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  One Night Show(上) Date: 2005-12-28 
scene1...上目遣い


月の美しい、波の穏やかな夜だった。

港の少し先、人目につかぬよう入り江に停泊させた船に一人ゾロは残っていた。
吹き抜ける風が心地良い。甲板で海に映る月を眺めながら酒をあおり、ゾロは軽く目を閉じる。寄せては返す波の音を耳に、どれくらいの時間が経ったろう。

目を瞑ったままのゾロの眉根がピクリと動いた。船内に人の気配を感じた。
足音を殺してはいるが、確かに一人、こちらに向かってくる者がいる。
ゾロは腰に下げた刀に手を伸ばす。振り向きざまに鯉口を切り、背後にいる相手に突きつけた。
「何の用だ?」
低く唸り、ゾロは薄く目を開ける。直後、目の前にあった姿にゾロは僅かに戸惑いを見せた。

女だった。
風になびく長い黒髪が、ゾロの手の甲を撫ぜる。その陰になって表情は見えない。ただ、真赤に塗られた唇だけが妙に目を惹いた。
その唇がゆっくりと動く。突きつけられた刀を気にすることなく、女は笑った。

「暇そうね。お兄さん」
「あ?」
ひそやかに声は囁き続ける。
「あたしと、遊ばない?」

娼婦か?
ゾロの眉間の皺が一層深くなった。
「最近の女は海賊船にまで出張って来るのか?」
ゾロは軽く口の端をあげる。

女は恐れる風も見せず、自分を抱きしめるように前で軽く腕を組んだ。
身体にピタリと吸いつく丈の短いワンピースは唇と同じ赤。際どい位置からすらりと伸びた両脚、ぎゅっと括れた腰。大きく開いた胸元では、豊かな胸が見せ付けるように深い谷間を作っている。
伏せたまま、顔の造作は分からないが、姿形が絶品なのは一目見て分かる。
こんな危険を冒す必要はないような女に見えるが。
何か他に狙いでもあるのか、と再び警戒心を強めたゾロに、女は音もなく擦り寄った。
組んだ腕を解き、女は刀を握ったゾロの手をつい、と横に除ける。
「てめェ・・・」
ゾロの空いた胸板に身を寄せ、女は指先でその硬い胸板をなぞった。
ビクリとゾロは身体を震わせる。女は低く笑い、白いシャツに触れる寸前のところで唇を開いた。
「どう? サービスするわよ」
女の吐息が胸を擽る。
長い髪が腕に絡みつく。どういう訳かとっさには振り払えなかった。
やがて、ゾロは我に返ったように身じろぎした。

「悪ィが他当たってくれ。俺は――――」
そう言いながら、ゾロは女の肩を掴んで引き剥がそうとする。その手と口が不意に止まった。

女の肩が小刻みに震えている。
やがて、女はくすくすと笑い声を零す。
「お、前・・・・まさか・・・・」
慌てたようなゾロの声に、それまでの密やかな仕草はどこへやら、女の笑い声は徐々に大きくなっていく。
「気づくのが遅いわよ」
可笑しそうに笑いながら伏せていた顔を上げた女は、ナミであった。

「・・・・・・何つー格好してんだ。お前」
溜息を一つ零し、呆れた口調でゾロは肩の力を抜いた。
何よ、とナミは唇を尖らせる。
「人が変装してまでアンタのとこに戻ってきてあげたのに」
「このイカれた格好がか?」
ナミは物も言わず、刀を納めたゾロの頬をつねった。
「この格好なら誰も私だと思わないでしょ」

上陸した途端に、クルー達に囲まれて否応なく連れられていったナミの姿をゾロは思い返していた。それから改めて目の前にいるナミの姿を見る。
どうみても商売女だ。確かにこれなら誰もナミだとは思わないだろう。
いつもとは違う装い。いつもとは違う化粧に長い髪。ナミだと頭では分かっていても、別人のように思える。
女は化けやがる。
そんなことを思いながらゾロはナミを見つめ、そして見蕩れた。

「ねぇ、さっきは随分考え込んでたみたいだけど?」
「な、何がだよ」
ますます身体を寄せてきたナミにゾロは動揺を隠し切れなかった。
ごくり、と生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
ナミは両の腕をするりとゾロの首の後ろに回す。
「買おうか迷ってた?」
「馬鹿言え」
反射的に言い返したゾロに向けて、真赤な唇が微笑む。その本心を探るようにナミはじっと上目遣いでゾロを見つめる。その瞳が妖しく揺れ、思わずゾロは視線を外す。
「どう? あたしと遊ばない?」
先ほどと同じ台詞をナミは囁く。誘う視線はいつも以上に露骨な女の匂いがした。
「娼婦になるってか?」
ナミは妖艶な笑みでもって応えた。
「悪かねェな」
ゾロは人の悪い笑みを浮かべ、ナミの腰をぐいと引き寄せた。



scene2...舌遣い


「じゃあ、こっち」
ナミはゾロの腕をとると、するりと自分の腕を絡めて歩き出した。

見下ろす光景がいつもと違う。
長い黒髪と。あぁ、とゾロは思い至った。背の高さが違った。視線を足元に落とせば、いつも以上に華奢で高いヒールをナミは履いていた。
おちつかねェもんだな。
本当に女を買ったような気分だ。若干の後ろめたさと高揚感を同じ女に抱いている。どうにも妙な感覚を抱きながらゾロはナミに連れられて歩いた。

キッチンに入れば、小窓から月の光が青く射し込んでいる。
ゾロの腰掛けたベンチの下にナミは小さな灯りを置いた。向かい合ったままゾロの腿に手を置き、胸を突き出すように身を乗り出した。
「で? 幾ら出してくれるの? お兄さん」
「本気で金取んのかよ」
「あったり前でしょ? あんたタダで女買うつもり?」
これ揃えるのに幾らかかったと思ってるのよ、とナミは言う。
知るか、と出かかった言葉をゾロは飲み込む。ズボンのポケットを探ると、ベリー札を取り出す。上陸時にナミからもらった小遣いだ。
ゾロはナミの衣装の胸元に指をかけると、ぐいと引いた。半ばまで姿を現した乳房の合間にその札を挟める。
「これで文句ねェな?」
意味深な笑みを口元に浮かべ、目の前に垂れる黒髪を弄ぶように指にかける。
「てめェをどうしようと、俺の勝手って訳だ」
そうよ、とナミは目を細めた。これで私もアンタも知らないもの同士。行きずりの一夜になる。ゾロの頬に両手をあて、微笑む口元でナミは甘く囁く。
「これであたしはアンタのもの」
いつもなら口に出来ない言葉も今夜なら言える。それはただの娼婦の戯言だから。

ナミがゾロのシャツを剥ぐ。ゾロはだまってナミのすることを見ていた。
ナミは顕わになった男の肌を指でなぞる。張り詰めた胸の筋肉の硬さを確かめる。
大きく引き攣れた傷に唇を落とす。
その唇が離れると、濃い口紅の色が男の肌にべったりと残った。
それは血の色にとてもよく似ていた。

それからナミは床に両膝をつくと、ゾロの足の合間に身を進ませる。
太い腿にしなだれかかり、ゾロを見上げた。
黒の髪がさらさらと流れ、にこりと笑った唇が開いた。
開いた穴から、ぬるりとした舌が現れる。ゾロの腿に乗せていた手をそっと奥に進ませた。
焦らすようにゆっくりとズボンの前を開け、とうに熱を帯びているペニスを取り出す。
舌先をその先端に当てれば、ナミの手の中でそれは脈打ち、さらに大きさを増した。
「・・・素敵」
感嘆の溜息と共に、ナミは舌を使いながら自らの口の中深くまでゾロを導く。その時、ゾロが動いた。
腕の黒手ぬぐいを乱暴に外すと、ナミの両手を後ろに回す。ゾロが身体を前に倒したので、ペニスはナミの喉の更に奥を犯す格好になった。く、と苦しげに喉を鳴らしたナミの両手をゾロは後ろ手に括った。
ゾロが身を起こす。
縛られたナミは、ゆっくりとペニスを吐き出し、その先端を口に含んだままゾロを見た。
「どうした? 続けろよ」
からかいを交えた口調でナミを見下ろす。
不自由な格好で、それでもナミは逆に挑発的な光を瞳に浮かべる。
見せつけるように長く舌を伸ばし、その表面をひたりとペニスの裏側につけた。

淫猥な水音がキッチンに響く。
ゾロは下半身に顔を埋める女の姿を見つめていた。
女が顔を前後させるたびに長い髪があちこちに散る。見慣れぬ光景と、常になく奔放な舌遣いがゾロを激しく昂ぶらせていく。
じゅ、と音をさせてナミはペニスから唇を離す。ゾロから滲み出た液と唾液が交じり合った液体がナミの口の端から零れるが、ナミには唇を拭う術がない。
細い顎を伝い、零れた液体は音もなく床を濡らす。口中に残った液体を飲み下すと、ナミは飽くことなく舌をペニスに伸ばす。
飴玉をしゃぶるように括れた裏側を舐めてから顔を傾ける。
ずしりと落ちてくるペニスを頬で支えながら、根元に向かって舌を這わせた。
横から噛みつくようにペニスを咥え、裏側に舌をあてがったまま顔を振れば、ゾロが苦しげに、そして切ない声をあげた。
頬に当たるペニスは益々熱い。
瘤のように浮いた血管を舌の上に感じ、ナミはうっとりと目を閉じる。舐めながら、その瘤が自分の体内をごりごりと擦りつけていく様子を思い浮かべれば、下腹部がじんと疼いた。
堪えきれずナミは両の腿を擦り合わせた。けれども疼く部分には全く届かない。両手が自由であれば、躊躇うことなく指を使ったろう。
あぁ。たまんない。
自由にならないもどかしさで、ますます体内に熱がこもっていくのが分かった。
その時、ゾロが身じろぎし、同時に何かがスカートの中に潜り込んだ。
驚いて目を開ければ、それはゾロの足だった。
「何、ごそごそしてやがる」
そう言ってゾロはぐい、と親指の先をナミの股間に押し付けた。
「んぅっ!!」
弄りたくとも届かなかった場所を強く刺激され、ナミは悶えた。
「随分、我慢してやがったな」
その様を見て、ゾロは楽しそうに眦を下げる。
ゾロは下着の上から何度も足指の腹を走らせる。柔らかなすじは、既にそうと分かるほどに濡れていた。
ナミはもはやゾロを愛撫することも叶わず、ゾロの腿に縋りついている。
両腕を縛られたまま、しな垂れかかっているその姿はゾロの嗜虐心を刺激する。
ゾロはナミの頤に指をあて、上向かせる。
「そこに乗れよ」
そう言って、ゾロが視線で示した先にはテーブルがあった。



scene3...息遣い


腕を縛られたまま、テーブルの上に膝をついた女をゾロは見つめた。
二人の体液で濡れた顎を指で拭ってやり、ゾロはその手をナミの背に伸ばす。両手を括っていた手ぬぐいを解くと、ぱたりと両腕が落ちた。

ナミが次の動きを促すように小首を傾げる。癖のない艶やかな黒髪がさらさらと流れた。真直ぐに切り揃えられた前髪の下にゾロは手ぬぐいをあてがう。ぎゅ、と頭の後ろで結び、目隠しをした。
瞳が見えなくなれば、目の前の女は益々ナミには見えない。
暫くその姿を眺めていたゾロだったが、やがてその場を離れ、冷蔵庫へ足を向けた。
ナミは見えぬ目でゾロの動きを追う。
扉を開け、中から酒瓶を一本取り出してゾロがテーブルの前に戻ると、ナミもまたそこに顔を向けた。
歯で引きちぎるようにして栓を開ければ、濃いアルコールの香りが鼻に残った。
立ったまま、瓶を傾ける。熱い液体が喉を、臓腑を焼いていく。
「お前もやるか?」
まるで言葉を忘れてしまったかのように、ナミは小首を傾げる。さらりと流れる黒髪。
ついさっきまで、自身を咥えさせていた唇にゾロは瓶の口をあてた。その瓶をほんの少し傾ければ、こくりと飲み下す音で喉が艶かしく動いた。
やがてナミが小さく唸り、首を振る。タプンと音をたてて唇から瓶が外れた。
軽く咳き込んだナミの唇から酒が零れ、誘うように肌の上を落ちていく。
ゾロは片手をテーブルについて身を乗り出す。誘われるままに濡れた跡に口づければ、ナミは小さく息を飲んだ。
首筋から胸元へ。その動きを追うように流れた髪がゾロの首筋を擽った。
開いた襟元で形よく盛り上がった乳房をペロリと舐め、ゾロは目を細めた。胸の先では乳首の形が服の上からでも分かるほどにはっきりと浮き上がっている。
二本の指の合間に先端を挟む。案の定、服の下には何もつけていない。挟み込んだ指を狭めれば、びくりと震える身体の周りで髪が舞った。

「脱げよ」
そう言ってゾロはナミから離れ、先程ナミがベンチの下に置いた灯りをテーブルの上に置く。そうして自分は酒瓶を片手に悠然とベンチに腰を下ろした。
目隠しをされたまま、唇に艶めく笑みを浮かべ、ナミは両手を胸の前で交差させるようにして肩を抱いた。
襟にかけた指先をじりじりと引き下げていく。
二の腕にかかるところでナミは一旦指を止めた。胸の谷間に指先を潜り込ませ、取り出したのはゾロが挟んだベリー札だった。
ナミは軽く身を捩ると、ゾロの目の前で短いスカートの裾を捲り上げた。
現れた黒のガーターにベリー札を挟み、それからナミは片手を背に伸ばした。ジ、とジッパーを下ろす音がし、やがてするりとナミは肌を晒した。
それから両手をテーブルにつき、四つん這いでゾロのいる方へと進み出た。

白の肌の上に纏う黒髪がナミの動きと共に揺れる。ゾロの目の前でナミは顔を上げる。目隠しの布が女の顔を一層艶かしく見せた。
ゾロは無言のままナミの顔へと手を伸ばした。その熱を感じたのか、ナミは自らその手のひらに頬をすり寄せた。
「猫みたいな女だな。てめェ」
ゾロの言葉にナミは、くっ、と小さく笑うと、ゾロの手のひらをペロリと舐めてみせた。
しなやかで美しく、淫らな黒猫。
ゾロは動物にそうするように、喉から頤を指先で愛撫する。
「猫なら何されても喋らねェな」
笑い含みでそう言うとゾロは手にした瓶を一つあおり、瓶の口をナミの唇にあてた。
アルコールの香りの残るその口にナミは舌を伸ばす。先程の再現とばかりに、ナミはゾロに見せつけるように舌をうねらせ、瓶の表面を舐めていく。
瓶に絡まる舌の動き。見つめるゾロの身に先の感触が蘇る。どくりと下半身に血が集まるのを感じた。
「随分いやらしい猫じゃねェかよ」
低く笑いながらゾロはナミの口元から瓶を離した。そして、瓶の口をナミの肌にあてたままゆっくりと動かす。頤から首筋へ。そして柔らかな胸の先端へと。
ナミの唾液で濡れた瓶の口で、硬く腫れ上がった乳首を弄ぶ。
短く息を吐き、ナミは四つん這いの背を反らした。
立ち上がった乳首の輪郭を瓶でなぞられ、ナミは細い肩を震わせる。肩にかかる髪が波打った。

やがてゾロは瓶を持った手を戻した。ナミの温もりの残る瓶に口をつけ、ゾロはごくごくと中身を空けていく。それと同時に、もう一方の手でナミの腕をとり、身を起こさせた。
ナミをテーブルに仰向けに寝かせるとゾロは一口、酒を口に含み、ナミの下着の上に唇を落とした。
息を飲み、身じろぎしたナミをよそに、ゾロはその唇を開いて下着を酒で濡らした。
じっとりと濡れた下着はナミの秘部に張りつき、その形を顕わにさせる。
目の前のすじに瓶の口をあて、ゾロはその手をゆっくりと上下させる。
動かすごとにナミは息を弾ませ、その足を大きく開いていく。徐々に濡れた下着ごと瓶の口が沈んでいく。やがて、瓶の先端がポツリとした塊にぶつかった。
「はっ、あ!!!」
一際大きく息を吐いたナミを見下ろし、ゾロはからかう様な口調で尋ねる。
「ここが、どうかしたか?」
そう言って、ゾロはことさらにその部分を攻め続ける。
「はっ、はっ、はっ、はっ、あ!」
快楽に目覚めた突起を幾度も擦られ、ナミは浅い呼吸を繰り返す。
硬い瓶越しに、こりこりとした感触がゾロの手に伝わってくる。薄い布の下で嬲られている艶やかな突起を思えば、ゾロの身体は一瞬で熱くなる。
何かに縋るように伸ばした手は虚しく空をきる。やがて、ナミは瓶の口へ自ら擦りつけるように腰を揺らめかせた。
それを見たゾロは苦笑にも似た笑みを浮かべ、下着の表面を滑らせていた瓶の口を隙間から内部へと潜り込ませる。
くちゅり、と音をたて瓶の先端は容易くナミの体中に取り込まれていった。
「冷たっ、あぁぁっ、ん!!?」
ドロドロに溶かされていた中に、突然に硬く冷たいものを埋め込まれ、ナミは鋭い声をあげた。
「猫の真似は終わりか?」
口の端を歪め、ゾロは手にした瓶を軽く左右に振る。
ぴちゃぴちゃ。ぴちゃぴちゃ。
瓶の口はナミの中を掻き回し、瓶の底では残りの酒が揺れ動く。
二つの場所から起こる水音をバックに、ナミの息遣いが淫らな旋律を奏でた。

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