+裏書庫+


  前戯 Date: 2003-09-26 (Fri) 


身を寄せることのない戯れ。
それが私達の秘密となった。


動機は判然としない。
理を通し、或いは利を計り行動するのが私だと思い込んでいたから、これは新しい発見だ。
無理に理由をこじつけるとしたら傷の具合が気になったから。
余りにも凡庸そして陳腐。


しぶりながらも同居を受け入れた航海士が何事かを呟いて寝返りをうつ。
見上げる天井には闇が蟠っている。

壁一枚隔てた向こうで、彼は私の侵入に気づきそれを受け入れた。
それが結果であり、後にしてみれば始まりでもあった。


闇が落ちてくる。
ここにはない手のひらが伝えてくる感触に私は集中する。

臍の辺りを目安に腕を生やす。
手探りで服をめくり、下からボタンをはずしていく。
二つ目のボタンをはずすと、指先は傷の名残に触れる。
体の真中に丸く、そこだけ感触を異にする場所がある。生まれたての皮膚の滑らかさが指先に心地よく、初めての時から何度となくそこを撫ぜていた。

恐らくはその時にはもう気づかれていたのだろう。

それから最後のボタンをはずす。
聞こえる筈のない衣擦れの音が頭に響く。

胸は変わることなく一定のリズムで上下している。

若い肌はしなやかで瑞々しく、私は言いえぬ高揚感と共にそこを蹂躙していく。
唇に触れようとした瞬間、寝息が止んだ。

強い力で手首を掴まれる。あの時と同じ。
どんな顔をしているか、見ようと思えばそれは容易い。
けれどもそうはしなかった。
ただ次に起こることを、楽しみに待った。


ぬるり、とした感触に思わず身体が震える。
二本の指が柔らかく、温かいものに包まれる。

食べ物と間違えてるのかと思わないでもなかったが、噛みついてくる様子はなかった。
深く口に含み、飴でも舐めるように舌を使っている。

頭の芯が熔ける。
気づいた時には指を使っていた。
狭いソファベッドで毛布に包まっている状態はとても窮屈だった。

片手で秘所を広げ、もう一方の指が自由に動けるスペースを作る。
濡らさなければ擦れてキツイか、とは杞憂に終わった。
膣口にはもう水が溜まっていて、すくって塗りつけながら指を上下に動かせば全身が心地よい快感に包まれる。

口から指が引き抜かれたようだ。
外気が指にしみる。
指先から手のひらへと向かい、舌が進んでいく。
それは指の付根、股の部分で止まった。

広げられた指の隙間に舌が入り込む。
ぬるぬると押しては引き、何度も股の部分を擦りつける。

その動きに合わせて私は指を使った。
ぬかるむ膣口に指を挿れる。
グチュリと思いのほか大きな音に驚いた。
挿れて、抜いて。身の内のざらりとした部分に指先を擦りつけると、あまりのよさに声を漏らしそうになる。

安らかに眠るあの子は知らない。
すぐ傍でこんなにも淫らな行為が続けられていることを。


付根を嬲ることに飽いた彼は再び指先を含んだ。
今度は浅く。
軽く歯を当て、先端を舌先で転がす。
私もすぐに応じた。

内部を掻く指をそのままに、秘所を広げてながら中指で肉芽に触れる。
息を、声を噛み殺す。
ゆっくりと皮を剥き円を描くようにこねる。

指先に水音を感じる。
中に挿し入れた指はたっぷりとした水の中を泳ぐように動く。

向こうではきつく指先を吸われている。

私は内部に限界まで指を飲み込ませながら、肉芽を摘み上げる。
ぬめり、滑りそうなそこを指の腹で扱くと腰のあたりが一気に熱を帯びる。

ガチガチと何度も歯を噛み締め、私は達した。



「昨日はちゃんとイったか?」
翌朝、健康チェックでもするかのようにあけすけに聞いてくる。

私は微笑んで見せた。
「えぇ、おかげさまで」

そっか、と彼は嬉しそうに頷き、そしてこう付け加えた。
「なぁ、今度はちゃんとお前を舐めさせろよ」

「構わないわよ」
そこで、それは偶然だった。目の端にオレンジの髪が映った。

自然と笑みが浮かんだ。私は提案した。
「だったら、航海士さんも誘って欲しいわ。きっと楽しいわよ」

少年は目を丸くする。
どうでるか。笑うか怒るか慌てるか。

「それもいいな」
声は落ち着き払っていた。そして顔にはぞっとする程人の悪い、それでいて鮮やかな笑み。
女の隠し持つ情欲を深く揺さぶる笑い方。
こんな顔もできるのかと妙に感心した。

彼の中では、その計画を実行することは確定事項であり、後はいかにそれを面白くするかそれだけを考えているようだった。

「悪いやっちゃなぁ、お前。流石に俺でも考えつかなかったぞ、そこまで」

吹き込めばすぐに乗った男が何を言う。
歪んだ視線が絡み合う。

私は帽子をあげ、軽く頭を垂れた。
「お褒めにあずかりまして」



これほど待ち焦がれた夜があったろうか。

扉を開ければ誰もいない部屋は冷え冷えとしている。
雑に重ねられた資材が奥に見える。それを跨ぎ越し、身を隠すように背を預けて座った。

手のひらを見つめる。
乾いた手のひら。
それを咥え、たっぷりと唾液を塗す。

足を開き、その指を既に興奮している肉芽にあてがった。

「あっ・・・・・・・・く」
思いのほか響くその声に重なり扉が開く。

「気が早ぇなぁ」
聞こえてくたのはペタペタと歩み寄る音と呆れたような声音。

彼は資材の上にどかりと腰を下ろす。
扉の方を向いて座っている為、その表情は見えない。

「手伝ってやろうか?」
笑っているようだった。


もうすぐだ。もうすぐもう一度あの扉が開く。

快楽へと続くその扉に、私は手を差し出した。



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