼を閉じたまま、ナミは身体を強張らせている。
二、三発は引っ叩かれると思ってたんだがな―
いつもは山猫のような女が、今はまるで借りてきた猫みたいに大人しい。
その様を眼下に、ゾロは目を細めた。
自分でも意外に思うほど、それは優しげな笑顔だった。
ゾロは腰の刀を三本まとめて外すと、その手を伸ばし、それらを静かに床に置いた。
カタン、という小さな音にナミは驚いたように身を竦ませた。
それからゾロは、ゆっくりとその身を傾ける。
近づく体温に、ナミの目はいよいよきつく閉じられる。
広い背中がナミの姿をすっかりと覆い隠す。片手でその姿勢を保ち、ゾロはもう一方の手をナミの額に伸ばした。
乱れたままの前髪をかき上げるように、ゾロはナミの額を撫ぜる。
きつく瞼を閉じたまま、ナミは大きくて暖かな手のひらを感じた。
こんな風に撫でられたのはいつ以来だろう。
置かれた状況を忘れさせるほど、その手のひらはナミに安心感を与えた。
だが、それも長くは続かなかった。
額を撫で上げ、手のひらはナミの頬を包む。
それから尚も、這うように動いた指先はナミの頤で止まった。
二本の指は細い顎を摘むと、背けたままの顔を強引に正面に向けた。
驚いて思わず開けた瞳に映ったのは、ゾロの瞼だった。
完全に目を閉じてしまっているのかは分からなかったが、ゾロの伏せた瞼の先に並んだ睫毛が見える。
何の変哲もない、当たり前についているその睫毛が、ナミには何故か意外な発見に思えた。
何もかもが大作りな、この男の中にある繊細な部分。
それをこんな間近で見ていることが不思議に思え、ナミはそこでようやく自分の唇がゾロの唇で塞がれていることに気づいた。
昼間、鼾だけを垂れ流す唇。
夜には酒を食らって悪態ばかりつく唇。
戦いの時に、強く強く刀の柄を噛み締める唇。
それが今、自分の唇の上にある。
思いの他柔らかな唇が与える生々しい感触とは裏腹に、ナミは現実を上手く飲み込めないでいる。
ナミの視線に気づいたのか、ゾロも伏せていた瞼を開ける。
呆然と見上げるナミを見、笑うようにゾロの目が動いた。
僅かに離れた唇にホッと一つ息を吐いたのもつかの間、今一度押し付けられた唇の合間から這い出した舌がナミの口中に潜り込む。
ナミの口の中を味わうように、ゾロは顔の角度を変え、何度も口づける。
舌先でなぞられる感触は、決して不快なものではなかった。
けれど、ナミはその行為にどう応じればよいのかが分からなかった。
ただ、ゾロの唇が今、この瞬間に自分だけに向けられている。そのことは、ナミにどこか胸のすく思いを抱かせた。
ナミは躊躇いがちに自分の舌を外へと向ける。
散々に嬲られた舌は、外気に触れ、思った以上にひやりとした。
ゾロの唇の隙間にナミは舌を挿し入れる。瞬間、ゾロの目が細められる。
舌先に硬い歯と、そして滑らかな歯茎を感じたその時、ゾロはその唇を窄める。
唇で挟み込まれ、慌ててナミは舌を引き抜く。強く扱かれる感触に、ぞくぞくと背筋を粟立てながら。
小さく笑いながら、ゾロは一旦上体を起こし、着ていたシャツを身体から引き剥がす。
見慣れた筈の身体。けれど。
がっしりとした両の肩の下、くっきりと浮き出た鎖骨が艶かしく、ナミは思わず見惚れた。
ゾロの手がシャツの裾にかかり、ナミは我に返る。
「― っ、ちょっ!」
無遠慮な手つきでシャツをたくし上げていく腕を払いのけようと、伸ばしたナミの腕をゾロは簡単に捕まえてしまう。
ナミの頭上で、ゾロは細い両の手首を片手で束ね、押さえつける。
「やっ、ぁ!」
ナミの悲鳴を黙殺し、ゾロは淡々と滑らかな素肌を暴きにかかる。
薄い肉を纏ったしなやかな身体が抱える豊かな乳房。
押さえつけている下着をも共に剥ぎ取り、ゾロはその布でナミの両手首を括った。
恥ずかしさで、ナミは身を屈めようとするが、それをゾロは許さない。
華奢な肩を掴み、ベッドに沈める。オレンジの髪がゾロの手の上に散った。
開かせた身体の、その首筋にゾロは唇を落とした。
先程、口の中を舐められた時よりも敏感に肌はゾロの舌を感じる。
舌が這い回る合間、強く吸われる感覚に、ナミはより反応を示した。
「・・・ね、何、してん、の?」
そう問われ、きつく吸ったその場所を舌先で撫ぜていたゾロが顔を上げる。
「印だ」
そう言ってゾロはニヤリと頬を弛める。
「お前が俺のモンだっていうな」
ゾロの言葉にナミは大きな瞳を更に見開いた。
巫山戯ているのか本気なのか、人の悪い笑みを浮かべたままの表情からは判別がつかない。
戸惑うナミに構わず、ゾロは柔らかに揺れる胸元に手をかける。
手のひらに感じる極上の手触りに、ゾロは満足げに小さく頷くと、その手に力を込める。
ゾロの無骨な指をナミの乳房は包み込むように受け入れる。
波打たせるように指先を動かせば、ナミは短く息を吸い、ビクリと背を反らす。
横たわっていても崩れることを知らない見事な乳房の先端が、その動きで誘うようにふるふると震えた。
唇の端を一つ舐めると、ゾロは誘われるままに震える先端を口に含んだ。
「きゃっ、ぁん!」
途端にナミの身体が大きく跳ね、弾みでゾロの口から乳首が逃げる。
頬を上気させ、驚いた表情を浮かべるナミの顔をまじまじと見つめると、ゾロは口を開く。
「舐められたりすんのも、初めてか?」
ナミは何事かを言いかけて、結局何も言わず口を噤み、ふい、と横を向く。それが答えだった。
むくれた様なナミを見て、ゾロは可笑しそうに笑うと、再び身を屈める。
「益々光栄なこった」
散々に舐め、擦られ、果ては噛み付かれた後、もぞもぞと腰の辺りに動きを感じ、ナミは痺れたままの頭を無理やりに起こした。
見れば、ゾロはスカートのファスナーを下ろし、まさにそれを引き剥がしにかかっているところだった。
「あ、や・・・・・ちょっと。ちょっと待って!」
焦る声音でナミは訴える。
何もかも、剥ぎ取られてしまう。
残るのはこの身一つ。後は抱かれるしか、ない。
流され続けて、気づけばその先には滝が待っていた。そんな差し迫った恐怖をナミは感じていた。
「私ばっかりずるい! 脱がせるんだったらアンタも脱ぎなさいよ!」
金切り声の後、二人ははた、と顔を見合わせる。
しまった、という顔を見せたのは女で、男の方は凶悪な笑みをうかべて脱ぎにかかる。
混乱に次ぐ混乱の所為で、明晰である筈のナミの頭脳も、そして誤魔化し上手である筈の口もその機能を失ったのか。
ナミは自ら滝壺に飛び込む破目になった。
「これでいいのか?」
ズボンも下着も放り投げたゾロがナミを見下ろす。
「―――!?」
堂々たる体躯の中心に、全く別の生き物のような男の器官があった。
隆と天を突くその中に、一体どれほどの欲望が詰め込まれているのか。
ナミには恐ろしくて直視できない。
びくり、と身を震わせてナミは目を逸らす。
「ちゃんと見てろよ」
その頤をゾロは指の先で掴む。
「・・・お前だって、知りたかったんだろう?」
コイツが、とゾロは親指を下げ、自身を指差す。
「お前ん中でどうなるのか」
知りたい?
ナミはゾロの顔を見つめる。
真剣で、それでいてどこか苦しそうな表情。熱を帯びた瞳。
見たことのないゾロ。自分の知らない男の面。
ゾロの全てが、今、この瞬間は自分だけに向けられている。優越感にも似たその思いが、ナミを陶然とさせる。
そう、知りたかった。
この男がどんな風に女を抱くのか。
唇の感触、手の温もり、肌の匂い。その全てを知りたかった。
だって、私は――
考えまいとしていた結論が見えたその時、スカートとそして下着までもが引き摺り下ろされた。
くしゃくしゃに丸まった下着が、辛うじて足首に取り残されている。
だが、それすらもゾロは容赦なく取り払った。
ナミの両手は頭上で拘束されたまま。身を隠す術はない。
羞恥心でか、俯き加減の顔を上気させ、豊かな胸元に朱の花を咲かせている。
最後の抵抗とばかりに、片膝を曲げて秘部を隠そうとしているが、淡い茂みは隠しきれず、逆に円やかな臀部を見せつける格好になった。
その扇情的な光景に、ゾロは思わず息を飲む。
誰に摘まれることなく、今の今まで、この身体が"さら"のままでいられたことは奇跡としか思えなかった。
抗いきれない欲望に、ゾロの手がナミの片膝にかかる。
力任せに開けば、茂みの奥に息づく女の肉が見えた。
ゾロが腿の合間に身を進めたその時だった。
「やだ! や! 怖い、怖いの!」
悲痛な叫び声がゾロの動きを止めた。
「怖いの・・・・怖いのよ・・・」
うわ言のようにナミは繰り返す。上手く息が吸えないのは泣いている所為だと、後で気づいた。
知りたいという欲求を押しとどめるのが恐怖だった。
肉の恐怖。
目の前にある、男そのものに身を引き裂かれること。
痛い、と聞く。出血する、とも。
持て余す熱に、一人自分を慰めたことはあった。悪戯に小さな突起を弄び、痺れるような快感に酔ったことはある。
けれど自分の指とはいえ、身体の中に異物を入れるのはどうしても躊躇われた。
それと心の恐怖。
ただ身体を結んで、この先どうするのか。
一夜の出来事にしてしまうのか。たまたま手近にいた自分を伽に選んだだけなのか、と考えれば、ナミは切なさで胸が潰れそうになった。
自分ばかりがゾロを――
肉と心、二つの恐怖にさいなまれて、ナミは泣きじゃくった。
子供のように涙を零すナミをゾロは静かに見下ろす。
こんなに素直に感情を表すナミは久方ぶりだ。ナミの故郷で見た以来、か。
小さく溜息を落とし、ゾロはナミの上体に片手を伸ばす。ナミはビクリと身を震わせた。
ゾロの手はナミの頭上に下りる。
手首を縛っていた布を解いて放り投げた。
ナミはベッドに肘をつき、ゆっくりと身を起こした。
しゃくり上げながら、涙で濡れた面でゾロを見つめる。
「止める気はねぇからな」
ゾロは静かに口を開いた。
「お前だってその気があったから、鍵をかけなかったんだろうが」
そう言い放った後、ゾロはナミの腿を両手で押し開いた。
「あぁっ!?・・・・あぁぁぁぁん」
ただ、喘ぐことしかできなかった。
ぬるり、とした感覚が電気の刺激に化け、脳に届く。
ゾロの舌がナミの突起を捉えている。
慎ましく顔を見せる芽の先端を舌先で撫ぜれば、一撫でごとにナミの声は高まり、腿に込められた力は失せていく。
敏感すぎる芽を守るべく在る包皮を、ゾロは舌先で剥がしていく。ナミの腰が無意識のうちに揺らめきだしていた。
「あ・・・ぁ・・・どうし、よ」
「どうした?」
剥き出しの芽をベロリと舐め、ゾロは顔を上げる。
「・・・気持ち、いい・・・っ、くぅっ!?」
ナミの言葉が途中で途切れる。ゾロが芽をすっぽりと口に含んでしまったからだ。
優しく口づけするように、ゾロは何度もそこを軽く吸っては離す。
吸われる度に、身体の奥深くからナミの見知らぬものが呼び起こされていく気がした。
大きなうねり。何もかも飲み込んでしまうそんなうねりの予兆をナミは感じていた。
そしてそれが、快楽の限界であろうことを本能的に察していた。
ビクリ。
不自然な引き攣れをナミの腿が見せる。
まだ、この快感を味わっていたい、けれど。
「や・・・あ・・・まだ、やっ・・・・けどっ!」
ナミは震える両手でゾロの頭を抱く。そして、すぐに弾けた。
身を起こしたゾロの下で、ナミは絶頂の余韻に悶えていた。
荒い息のまま、半身を捩り、うつ伏せとなった肩は大きくわななく。伸ばした指先は何かに耐えるように強く強くシーツを掴んでいた。
それでもまだ引かぬ波に、白い臀部が二度三度と震えた。
凄絶なまでの色香を放つ光景に、ゾロは喉を鳴らした。
目の前の女が処女だとは、自分以外の誰も信じることはないだろう。
「この世で一番いやらしい処女だよ、テメェは」
ゾロは喉の奥で笑った。
ふらふらと身を起こしたナミに向かい、ゾロは胡坐をかく。
ナミの姿と発する匂いの所為で、ゾロ自身は痛いほど自己主張している。
「来いよ」
じっ、とナミの目を見つめながらゾロは手を伸ばす。
「来い。もっかい天国に連れてってやるぜ」
よろけるように近づいたナミを、ゾロは己を跨ぐように膝立ちにさせる。
ゾロは自身を握ると、その先をナミの秘唇にあてがう。
と溢れる水音で、ゾロの先端がナミのまだ誰も開けたことのない唇へ潜り込む。
「待てよ」
思わず引いたナミの腰を、ゾロは腕を回し、抱き寄せる。
半ばまで埋めた先端を、だがゾロはそれ以上進めようとはしなかった。
ナミの中でぬめる液を被った自身を強く握り込み、ゾロはその手を引き寄せた。
ゾロの先端がナミの秘部を上へと移動していく。
やがて濡れた先端が、未だ快楽に膨らんだままの芽を撫ぜる。
舐められたような感覚に、ナミは喉を反らせ高く鳴いた。
「挿れたくなったら、言えよ」
そう言うと、ゾロは再び自身を浅く潜らせ、滴のついた先端でナミの芽を掬い上げる。
ゾロが前後に手を動かす度、滴る液は量を増し、ゾロの幹をしとどに濡らしていく。
それにつれ動く手は滑らかになり、一層の快感をゾロにも与える。
自らの手で上下に扱きながら、ゾロは大きく肩を上下させ、荒い息を吐いた。
目の前には白く揺れる豊かな胸と、絶え間なく吐息を漏らす切なげなナミの顔がある。
ゾロ自身に秘唇をまさぐられ続けるうちに、やがてナミの腰がゆるやかに上下しだす。
潜り込む先端が抜けていくのを惜しむように、ナミの腰が下がる。
徐々に埋め込まれていく部分が大きくなっていく。
幾度となく繰り返した行為で、手まで溢れた液にまみれている。
先端の窪みに溜まっている液は、恐らくナミの吐き出したものばかりではないだろう。
額に汗を浮かべ、ゾロは快感を振り切るように頭を振った。
自分の身体で感じているゾロの姿が、ナミの情欲に火をつけた。
潜り込ませた先端を動かそうとするゾロの腕に、ナミは手を伸ばした。
「ちょっと、待って・・・・」
ゆっくり、ゆっくりとナミは腰を落としていく。
「・・・っ、う」
押し殺した声がナミの口から漏れた。だが、ゾロは微動だにしない。
互いの顔を見つめながら、女は引き剥がされる痛みを、男は過ぎた快感をそれぞれに耐えていた。
ナミの腰が更に下がる。
「・・・あ、あ、あぁあっ!!」
悲鳴とも嬌声ともつかぬ声をあげ、ナミはゾロの全てをその身に収めた。
ぴんと張った背筋は、途端に崩れ落ちる。その身体をゾロは抱きとめた。
ゾロの肩に両手をつき、ナミは身を起こす。
「入っ・・・ちゃった」
下腹部を片手で押さえ、ナミは呟く。
ナミはゆっくりと腰を浮かせ、沈めてみる。異物感はあれど、想像していた程の痛みはなかった。
幾度か繰り返すうちに、それまでの異物感がまた別の感覚に変わる。
「あぁっ・・・ここっ!」
ゾロの身体に挟まれ、押しつぶされた芽が強烈な快感をナミに伝えた。
ナミはゾロの身体に、その芽を擦りつけながら腰を上下させる。
その度に、きゅうきゅうと身体の中が締まるのが分かった。
身体の中で燻り続けていた絶頂の余韻に再び火が灯る。それは先程のものよりも深く、より強い。そんな予感にナミは震えた。
赤と白の液体が染みたシーツを一瞥し、ナミはうつ伏せのまま顔を伏せた。
ゾロはナミに背を向け、後処理をしている。
離れれば途端に身体が冷える。
これきりなのだろうかと思えば、心はより冷たくなった。
どうなのか、と問いただす勇気はもてない。戯れだと言われるよりは、全てを忘れてしまう方がよいとナミは思った。
ゾロがナミの方へと向き直る。気配は感じたが、ナミは顔を上げることができなかった。
ゾロは微動だにしないオレンジの頭を見つめる。
頭のいい女だ。こうなったことで、きっとまたあれこれと気を回しているのだろう。
先を読み、先のことが見通せるだけに、起こるかもしれない未来の痛みに怯える。
生きる為に身につけた、とそう思えば、その頭のよさがゾロにはどこかもの悲しく感じられた。
「また、下らねぇこと考えてんのか?」
「下らないって何よ!?」
沈黙が流れる。ゾロはナミを見つめ、ナミはシーツを見つめ続けた。
「お前は考えすぎなんだよ」
「アンタが考えなしなのよ」
だから、と言ってナミはその先を躊躇う。
「だから、手近にいる私なんかに手を出すんだわ」
しん、と静まり返った室内に長い溜息が流れた。
「お前、本当に男を知らねぇな」
顰め面でガリガリと頭をかきながらゾロは言う。
「いいか? 絶対顔を上げんじゃねぇぞ」
そう念を押すと、ゾロは言いにくそうに口を開いた。
「あのな・・・・俺がどれだけ必死にお前を口説いてたのか分かんなかったのか?」
「え!?」
「上げんなっ、つったろ!」
思わず顔を上げたナミの頭を、ゾロは慌ててベッドに押し付ける。
ナミの目には、ほんの一瞬映っただけだったが、その顔は確かに真っ赤だった。
「っ・・・・くくくくくっ!」
「・・・笑うな」
肩を震わせるナミをゾロは睨みつける。
「犯すぞ、テメェ」
「どうぞお好きに」
顔を上げれば、照れているのか、拗ねているのか、ゾロは背を向けてしまっている。
柔らかな笑みを浮かべながら、ナミはその背に抱きつく。
「これからも天国に連れてって、ね?」
終
[前頁]
[目次]
[次頁]