+裏書庫+
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invisible man (下) |
Date: 2007-06-23 |
「ふう」
息を一つ吐いてシャワーを止めると、ナミはふるりと濡れた頭を振った。オレンジの毛先から跳ねた雫が、傍らに佇む透明な男の肌にぶつかり、玉となって滑り落ちる。
頬に張りつく髪を払うように、両手で顔を一撫でし、ナミはタオルでくるりと濡れ髪を巻いた。
肩が凝っているのか、右手で左の肩を揉みながら左手でバスタブの縁に置いていたスポンジを取る。石鹸を馴染ませたそれを、二三度揉むと、よい香りと共にナミの指の間から泡が零れ落ち、湯船に白い花を咲かせた。
濡れて光を弾く滑らかな肌を細かな泡が彩っていく。
時折鼻歌の混じる、まるで無防備なナミの姿をゾロは楽しんで見つめていた。
腕から脇へ。そして胸へ。
胸の谷間を白い泡に包まれた指が行き来する。それを目にしたゾロの顔からふ、と笑みが引いた。艶かしいその様に思わず目が引き付けられてしまう。
そんなことは露とも知らず、ナミは右手を動かす。
可愛らしい臍に泡が留まる。腹を撫ぜた手は、ゆっくりと脚へと向かった。
ザバリと水音が立ち、湯の表面で泡が大きく揺れた。右足をバスタブの縁に乗せ、ナミはスポンジを腿に走らせた。
足の指の間を丁寧に洗い、スポンジは細い足首から脛へそして腿へと向かう。
ナミは右手に持っていたスポンジを左手に持ち帰る。ゾロの見ているその前で、泡まみれの手が内腿に消えた。
泡に包まれた秘所を細い指が行き来する。
壊れ物を取り扱うように、そっと丁寧にナミはそこを清めていく。
風呂場なのだから当たり前の光景。そこに厭らしさはない筈なのに、穏かな表情で己の秘所で指を動かすその姿に、ゾロは妙な興奮を覚えた。
「随分丁寧に洗うじゃねェかよ」
狭い浴室に突然に響いた声に、ナミはビクリと身を起こす。
直後、ザブリと音がしてバスタブの湯に穴ができた。続けてもう一箇所、透明な穴が生まれる。
それを見たナミが目を大きく見開く。
反射的に悲鳴の形に開きかけた唇を右手で封じながら、ゾロは己の透明な身体でナミを壁に押し付けた。
「使う予定でもあんのか?」
唇に押し当てられた手を剥がし、ナミは低く笑うその声の出元を睨みつける。
「ゾロ・・・・アンタ、一体いつから―――」
抑えた声音にはありありと怒りの色が浮かんでいるが、ゾロはまるで気にしていない様子で平然と答える。
「髪洗い終わったあたりからだな」
ぐ、と息を飲み、ナミは拳を固める。
「絶対、包帯取るなって言ったでしょ」
「言われたな。承知しないって・・・・ま、どう承知しなくても俺は別に構わねェがな」
ナミにはゾロの表情が見えない。が、見上げる先には憎たらしい笑みを浮かべる顔が見えるようだった。
「あっそう」
ナミは硬く拳を握り締める。
「じゃあ、遠慮はしないわよっ!!!」
思い切り振り上げた拳。だが、悲鳴を上げたのはナミの方だった。
目に見えぬ標的は、易々と一撃をかわし、くるりと体を入れ替えるとナミを背後から抱きすくめた。
抵抗の術を失いナミはゾロの腕の中でもがく。
その拍子に髪に巻いていたタオルが外れ、バスタブの中に落ちた。湯面でしばし漂っていたタオルはやがて大きく揺れ動く湯の中に沈み、見えなくなる。
髪を乱したまま、ナミは振り向き、ゾロを睨む。その表情は、ゾクゾクするほどに美しく、ゾロを昂ぶらせる。
「大声出すわよ」
鋭いその声に、ゾロは喉の奥で笑った。
「駆けつけたヤツにまな板ショーでもみせてやるつもりか?」
笑い含みにそう言うと、ゾロは泡の付いたままの乳房をぐいと持ち上げる。
「ちょっ!? やめっ!!」
身を捩るナミを片手で抱えたまま、ゾロはシャワーを手に、蛇口を捻る。
「何にしろ、泡が邪魔だな」
勢いよく流れ出る湯が、みるみるうちにナミの身体から泡を落としていく。
洗いたての滑らかな肢体。ゾロはナミの閉じた両足の隙間に、己の足を割り入れた。
ナミの両腕を封じながら、ゾロの左手は背後から秘所へと伸びる。濡れた恥毛を掻き分けるようにして柔らかな合わせ目を指で開き、そこにシャワーヘッドを近づけた。
「―――っ!?」
ビクリとナミの膝が震え、湯面を揺らした。
「泡、まだ残ってるじゃねェか」
ナミは大きく見開いた目を下に向ける。見えない指に大きく開かれた秘所に、水流が押し当てられている。
ゾロがシャワーヘッドを上下に動かした。
「やだっ・・・・んっ!!」
無数の湯の流れが、敏感な箇所に一斉にぶつかり、むず痒いような快感をナミに与える。
ナミの腕から力が抜けたのを感じ、ゾロは柔らかな身体を解放した。それと同時に、ゾロは蛇口を閉めるとシャワーを手放す。ぽつぽつと滴を垂らしながらシャワーヘッドは泡だらけのバスタブの中に沈んでいった。
何事か言いかけたナミの唇は、目に見えない唇で塞がれた。
どう応じてよいか分からないでいると、不意にぬるりとした舌が潜りこんで来る。
驚く自分の様子を、ゾロは楽しんで見ているのだろうか。どう扱われるのか分からない不安と、何をされるのかを期待する思いがナミの心を揺らす。
ゆっくりと舌が引き抜かれ、唇の間近で男の囁きが聞こえた。
「飲んだ分が出たら戻るって言ってたろ?」
笑う風の息遣いが届いた。
「協力しろよ」
「いやって言っても、どうせ無理矢理させるくせに」
そう言ってナミは共犯者の顔で笑った。
「ん・・・・・」
バスタブの中に一人立ち尽くしたままの格好で、首筋を舐められる感覚にナミは吐息を漏らす。
硬く尖らせた舌の感触が、鎖骨を撫ぜて更にその下へと向かう。
次はきっと胸を愛撫されると思っていたナミの予想に反し、ゾロはナミの左の腕を持ち上げると、腋下に舌を伸ばした。
「えっ!? きゃっ!!」
思いもよらない感覚に、逃げ出そうとするナミの身体をゾロは捕まえて離さない。
脇の窪みを舌で何度もつつかれ、その度にナミは身を捩る。
「ちょっと!! くすぐったい、てば!」
苦笑いを浮かべて抵抗を続けるナミを無視し、ゾロの透明な舌はナミの窪みに吸い付き、ねっとりと舐め上げる。
くすぐったさに絶え絶えだった息遣いが、ある時を境にして豹変した。
それまでくすぐったさしか感じていなかった筈なのに、突然に身体の芯が甘く疼きだした。
「や・・・・ぁん・・・」
明らかに濡れた声がナミの口からあがる。
ナミ自身、己の変化に戸惑いを隠せないでいた。同じことをされているのに、いったいどこで感覚のスイッチが切り替ったのか。
舐められる度に、下腹部の奥がじんじんと痺れてくる。
知らず恍惚の表情を浮かべるナミをちらりと見上げ、ゾロはようやく腋下から唇を離す。
突き放されたような感覚に不安を覚える間はなかった。
ゾロの脚の形に開いていた湯船の穴が、不意に大きくなり、同時に水かさが増す。ゾロがバスタブに身を浸したのだと理解した時には、ゾロの指はとうにナミの秘所にかけられていた。
「さっき流したってのに、もうぬるぬるじゃねェか」
揶揄するような声音で、ゾロは濡れた穴の周囲を二本の指で軽く撫ぜる。たっぷりと蜜を絡めた指をナミの目の前に差し出す。
だが、当然ナミの視線はその指を捉えることが出来ない。
「おい、お前の目の前だ」
「え?」
「よく、見てみろよ」
そう言ってゾロは、ゆっくりと二本の指を開いていく。つ、と粘る体液がナミの目の前で細い糸を引いた。
「バカッ! やめ―――っ!!?」
ナミは、見えないその手を捕まえようとしたが、それは空振りにおわった。逃げたゾロの指は、ナミの乳首にとりついていた。
発情して硬くなり始めた乳首を挟み、少し強めに捻れば、ナミは息を飲んでその感覚に耐えた。
ナミは己の胸元に目を向ける。
すっかりと輪郭を顕わにした乳首が転がされている様子を目にし、頬に一気に血が昇る。
だが、それを冷静に観察する暇をゾロは与えなかった。
右手でナミの乳首を弄びながら、ゾロは僅かに身体を伸ばし、秘所に口づけた。
「んうっ!!」
思わずあげかけた悲鳴を、ナミは自らの手で抑える。
そんなナミの努力を嘲笑うかのように、ゾロは全く遠慮なしにナミの秘所にむしゃぶりついた。
左手で襞の半分を押し広げると、艶やかなクリトリスを何度も吸い上げ、半ば無理矢理に剥き出しにする。
じゅう、と吸い出す音が響く度に、ナミの両脚が不安定に何度も縺れ、湯船を掻き乱す。
「ゾロ・・・・もう、ダメ・・・・立ってられない」
「そうか、よ」
ゾロはナミから唇を離すと、ふらつく身体を片手で抱き寄せる。そうして、もう一方の手で、バスタブの外に手を伸ばす。そこには四枚組の木でできた蓋が立てかけてある。その内の一枚を引っ張り上げると、バスタブに渡し、その上にナミを乗せた。
細い板の上で、ナミはバランスをとろうと、反射的に両手両脚でバスタブの縁を掴んだ。その所為で自然と、ゾロの前で大きく股を開く格好と鳴ってしまった。
「いい心がけじゃねェかよ」
く、と喉の奥で笑い、ゾロは身を乗り出す。
濃い女の匂いを醸し出す穴に中指を深く挿し入れる。指の腹でざらつく天井を撫ぜながら、ぷっくりと膨らむ柔らかな肉を左手で大きく広げ、濡れて光るクリトリスを外気に晒した。
「スゲェな」
ゾロの息が吹きかかる。顔を近づけたのが分かった。
「完全に勃起してるぜ。お前のココ」
卑猥な言われように、ナミは堪らず顔を背ける。低く笑いながらゾロは言葉を続ける。
「こんな機会めったにねェぞ。ちゃんと見とけよ」
目に見えないものに強く手を引かれ、ナミはバランスを崩し、前のめりになる。
「きゃっ!!」
小さな悲鳴ともとに突き出した手は、空中で何かにぶつかる。恐々と開けた目に、揺れる湯船が見えた。両手でしがみついているのはどうやらゾロの肩のようだった。
「落ち着いたか?」
顔のすぐ傍でゾロの声がする。何もない空間に浮いているような格好は、何とも妙なものだった。上から己の秘所を覗き込むような格好になったナミにゾロが告げる。
「見ろよ。テメエがいつもどうされて悦んでるのか」
ゾロの身体が動く。
次の瞬間、ペロリとクリトリスの頭を舐められ、ナミは息を飲んだ。赤みを増した突起が右に、左に揺れ動くのが見え、その度に背筋を甘い快感が駆け上がっていく。
ゾロは舌でクリトリスを弾きながら、指でナミの体内を掻き回している。その指の動きで、膣口の形が歪み、吐き出される体液がくちゅくちゅと音をたてている。
いつも、こんな風に―――
ナミの頭に血が昇る。
羞恥心と、それを上回る興奮によって。
ナミの中に挿し込まれた指が、一本から二本に増えたのが感覚で分かった。
体内で指が広げられ、赤く蠢く襞がナミの眼前に晒された。己の意思とは無関係な生き物のように、そこはうねうねと動く。
その口が急に閉じた。
「はっ・・・あぁっ!!」
クリトリスを強く吸われ、ナミは堪えきれずに嬌声を零した。
見れば、剥き出しのクリトリスが引きずり出されるようにして飛び出している。
ゾロが唇を離す。
一息つく間もなく、再びそこは吸い出される。
吸われる度に、目が眩むほどの快感で頭が焼かれる。
千切れてしまうのでは、と思うほどに引きずり出されて、尚快感は深まる。
ゾロの唇に挟まれ、舌で扱かれる。
ゾロの動きは一切見えない。だが、ナミの脳裏では、男の長い舌がいやらしく動き回っていた。
「ゾロっ、ゾロっ!! 凄い・・・それ、凄いの――」
ナミは己の秘所から目を離すことなく、うわ言のように快楽を訴え続ける。
ゾロの指を咥えている口が、ひくひくと蠢く。掻き出された愛液は、肌を伝い流れて蓋の表面をもとろりと光らせた。
バスタブに乗せた足。その指がきつく折れ曲がると、ナミの口から切羽詰った声があがった。
「ね、もう・・・ダメ・・・・来て、早く―――」
「確かにな」
苦笑を含んだ声音でゾロが応じる。
「俺も流石にのぼせそうだ」
長く湯に浸かっていたからだけではない。
ザブリと湯面が大きく揺れると、何もない空間から幾つもの滴が落ちる。湯船に開いた穴が消え、代わりにペタリと床に足をつく音が聞こえた。
「おい、こっち向け」
ナミはバスタブの外、声のする方向を向く。ゾロの意を察し、今まで腰掛けていた板に背中をつけて寝そべった。
濡れた腿に、男の手が触れる。見えなくても分かる。節くれだった指と硬い手のひら。
ナミは姿の見えぬ相手に身体を開く。
「いくぜ」
言い終えるや否や、張りつめたペニスの先端がナミの中に潜りこんで来る。
たっぷりと溶かされた中が、目に見えぬ剛直に貫かれていく。その感覚にナミは全身を粟立てながら、背を反らした。
「スゲェ、な。テメェん中は、よ」
息を詰めながらゾロは言う。
「もっと、よく見せろ」
直後、腰を掴まれ、高く持ち上げられる。
結果、真上から突き刺されるような格好になり、ナミは大きく熱い息を吐いた。
深く挿し入れたまま、ゾロは己のペニスの形に広がった口からナミの中を覗き込む。
「ずるずる動いて絡み付いてきやがる」
短い息を一つ吐き、ゾロは続ける。
「こうすると、特に、な」
繋がった部分から滲み出た体液を指ですくうと、ゾロはそれを立ち上がったままのクリトリスに擦りつけた。
くるくると指を動かせば、ナミの息遣いが急激に上がっていく。
そして、ゾロの言葉どおり、それと同じくしてナミの中の圧力は急激に高まっていく。
やがて、ナミの中の肉がヒクリ、と盛り上がるのが見えた。
それは連鎖するように次々と広がり、あちこちでゾロを絞り上げる。
狭まる内部を抉じ開けるようにして、ペニスを抜き差しすれば、みるみるうちに射精感が込み上げ、ゾロはきつく歯を食いしばった。
ナミの中の震えは止むことなく、痙攣の間隔は徐々に狭まっていく。
「イきそう・・・・ね、イきそう」
荒い息の中、縋るような声でそう告げられた時は、助かったような思いがした。
「イけよ・・・俺も、限界、だ」
ん、と小さく応じたナミに、ゾロは限界ギリギリまでに深く腰を突き入れる。
狭い板の上で華奢な身体が激しく揺れる。大きく喘ぎながら、ナミは右手を宙に彷徨わせた。
その手をゾロは掴み、強く握り締める。
ナミの瞳が安堵したように微笑み、そして快楽の頂点へと昇っていく。柔らかな尻と腿が、二度、三度と震え、ナミの身体から力が抜けた。それと時を同じくして限界を迎えたゾロはナミの中からペニスを引き抜くと、滑るペニスを一度強く扱き、湯船の中へ精を放った。
「ナミ・・・おい、ナミ」
軽く頬を叩いてみても、反応がない。
やり過ぎたか、と思いつつ、ゾロはバスタブの栓を抜く。底に沈んでいたシャワーを取り出し、軽くナミと己の身体を流すと、ゾロはナミの身体にバスタオルを巻きつける。
自分は、と見下ろせば相も変わらず透明なままだった。
このままで構わねェか。
小さく溜息をつき、ゾロは全裸のままナミを抱えてバスルームを出る。
同室の女は見張りの筈だから、部屋に連れ帰っても大丈夫だろう。
そんなことを考えながら、キッチンに足を踏み入れたその時、シンクに向かっていた人影が振り向いた。
目が覚めて水でも飲みに来たのか、手にはグラスが握られている。ウソップだった。
声をかける間もなかった。
ウソップの手からグラスが滑り落ちる。割れなかったのは幸いだった。
「ギャワッッッ!!!」
短い悲鳴を上げて、ウソップはその場に昏倒した。
明日はきっと宙に浮く船幽霊の話で持ちきりだろう。ゾロは肩を竦めた。
目を覚ました時、ナミは自室にいた。
あれ? 何してたんだっけ?
部屋は灯りが灯ったままで、ナミは身を起こし、ぼんやりと記憶を辿った。
お風呂に入って、それで―――
身体のあちこちが強ばったように痛み、その痛みでナミは全てを思い出した。
バスタオル一枚を巻いた姿でナミは右腕を上げてみた。脇の辺りに幾つも吸われてできた花が鮮やかに散っていた。
まったく、手加減知らずのあのバカ。
そう言えば、とナミは辺りを見回す。部屋には誰もいない。が、すぐ横からは気持ちよさ気な寝息が聞こえていた。
ナミは音のする辺りへ手を伸ばす。
唇、頬。指で辿っていく。すぐ傍にいるのに、触れることもできるのに姿は見えない。
そのことを切なく思ったその時、不意にゾロの姿が浮き上がった。
ナミは何度も目を擦る。
もう一度、指でゾロの頬を突つく。目に見える頬と指先に感じる触感が一致した。
ナミは安堵の溜息を零し、何も知らずに寝こけるゾロに微笑を向けた。
よかった。戻って。
それにしても、どうしてこのタイミングで、とナミは首を傾げた。
さっき出したのがよっぽど濃かったのかしら?
そんなことを考え、ナミは人知れず頬を染めた。
けど、ちゃんと元に戻ることはこれで立証された訳だ。
ナミは立ち上がり、デスクの引き出しを開ける。
振り向いた時、その手には細い試験管が挟まれていた。
ゴムで栓をされたその試験管の中には、ビールによく似た液体が入っている。それはゾロが僅かに飲み残したものだった。
「さーて、どうしましょうかね?」
ナミはそう呟くと、小悪魔のように笑んでその試験管を覗き込んだ。
終?
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