+裏書庫+
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恋力顛末 |
Date: 2003-09-26 (Fri) |
*"恋力"続き*
空は際限なく青く、波はどこまでも静か。
海には視界を遮るものもなく、風が奏でるのは葉摩(はずれ)の音のみ。
蜜柑の木達が形作る影にまぎれて二つの唇が重ねられている。
そっとあてられただけの軽い口づけ。
その二つの唇の間に隙間を作ったのは扉の音だった。
キッチンの扉が軋む音にナミは驚いて身を起こそうとして、失敗した。
一瞬浮きかけた麦藁帽を押さえる強い力。
離れかけた唇が再び繋がる。
さっきよりも深く。
「―――――!!」
思わず見開いた目にはルフィの瞳が映る。
自信ありげに笑っている悪戯な瞳。
―絶対みつからねぇから―
そんなコトを言っている瞳。
閉じられる扉の音と移動する足音。
更に深まった口づけを受けてナミは目を開けたまま息を殺す。
階下の物音に気を取られ、強張って動かないナミの唇。
その隙間をぬってルフィの舌が潜り込んでくる。
「んぅ!」
抗議するように鳴らされた喉を無視してルフィはナミの唇の裏側に舌を伸ばす。
柔らかく歯茎を舐めれば、閉じていた上下の歯はゆっくりとその入口を開く。
ルフィの舌先がナミのそれを求めて奥へと入り込む。
ふいに生温かく濡れた感覚を表面に受け、ナミはびくりと舌を反らす。
真直ぐに見つめる瞳そのままに、ルフィは躊躇うことなくナミの舌を追う。
まだ硬いナミの舌をほぐすようにルフィはその舌を動かす。
少しざらつく表面を、滑らかな側面を、裏側の窪みをも。
徐々に熱を帯びてくる舌の動き。
あれほど気にしていた足音がナミの耳には届かなくなっていた。
それは単に足音が遠ざかったからなのかどうか。
自らの口の中で発せられる濡れた音、それがナミの聴覚を直接支配している。
次第にナミの身体から力が抜け、それまで身を離そうと肩に込められた力がなくなっていくのを感じ、ルフィはもう一度瞳に笑みを浮かべた。
その頃にはナミはすっかり目を閉じてしまっていたが。
くちゅくちゅと唾液を絡めながら互いに舌を運び合う。
迎え入れ、送り出す行為を何度も繰り返した後、ようやくルフィは押さえつけていた麦藁帽から手を離す。
熱い溜息と共にナミは身を起こす。
掬いきれなかった唾液が細い糸を作り、つ、とルフィの唇に跡を残した。
「あんたねぇ、下に誰かいたのに!
見つかったらどうするつもりだったのよ!!」
悪びれた様子など微塵もなく笑うルフィを見、ナミはもう、と顔を顰める。
が、上気した顔に潤んだ瞳では効果など皆無のようで、ルフィは益々楽しそうに顔を崩した。
「じゃあ、見つかんないトコでだったら、もっとしてもいいのか?」
唇に残された口づけの跡をペロリと舐めて、ルフィはナミを見上げる。
「そういう問題じゃっ!!!―」
絶句するナミを尻目にルフィはくるりとうつ伏せになると、ナミの腿の間に顔を近づける。
「でも、もっと、って言ってるぞ、お前」
くんと鼻を鳴らし益々もって言葉の出ないナミに構わず、ルフィは割に無造作にスカートの中に手を突っ込む。
反射的に閉じようとする脚の隙間にルフィの指先は触れる。
淡く茂み始める箇所から下着越しに指を滑らせると、じきに指先は湿った感触をルフィに伝える。
ルフィはそこから指を離さない。
ただ黙って指を押し当てているだけだ。
それでも熱は伝わる。
ルフィの指先からナミの元へ。
ナミの中心からルフィの元へ。
黙ったまま、ただ互いの熱だけが高まっていく。
根負けしたのはナミの方だった。
「・・・・でも、無理よ、これ以上は」
熱に焼かれて掠れた声は途切れ途切れに響いた。
「まだ誰か下にいるわ、見つかっちゃう―」
途端にナミの中心から、すっと熱が引く。
ルフィが手を引き抜いたのだ。
安心しながらも、ナミは自分の身体が躍起になって物足りなさを訴えているのを感じた。
と、
「じゃ、こっち来いよ!」
やたらと嬉しそうにルフィは飛び起きる。
起きしなにイテテと呟く小さな声を耳にして、ナミは思わず噴き出してしまったが。
「ちょ、ちょっと―」
ルフィに引っ張られるナミは足元をもたつかせながら、蜜柑畑の中に入る。
木立の中は薄暗く、外よりも気温が低い気がした。
枝に引っかからないように中腰のまま所在なげにしているナミ。
構わず地面にベタりと座ったルフィはおもむろに上着を脱ぐと、木の根元に広げる。
「ほら、ナミ。座れよ」
あっけらとそう言うとニコニコしながら待っている。
何となく毒気を抜かれた感じで座った後、ナミはきょときょとと辺りを見回す。
「何だ? 大丈夫だぞ、ここは見つかんねぇから」
ずれた麦藁を被りなおさせ、ルフィは笑う。
「こないだもな、すぐソコにナミがいたけど気づかれなかったしな!」
なはは、と盛大に笑った後、しまったと口元を押さえても後の祭で。
「・・・・・どおりで・・・この辺蜜柑のなりが悪いと思ってたのよっ!!」
ルフィの目の前には、ふるふると震える特大ゲンコツ。
思わず身を竦め、きつく目を閉じるルフィ。
ナミは声を出さずに笑って、その唇に自分の唇を重ねる。
今度はルフィが驚いて目を開ける番だった。
くすくすと笑いながら唇を離すナミ。
「吃驚した? お仕置き兼お返し」
やられた、と苦笑しながらルフィは片手でがりがりと頭を掻き、もう一方の手でナミの背を幹へともたれさせる。
性急な口づけと共にナミのシャツの裾を捲りあげるルフィ。
軽く身を捩ると、乾いていて硬くてそれでも心地のいいルフィの肌が密着する。
それだけでナミは自分の身体が大きく脈打つのを感じた。
焼けた鉄のように真赤な舌が白い肌の上を滑り落ちて行く。
首筋を軽く噛んだ後、くしゃくしゃに捲りあげられたシャツと下着の山を越えて胸へと口づける。
唇の跡を刻み込むような口づけ。
それは口づけと言うには、きついものだった。
痛みにも似た快感がナミの背を反らせる。
「――――――――っ・・ん!!」
口元にまで出かかった声をナミは無理矢理飲み込んだ。
外からは見えない、と言われても大きな声を出せば気づかれてしまうかもしれない。
絶えるように唇を噛み締めるナミをルフィは上目使いに見、にやりと笑う。
「その顔、すげえイイな、ナミ」
スカートを脱がせながらそう言うルフィの頭をナミはポカリと叩く。
「・・見つかったらあんただって困るんだから」
いや俺は別に、と首を傾げるルフィの口をナミが手で押さえる。
「しーっ!」
もごもごと抗議するルフィにナミは人差指で自分の口元を抑えてみせる。
階下では間延びしたサンジの声。
「ナミっさ〜〜〜んvv どちらにおいでですかぁ?」
その後にチョッパーの声。
「なぁなぁ、ルフィもいないんだけど・・・・」
半裸の状態で黙ったまま目を合わせるルフィとナミ。
「あ〜? クソゴムなんざどうでもいいんだ。
俺ァナミさんに今日のスペシャルデザートを召し上がって頂きたいんだからな!
先にクソゴムに見つかった日には全部食われっちまう」
サンジの言葉に拗ねたような顔を見せるルフィとそれを見て笑うナミ。
「・・・行こっか? デザート食べ損ねちゃうわよ」
シャツを下ろそうとしたナミの手をルフィはがしりと掴む。
「ダメだ、お前が先」
階下では自分達を探す足音が絶えず聞こえる。
ナミは溜息と共に小さく首を振った。
「無理よ、こんなんじゃ・・・気になってできないわ」
「気にすんな、すぐに聞こえなくしてやるから―」
ルフィは真直ぐにナミの目を見る。
精悍な男の顔。
情事の時にしか見せない、僅かに潤んだ強くて熱い瞳。
それが身体の熱を上げる。
この身を疼かせる。
下手な誤魔化しなど通用しない。
ルフィの目にはもの欲しそうな自分が映っているのだろう、とナミは思った。
こんなにも欲情している心と発情している身体をもう止めることは出来ない、と。
ルフィは無言のままナミの腰に手をかけると下着を取りさる。
暗がりに息づく白い裸体。
木々の隙間から時たま射しこむ光が眩しかった。
ナミの両足をぐいと広げ、ルフィはその間に自分の身を置く。
そのまま身を屈めるとナミの臍のあたりに一度唇をつけ、次は脚の付け根に。
柔らかなそこを食むようにルフィは唇で挟み、舌を這わせる。
最も疼く部分を避けるように刺激を与えられ、ナミは喉を鳴らして身体を震わせた。
すぐ下に人がいることは十分分かっていたが。
「・・・や、ルフィ・・もっと―」
ねだる言葉の終わらない内にルフィの舌はナミの中心を捕える。
「っは・・・・・・・・・・・・・・くっ!!」
待ちわびた刺激は思いの外大きく、ナミは声を抑えるので精一杯だった。
逃げようとする腰をルフィは抑え、淡く広がる茂みを指で広げる。
粘り気のある水音と共に濃厚な女の匂いが広がる。
甘過ぎる程に甘いナミの匂い。
ルフィは舌を窄め、匂いの元となる体液を舐め取る。
その度に反応する感度のよい肢体と、いっそ辛そうに聞こえる控えめの吐息。
それがルフィを益々前戯に没頭させる。
ぴちゃぴちゃと淫らな水音と止めどない吐息が二人の間を埋めていく。
わいわいと騒がしい階下の音とは対称的な秘め事。
背徳的行為は常に甘美なものだ。
そんな感情があるのか、いつも以上にルフィはナミを責める。
唾液と体液にまみれた突起は限界まで膨らみ、突ついただけで破裂してしまいそうだ。
そこをルフィは唇で挟み、吸い込むように引っ張る。
痛みはない。
それどころか、ナミの腰は更なる刺激をもとめてふらついている。
その思いに応じるようにルフィは突起を挟んだまま、その隙間に舌を伸ばす。
蛇のようにチロチロと頂点を舐めてやる。
強く引っ張られる感覚と柔らかに押しつぶされる感覚。
ナミに痛みはない。
ただ、快楽に乖離してしまいそうな心がある。
―もう、無理―
先に一人でイクなんていやだと思う心を身体が裏切る。
ナミの両足はルフィの顔を挟み込み、両手は頭を抑えつけている。
「・・・っ、もう、ダメっ、早く、はやっ・・・・」
小さな絶叫がルフィを動かす。
手早くズボンを下ろすと、ナミは自らの手でルフィ自身を体内に引き入れる。
ナミの背にする木に両手をつき、ルフィは奥まで腰を進める。
「――――――――んぅぅ!!」
「――――――――くっ」
すっぽりとナミに包まれてしまってからルフィは口をへの字にする。
「うーー、声出せねぇと辛ぇもんだな」
苦笑いを浮かべるルフィの額をナミは、でしょう、と一撫でする。
「だから、キスして。終わりまで、ずっと」
照れたようにそう言って笑うナミを眩しそうに眺めてルフィも笑う。
ナミの腰を抱いて地べたに座りなおすと、ルフィは自分の腿の上にナミを乗せる。
ゆっくりと貫かれていくナミ。
思わず動きそうになる唇をルフィは塞ぐ。
互いの声を殺すように口づけを交わす。
ルフィの腰が大きく振れる度、口づけは深くなる。
吐息と快感を分け合いながら、最後の瞬間まで唇は離れることはなかった。
身体と唇を離し、肩で息をする二人。
汗ばんで火照る肌を風が優しく鎮めていく。
その耳には半泣のサンジの呼び声と走り回るチョッパーの足音。
「・・・・・あいつらまだ探してたんだ―」
「・・・・全然聞こえなかった―」
顔を見合わせて噴き出す二人。
笑いをおさめてから真面目くさってルフィは言う。
「な、全然見つかんなかったろ?」
そう言ってルフィはナミの頭から麦藁を取ると自分の頭に乗せる。
「だから今度から昼間はここで―――――イデッ!!」
今度は炸裂したゲンコツ。
ルフィは涙目で麦藁ごと頭を擦っている。
「・・・・・・だって、もともとはお前が俺を引っ掛けるから―――!!」
ボヤキは目の前に突き出されたゲンコツが封じた。
わたわたとズボンをあげながら蜜柑畑を脱出するルフィ。
「全く――」
と、下ろした手が忘れられたシャツに触れる。
頭に気をつけてたち上がり、身支度を整えるとナミはシャツについた土を払う。
―折角見つかんなかったってのに、あんなカッコで何て言い訳するつもりなのかしら―
にしても、と二、三度腰を捻る。
身体のあちこちが痛い。
無理しすぎたようだ。
誰もいないことを確認してから蜜柑畑を抜け出し、大きく伸びをする。
とある決意をしながら。
釣りは暫く控えよう。
釣った後が大変。
―――特に昼間は、ね。
終
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