+裏書庫+
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コンドーム |
Date: 2003-09-26 (Fri) |
始まりはうららかな昼下がり。
前日まで落ちつかなかった気候も今朝ほどにはすっかり安定していた。
久々に操舵にかかりきりの状態から開放され、クルーは銘々自分の好きなことに時間をあてている。
キッチンで黙々と本を読んでいたのはチョッパーだった。
手にしているのは、ロビンから譲り受けた古代医学にまつわる本。
呪術レベルと言える医術の発生からを記した史書に近い内容だったが、チョッパーは夢中になって読み込んでいった。
「ふぅーー」
最後のページをめくり、読み終えるたチョッパーは満足げな溜息と共にパタンと本を閉じる。
「あれ?」
きょときょととあたりを伺うも、いつの間にか人の気配は消えている。
さっきまで、何となく集まって皆でお茶を飲んでいたのに。
見れば傍らのカップはもうすっかり冷えきっていて結構な時間が過ぎたことを知らせている。
何となく所在なげにぶらぶらと二度ほど足を揺らしてから、チョッパーはベンチをおりテーブルの上の本を手元に寄せる。
気づけば、もう二冊分厚い本が置いてあった。
あんまり気に入った様子を見て、ロビンが追加していってくれたのだろう。
両手に本を抱えキッチンの扉を開けるのにややてこずりながらも、チョッパーはうきうきと男部屋へ戻る。
と、コツンと何かを蹴飛ばしたような音がした。
足先に感じた衝撃はとても小さいものだったが。
抱えた本の隙間から下を覗くと、長方形の箱が見える。
「???」
一旦本を下ろし、チョッパーはその箱を手にとる。
軽い。
やたらとカラフルな箱はキッチリとビニールで包まれていて、封は切られていないようなのだけれど。
小首を傾げながらチョッパーは箱を振ってみる。
カサカサと中で何かが揺れる音がしている。
中味はちゃんと入っているようだ。
―こ、これってやっぱり―
ニヤリと笑ったチョッパーはそっとその箱を本の上に乗せ、いそいそと男部屋に向かった。
部屋ではあたりに何だかよく分からない部品に囲まれながらウソップが寝ていた。
何かを組み立てている途中で睡魔に敗北したらしい。
ホッとした面持ちでチョッパーは部屋に入る。
こんなモノを持っているところを見つかったら何て言われることか。特にルフィには要注意だ。
こっそりと一人で開けたいと思っていたチョッパーには、この状況は願ったり叶ったりだ。
本を置いてから、ウソップに背を向けるような格好でチョッパーは腰を下ろす。
これから起こることを考えると自然に頬が弛んでしまう。
ワクワクしながらチョッパーはその箱を再び手にとる。
箱には大きな字でこう書いてあった。
『つぶつぶグレープ』
―えへへー、誰だろ? 落としたの―
チョッパーは上機嫌である。
ウキウキとチョッパーはビニールの封を剥がす。
―俺一人で食っちゃうもんねー、このお菓子―
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰が責められようか、彼の勘違いを。
箱にはちゃんとブドウの絵も描いてあったのだから。
但し、ブドウにしてはソレはちょっと長かったが。
そしてブドウ色というよりは黒々と艶やかに輝くつぶつぶだったが。
喜色満面でチョッパーは箱を開けると、そこには丁寧に包装された小分けの物体が一ダース。
「あれ?」
すぐにお菓子が出てくると思ったチョッパーは意外そうな顔をする。
ペラリと一枚を取り出す。
薄い。
中に何かが入っているのは分かるが分かるのだが、如何せん一つ一つが薄い。
チョッパーはソレを鼻先に持ってきてくんかくんか匂いを嗅ぐ。
確かにグレープの香りがする。
ご丁寧にも香りつきらしい。
そしてそれがチョッパーの誤った確信に拍車をかける。
―やっぱりお菓子だ―
もう一度箱を見、チョッパーは頷く。
箱の下部には『たっぷりゼリー』との表示が・・・・・・・・
爪先でチョッパーは中味を押すとプニプニした感触が伝わってくる。
―ブドウゼリー頂きまーーす!!―
心の中で手を合わせながら、チョッパーは勢いよくビニールを破き、ひんやりと冷たい中味を取りだし―――
ビローーーン!!
そのままの姿勢でチョッパーは固まった。
明らかにお菓子ではない物体が突然飛び出し、手に纏わりついている。
チョッパー呆然。
ぶらぶらと揺れるコンドームを手に。
「うわぁっ!!」
一瞬の後、ぬるりとした感触が何とも気持ち悪く、チョッパーは大きく手を振ってソレを振り払う。
べちゃりと床で哀しげにひしゃげるコンドーム(未使用)
大きく肩で息をしながらチョッパーは、そっと落ちたコンドームに近づく。
―いいい、生き物じゃないよな―
恐々爪先で突ついてみる。
当然のことながら中身のないコンドームはウンともスンとも言わない。
摘み上げるように持ち上げる。
ソレはゴムでできているようだ。
引っ張る。
伸びた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
チョッパーは真顔で引っ張る。
更に伸びた。
ゴムなのにどうしてブドウの匂いがするんだろうかと考えながら。
―もしかしたら食べられるのかも―
ペロリと舐めて、チョッパーはしぶい顔で舌を出す。
―うぇぇ〜、まずぅ―
見ればソレは口の開いた筒状になっている。
風船なのかとも思うが、先程の経験からどうしてもソレに口をつけることはできなかった。
―!!―
イイものを発見。
チョッパーは、未だこんこんと眠るウソップの傍に水筒を見つける。
空気の代わりに水を注ぎ込む。
―ブドウには見えないけどな―
出来あがったのはやたらとイボイボな水風船。
ぐにぐにと握ったり、振ってみたり。チョッパーは楽しそうである。
―いっぱいあるからもっと作ろーっと―
どんどんと増えていくイボ風船。
足元に数本を転がし、両手に二本同時持ちでチョッパーご満悦。
と、チョッパーは上箱に貼りついていた紙切れを見つける。
今まで気づかなかったが、箱の中に一緒に入っていたらしい。
二つ折りのその紙を広げると、
『当社の製品をご利用頂き、ありがとうございます』
という型どおりの挨拶の下に"正しい使用法"とあり、何か長いモノにかぶせていく様子が描かれている。
『爪で傷つけぬよう』とか『空気が入らぬよう』とかいったいくつかの注意書きも添えられている。
―被せるのか!!―
目から鱗、とはこのことである。
トナカイだから頭から角とでも言うべきなのか。
問題はナニに被せるのか図からは皆目見当がつかなかったことだ。
―細長いもの、細長いもの―
顎に手をあて考え込むチョッパー。片手にはイボ風船。
いっそウソップに聞いたほうが早いのかな、と振り返ったチョッパーに天啓が。
―これだ!!―(・・・・・・・・・多分大間違いです)
大の字で寝っ転がっているウソップの傍らにちょんとチョッパーは膝をつく。
―傷つけないように―
そっとソレを持ち、
―空気が入らないように―
細心の注意を払って、
ウソップの鼻に。
鼻提灯という言葉があるのだから、鼻風船というものがあったっていいではないか!
―そっかー、鼻にくっつけるものだからイイ匂いにしたんだな―
等と妙な納得をしつつ、着々とチョッパーはコンドームで鼻をコーティング。
イボ鼻完成。
息を吐けば先端がプクーと膨らむ。
息を吸えばぴったりとジャストフィット。
プクー・・・・・ピタッ
プクー・・・・・ピタッ
プクー・・・・・ピタッ・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フガフガッ!!
流石に息苦しくなったのだろう、ウソップは口をパクパクさせて空気を補充している。
面白い!!
ケタケタと笑いながら、チョッパーは爪先で、まるで亀の頭のように膨らむ先端を突っついたりして遊んでいる。
と、どやどやという足音がして、扉が開くと黒いスーツが見えた。
―サンジだっ―
こんな面白いもの見せずにはいられない。
封を開けてない風船もまだまだある。一緒に遊んだらどんなに楽しいだろう。
そんなことを考え、チョッパーは降りてくるサンジを待ち焦がれている。
「馬鹿かよてめぇは」
サンジは梯子を降りながら、上を向いて話している。
誰かと一緒らしい。
「るっせぇよ」
更に上から聞こえてきた声はゾロのものだ。珍しく一緒だったらしい。
「何でんなモン持ってふらふらすんのかが俺には謎だね。
デリカシーつーもんがねぇのかよ、てめぇには」
床に足をついてからも、顔をあげたままサンジは大仰に溜息をついて見せる。
「まぁ、マリモにデリカシーを説いてもしゃーねーか」
「マリモ言うな!」
「てめっ、あちこち一緒にさがしてやった恩返しがこれか!」
ブンと飛んできた片足を難なく避けて、サンジは上を睨む。
「仕方ねぇだろ、ここ最近ずっとアイツ一人の部屋じゃねぇんだからよ。
置いておけねぇってんだから」
だん、と一足飛びに降りたゾロはむくれた顔と口調で、それでもどこか落胆しているようだ。
「したら落としちまって・・・・・・
どうするよ、おい。ルフィかロビンが見つけたら・・・・・・あいつら絶対面白がってナミんとこもってくぜ」
「見つけたらお前んとこにもって来てもらうように言っとけば?」
「言ったら、あいつら探してでもナミんとこ持ってくぞ、絶対だ」
あー、とサンジの脳裏に悪魔的な笑みを浮かべる二人の姿が浮かぶ。
確かにそれは想像に難くない。
「大体よ、てめぇが最初から丸ごとじゃなくて要る分だけ持ってきゃよかったんだろうが!」
「幾つ要るかなんて分かるかよ! 途中で足りなくなったらどうすんだ!!」
それを聞いたサンジは、しらーっとした表情であっそ、と呟くと両手を上げる。
一気にやる気をなくしたらしい。
ゾロはというと、その場でがっくりと項垂れている。
「どうしたんだ?」
心配そうな顔でチョッパーは声をかける。
そこで初めてサンジはチョッパーの方へ顔を向けた。
「あぁ、何でもねぇよ。心配すん・・・・・・・」
パカーーーっ
煙草が床に転がった。
サンジはこれ以上は無理! なくらい口を開けて固まっている。
チョッパーの足元に転がる無数の水入りコンドームはさながら大人のおもちゃ。
妖しく膨張と収縮を繰り返すウソップの鼻。
片手に握り締められ、揺れるイチモツ。
どれを取っても破壊力満点である。
サンジは片手で顎を押し上げ、何とか口を閉じる。
「・・・・え、えぇと・・・・何をしてらっしゃるの? ちょっぱーさん?」
何故か口調は馬鹿丁寧だった。
嬉しそうなチョッパーは邪気の欠片もない顔で笑う。
「えへへー、拾ったんだ。面白いだろー、これ」
大発見とばかりに胸を張るチョッパー。
「もっといっぱいあるからゾロもサンジも一緒に遊ぼう?」
にっこりと差し出されるイチモツ。
―遊ぼうって・・・・遊ぼうって―
ぎくしゃくとサンジは振り返ると、未だ肩を落したままのゾロを突つく。
「・・・・・・おい、ゾロ・・・・見つけたぞ・・・・」
「あぁ?」
渋い顔を起こしたゾロは、サンジの指差す先を見、
パカーーーっ
さもありなん。
「おぃ、お前ら」
胡座をかいて座るサンジの前には、ゾロとその隣にチョッパーも正座している。
「ったく、大事にならなかったのが奇跡だぜ」
ウソップが寝ていたのが男部屋でよかった。
これが甲板かどっかで寝てたら、危うく「鼻に避妊が必要な男」という不名誉な伝説が生まれるところだった。
ちらりと見やると、丁度鼻先が亀化した所でサンジは思わず肩を揺らす。
お菓子だと思って拾ったこと、開けてみたら風船かと思ったこと、で、最終的に何かに被せるものだと分かってウソップの鼻につけてみたことを、しどろもどろでチョッパーは説明した。
「まぁ、現物見た事がなかったんだろうからしゃあねぇところもあっけどよ」
理由は分からねど何やら自分がやらかしてしまったのだろうとチョッパーはしゅんとしている。
益々縮こまったチョッパーを見て、サンジは鷹揚に手を振る。
「いい、いい。元はというとそこのマリモが悪ぃんだから」
ぐうの音も出ないゾロはむっつりと口をへの字に曲げている。
「いいか? お前にも必要になる時が・・・・来る・・・・」
そこでサンジは言いよどみ、ゾロに尋ねる。
「・・・・・のか? チョッパーにも?」
「知るか、俺に聞くな」
うぅむとサンジは暫し黙り、咳払いをしてから続ける。
「来ると仮定して。これは男の身だしなみだ。レディーに余計な心配かけるような男は一人前の男とは言えねぇ」
そしてサンジは封を切っていない小袋を取り出す。
「そこでこれだ。コンドーム」
と言った所で、チョッパーがえぇ! と驚きの声を上げる。
「知ってるぞ、俺。避妊具だ。本で読んだだけだからどんなやつかはよく分かんなかったけど」
隣に置いていた水入りコンドームを取り上げ、チョッパーはしげしげと見つめる。
「これがそうかー」
ちょこんと座って真剣な眼差しで見ているその様は愛らしく、ほほえましい。
手にしているのがコンドームでさえなければ。
「でもさ!」
不意にチョッパーは不思議そうな顔を見せる。
「箱には『つぶつぶグレープ』って書いてあったぞ。だから俺、最初お菓子だと思って・・・』
「ぐふっ!!」
隣でゾロが妙な声をあげる。
「あー、確かにつぶつぶだなぁ、それ」
サンジが呟く。
「でも、避妊具って種が外に出なきゃいいんだろう? 何で外につぶつぶが要るんだろう?」
「げふっ!!」
サンジはただニヤニヤしている。
「それに、何でわざわざブドウの匂いつけてんだろう。俺騙されたよ」
「がふっ!!」
サンジは人の悪い笑みを浮かべたまま口を開く。
「さぁ? それはゾロが教えてくれるだろうよ。なぁ、エロマリモ」
「えっ!? 教えてくれるのか? ゾロ!!」
好奇心旺盛なトナカイのまっすぐな視線がゾロには痛すぎた。
「今日は色々勉強になったなー」
結果オーライ。チョッパーは嬉しそうである。
お前も一つ大人になったよなーなどとサンジに頭を小突かれながら。
ほのぼのとした雰囲気の中、コンドームの口をぐにぐにと広げながら、チョッパーは最期の疑問を口にする。
「そっかー、これがコンドームかぁ。
でもさ、勃起したのにつけるには、これ小さくない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
終
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