■ サンジのシャツ <サンナミ>
「見ィつけた」
苦笑混じりの声音に、うとうととまどろんでいたナミは、僅かにその意識を浮上させた。
シンプルだが気持ちのよい作りのコテージの窓から窓へと風が吹きぬけていく。よく晴れた午後。一人寝には十分すぎるほどの大きさのベッド。昼寝には文句のつけようのないシチュエーション。
ログを同一とする大小様々な群島からなる国に麦わら一行は留まっていた。
"レンタル島"とも呼ばれるその国は、観光を生業とする所謂リゾート地で、訪れた者は予算に応じて島まるごと一つを貸し切ることもできた。
先の航海で小金を得ていた一行は、ナミがそこを気に入ったということもあり、小さめの島を一つ貸し切っていた。ログが溜まるまで一週間のプチ・バカンスである。
白い綿のTシャツとジーンズというラフな井出達で、洗濯物が山と入った籠を抱えて歩いてきたサンジは、通りがかりにふと窓からコテージの中を覗いて足を止め、小さく肩を竦めた。
部屋の中では、サンジのブルーストライプのシャツに身を包んだナミが、まるで無防備な様子でベッドの上に寝転がっている。
暫く行方不明だった気に入りのシャツ。どうりで探せどない訳だ。
「見ィつけた」
くくく、と喉を鳴らせば、眠そうな瞳がサンジの方へと向けられた。焦点が定まるその前に、サンジの姿が窓から消える。ナミの瞳が再び閉じられようとしたその時、カチャリと扉が開いた。
部屋の中に入ると、サンジは左手と腰の間で抱えていた籠を床に下ろし、しげしげとナミの寝姿を見つめた。
大きく捲った袖からのぞくほっそりとした腕は、手のひらを上にして枕の方へと伸びている。いい色に焼けた肌の滑らかさ。サイズの合わないシャツの中で豊かに盛り上がった胸のラインから腰へと視線は移る。腿の付け根の際どい辺りで裾が切れ、そこから形のよい脚が伸びている。
サンジの見つめる先で、ナミの片脚がすいと動いた。シーツの上を爪先が滑り、ほんの少し膝が曲がる。音もなく裾が捲れ、白のショーツが垣間見えた。
笑みはいつの間にか消えていた。代わりに愉悦の色を瞳に湛えたサンジは、ちらと窓に目をやり、それから木製のブラインドを下ろした。ナミの使っているコテージは部屋の半分が海上にせり出している形で、反対側の窓からは海原だけが見える。そちらから覗かれる心配はなかった。
カタカタと木のぶつかる音に、ナミの目がうっすらと開いた。すぐ傍で覗き込むように自分を見ているサンジをナミはぼんやりと見上げた。
「そんなカッコで寝てたら目の毒でしょ? ナミさん?」
サンジの言葉に、ナミは可愛らしく唸りながら眠い目を擦る。
「何で?」
子供のような不明瞭な口調にサンジは思わず頬を綻ばせる。
「昨日なんか、水着で寝てたじゃない。ビーチで」
「そりゃそうなんですけどね」
確かに露出度という点では、昨日の水着の方がうんと上だけれど。
サンジは苦笑を浮かべると、尚も目を擦るナミの手をそっと除けて、前髪のかかる額を優しく撫ぜる。
「何ちゅうか、男心のツボを妙につくんですよね、その格好って」
「?」
小首を傾げるナミに、サンジはちらりと笑みを見せた。
「いいんですよ。分かんなきゃ」
そう言ってサンジは、広く空いているベッドに腰を下ろし、ところで、と言いながら片肘をついてナミの傍に寄り添った。
「今お召しのシャツは僕のものだとお見受けしたのですが、お姫様?」
おどけた口調で囁くと、ナミは済ました顔で「そうよ」と返す。
「時間もあるし、洗濯しようと思ってたんですよ」
「あらそう?」
「・・・・・・返して?」
殊更に真顔を作ってみせたサンジに、ナミはにっこりと笑んでから口を開いた。
「いーや!」
そうして、サンジに背を向けるようにころんと寝返りを打つ。
「まだ眠いんだもん」
そんなナミの様子を呆気に取られた様子で見つめていたサンジは、やがて、低く喉を鳴らして笑いだした。
「そんな我侭を言うんだったら―――」
「何? 無理矢理引っぺがす?」
どこか楽しんでいる風のナミの声に、サンジはニヤリとその唇に笑みを乗せた。
「レディにそんな手荒なことする訳ないでしょう?」
囁く唇が背後から耳朶を甘く噛む。金の前髪がさらりと細い首筋を撫ぜた。
「自主的に脱いで頂きましょうか?」
柔らかな耳たぶの裏表を赤い舌がちろちろと舐めていく。やがて、その先端が小さな穴の中へと挿し込まれていった。
濡れた感触と、濡れた音、そして、拭きかかる吐息が眠ろうとする意識を引き留めにかかる。
耳への愛撫を続けながら、サンジは右手をシャツの裾の中へと滑り込ませる。逃げるように身を縮込ませたナミに構わず、指先は括れた腰から胸元へと無遠慮に上っていく。裾が捲れ、顕わになった脚から腰に向かうラインが煽情的で、サンジは知らず息を飲んだ。
ナミの胸元に侵入した指先は、だが、豊かな膨らみには触れようとしない。つ、と肌の上を滑る指先は、乳房の付け根をなぞるように弧を描く。
「ね、ナミさん?」
耳元から落とし込まれる低い囁きは、何処までも甘い。
ナミは一言も喋らず、無視を決め込んでいるようだが、サンジの指が動く度に、浅く吐く息と共にシャツの膨らみが不自然な格好で上下に揺れ動く。
それを目にし、笑みを形作る唇から長く伸びた舌が耳から首筋へと降りていく。サンジは目の前にあるシャツの襟首を軽く噛み、くいと引いた。
瞬間、焦らされ続け、すっかり立ち上がった乳首がシャツと擦れ合い、その刺激にナミの背がびくりと震える。
「それ脱いで」
言いながら指先は気まぐれに、乳首を摘み、軽く扱いた。
「ああっ、ん!」
短い嬌声が消える前にサンジは指先を離した。
「脱いでくれたら、ちゃんとしてあげる」
再び触れた指先は、触れるか触れないかの力加減で乳首の周囲を撫ぜる。
そして、快楽の世界へと引きずり込もうとする甘い声音。
「胸だけでイかせたげる―――」
そうしてナミは堕ちた。快楽の側へ。
「あぁ、もう!」
観念したような声をあげて、ナミは身体をサンジの側へ反転させる。仰向けの格好で、両の肘をついて僅かに上半身を起こす。
細い指先が、一つ、また一つとボタンを外していくその様を、サンジは満足気な顔で眺めている。
肩がはだけ、それから小麦色に焼けた肌に残された水着の跡が顕わになっていく。
「はい、どうぞ」
どこかむくれた様子でナミはサンジにシャツを手渡す。
「これで目的達成て訳?」
「それが困ったことに」
見上げてくるナミにサンジはウインクを一つ落とす。
手にしたシャツを床に放り投げ、それから着ていた白のシャツをがばりと脱ぐと、同じように床に放った。
「目の前に別な目的ができちゃって」
サンジは苦笑を浮かべながら片手でジーンズのボタンを外し、ジッパーを下ろす。
「それって本末転倒」
「仰るとおりで」
密やかに笑いながらサンジはゆっくりとナミの上に身を沈めた。
costume request ゆき様
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