+裏書庫+


  オーラル(上) Date: 2005-09-22 
*"100題NO.34 69"続き*




場末の飲み屋の上階は、これまた場末の連れ込み宿だった。


先に立ち上がったナミは、カウンターへと向かう。その向こうにいる飲み屋の親父に何事か囁いて小金を渡し、代わりに錆の浮いた鍵を受け取っていた。
そうしてゾロのことなど忘れたかのように、振り返りもせずに隅にある螺旋階段に足をかけた。
そこでゾロは立ち上がった。
思いの他、大きな音をたてて椅子が動いた。
その音に反応したかのようにナミはゆっくりと振り返る。そうしてから、幾分演出過剰気味な、けれど実に男心をそそる笑顔を見せた。
その瞬間、店中の視線がナミへと向かったような気がゾロにはした。
それは言い過ぎかも知れないが、実際、ナミを囃し立てる口笛はあちこちから聞こえてきた。
立ち上がったまま動かないゾロを目にすると、ナミはゾロの方へと手を伸べる。
その瞬間、ナミへと向けられていた視線が今度はゾロの方へ一斉に移動した。
歩き出せば、下品な羨望の言葉やら野次やらが遠慮なく飛んでくる。舌打ちをしたい気持ちを抑えて、努めて無表情でゾロはナミの元へ足を急がせた。


「・・・・・お前な」
半ば無理矢理にナミを押し込む形で部屋に入り、鍵をかけると、ゾロは至近距離でナミを睨みつけた。
「何よ」
可笑しくて仕方ない風で、ナミはゾロの頬に手のひらをあてる。
「ちょっとしたサービスじゃない」
クスクスと笑う唇が誘うように開く。ナミは声を潜めた。
「口説いた女にそんな顔すんじゃないわよ」

遊んでやがるな、この女――
いきなりぶち込んで黙らせてやろうか、そんな凶暴な考えを抱いて頬に触れてくる手を掴もうとした矢先、その考えを読んだかのようにナミの身体が離れた。
「シャワー浴びてくるわ」
ゾロに背を向け、歩きながらナミは着ていたシャツを脱いで放り投げ、短いスカートを落とす。
「おいっ!」
ゾロの声に下着姿のナミが振り返る。
躊躇いも見せずにホックを外し、ゾロに向けてブラを放り投げる。箍を失った胸が奔放に揺れた。
「今更取り繕うことないでしょ?」

しれっとした顔でそう言うと、ナミは部屋の奥、バスルームへと姿を消した。
確かに誘いをかけたのは俺の方なんだが。
細い下着を片手にゾロは肩を竦めた。どうにも攻め立てられてる感じが否めない。どうしてやろうかと、ゾロはナミの消えた先に目をやった。



浴室もまた、この建物には妥当な作りであったが、掃除は何とかされているらしく、使うのに躊躇われるといったほど酷くはなかった。
ゾロがその扉を開ければ、空のバスタブの中で、ナミは驚いた風もなく、ただ身体を洗っていた手を止めた。
「続けろよ」
そう促し、服を脱ぐでもなくゾロはバスタブに併設された便器に蓋の上から腰を下ろした。
ナミはほんの僅か、目を細める。そうして、再び泡に包まれた右手を動かし始めた。
左手の先から二の腕へ、そうして豊かに張り出した胸を抱くようにすくい上げる。ふくらみの上から垂らされた泡が艶かしく谷間を滑り落ちていった。
その泡を追うように右手が下がる。その手が臍の辺りにまで到達した時、ナミはゆっくりと右足をバスタブの縁に乗せた。
爪先、足首、脛。傾けていた身体が徐々に起き上がる。
膝、そして内腿。ナミは縁に乗せた足を徐々に開いていく。
濡れた茂みや腿に絡む白い泡が、別な何かを想起させる。そこでゾロは立ち上がった。
服を着たまま、バスタブを挟んでナミの前に立った。
ゾロはナミの腰を抱くと、強く引き寄せる。ナミの片足がゾロの足に絡んだ。
服の上からでもそうと分かる硬くなったペニスが柔らかなナミの下腹部に押し当てられた。
「濡れるわよ」
子供を嗜める声音のナミに、ゾロは低い笑い声で応えた。
「今更関係ねェだろ?」

ゾロはナミの身体を、ナミはゾロの身体を、手のひらで探りあった。
ゾロは滑る乳房を持ち上げ、その先端を指先で擦りあげた。
ナミの身体の泡がゾロのシャツを濡らしていく。肌に張りついたシャツに透けて浮き出た男の乳首をナミは爪の先で掻いた。
二人の間を流れる息は徐々に熱を帯び、堪えきれず零した声が時たま、バスルームに響いた。
やがて、二つの手は互いの秘部をまさぐりだした。
節くれだった太い指が、泡に包まれた茂みに分け入る。軽く潜らせたそこは温かく濡れていた。泡の所為だけではなさそうだった。
その手と交差するように、細く長い指が男の服の下に侵入していた。人差し指と中指で軽く挟むようにして、男の姿を確かめる。濡れた指先に、ペニスの熱とまるで木の根のように張り巡らされた血管の存在を感じた。
泡の滑りを利用してナミはズボンの中からペニスを解放する。指を離す間際、張り詰めた裏側の筋を撫ぜると、ゾロは小さく呻いた。

顕わになったペニスを、ゾロはナミの身体に強く押し付けた。
そのままゾロは僅かに腰を落とす。淡い茂みをペニスに感じ、それから同じペースで戻す。
ぬめるナミの身体の上を這うようにゾロのペニスが動いた。
柔らかな肉に敏感な裏側を刺激され、ゾロは荒い息を吐いた。
ゾロは何度もナミの肌にペニスを擦り付ける。
当初、ナミの下腹部に押し付けられていたペニスは、ゆっくりと、けれど確実にその位置を下げていった。
恥毛に触れるだけだったペニスがいつの間にか、その下の柔らかな二枚の肉の間に潜り込んでいた。
濡れた亀頭の先が膨らみかけたクリトリスを掠めると、ゾロの手を浮かせるほど、ナミの腰が震えた。
「ここか?」
低く笑いながらゾロは何度もクリトリスをすくい上げる。その度に切れ切れに喘ぐ声が響いた。
ナミが身じろぎすれば、ゾロの胸板の上で泡塗れの乳房がいやらしく震える。その眺めは否応もなく劣情を煽る。
やがてペニスの先端がナミのヴァギナに触れるようになった。
「このままだと入っちまうぜ。どうする?」
そう尋ねる間にも、ゾロはナミの入口を意地悪く刺激し続ける。
やがて、ほんの浅くに先端が潜り込む。ナミが小さく叫んだ。
「どうすんだ?」
問うた方も、問われたほうも苦しかった。
このまま、突き上げてしまえば――
ナミの入口は温かく濡れている。自身の熱を持て余し気味のゾロにとって、このまま貫くのに何の支障もない。
このまま、腰を落としてしまえば――
触れただけでゾロが硬く、そして力強く脈打っているのが分かった。身体がその硬いものをせがんでいることもナミには分かっていた。
「・・・・ダメ」
その先にある快楽は容易に予想がつくだけに、断ち難い。
掠れ声でナミは弱々しく首を振った。
「ちゃんと、つけて・・・」
口ではそう言っていても、ゾロがその気であれば抗うことはきっとできない。
縋りつくようにゾロの両腕を掴んだ手が、離れようとしているのか、それとも繋がろうとしているのか、ナミにはもう分からなくなっていた。
「そうか」
やがて、苦笑にも似た息がナミの頭上を流れた。
「まぁ、まだしゃぶっても、しゃぶらせてもいねェもんな」
縋りつくナミを片手で支えながら、ゾロはシャワーのコックを捻る。
温い湯がだらだらと肌に纏わりつく泡を落としていく。爪先から離れ、ゆっくりと流されていくその泡をナミの目は追っていた。



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